どれがお好き ? コロナ禍で5名が撮ったジル サンダーのファッション広告写真。
「 “ファッション写真” とはなんぞや?」
という命題があります。
建築を撮れば “建築写真” になり、料理を撮れば “料理写真” になる。
でも服を撮れば何でも “ファッション写真” ってことにはならず。
学術的な定義づけなんぞは、まーどーでもいいとして(よくはないんですけど)。
「プロのモデルに最新の服を着せて、大勢のスタッフが作り込んだビジュアル?」
この答えは正解。
「ファッションブランドの広告のことでしょ?」
これも正解。
「現代ならインスタ、TikTok、WEARなんかの自撮りだと思う。TikTokは動画だけどさ」
う〜ん微妙なんですが、私の知覚だと正解。
Pen『完全保存版 21世紀・写真論。』(2020年8月17日発売)のファッション写真のコーナーを担当させていただき、改めていろいろ考えました。
写真を扱う美術館の学芸員さんや、アート本書店のディレクターさんにも話を伺ったり。
意見が一致する点もありつつ、立ち位置の違いからの温度差もありつつ。
常日頃私は、ファッションが村社会の中でヨイショされ、村人自身でワッショイしがちなのに居心地の悪さを感じてます。
(自戒の念も込め)
門外漢の人をも魅了するファッション写真なら、誰もがスマホ・フォトグラファーになったいまの時代に、 “創造的なファッション文化” に興味を持つ人を増やす入り口になるかもしれないなあ。
そんなことを思いましたよ。
……でもしかし!
ネットや雑誌で目にするブランド広告は、地味好きな日本人(私のこと)の趣味に合わないゴージャスなものが主流。
もしくは、「若い頃ならカッコいいと思ったかもな」の、粗野で反逆的なもの。
そんな中で近年、「趣味いいな〜、ステキだな〜」と毎シーズン思うのが、
ジル サンダーのキャンペーン写真です。
撮る人が毎回違うのに、テイストが統一されて軸がブレないのが素晴らしいです。
ブランドを率いるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻の表現したい世界がクリアで、ディレクションも明快なのでしょう。
(または現場を仕切るアートディレクターの実力か !?)
服の持つ品格にフォトグラファーが感化されている面もありそうです。
そのジル サンダーの最新となる20-21年秋冬ビジュアルが到着しました。
新型コロナによる各都市のロックダウンの中で撮影されたそう。
メイヤー夫妻が今回テーマにしたのは、ジル サンダーをよく知る(付き合いのある)各国の5名のフォトグラファーに服を渡し、彼らの周囲の土地や家族らと共にパーソナルな撮影をしてもらうこと。
これまで世界各地を旅してきたジル サンダーが巣ごもりするとどうなるか、そんな目線で眺められるシリーズになっています。
★ 私的にナンバーワンな、オリヴィエ・ケルヴェンヌの撮影。
元はドキュメンタリー写真家だったらしいオリヴィエ・ケルヴェンヌ。
ジル サンダーの20年春夏のキャンペーン写真(Pen『完全保存版 21世紀・写真論。』p75に掲載)を手掛けました。
メイヤー夫妻がキュレーションしたベルギーの雑誌『A MAGAZINE curated by(エー マガジン キュレーテッド バイ)』では夫妻の美しいポートレートも撮影。
エー マガジンは以下のアドレスのニュース記事で紹介してます。
www.pen-online.jp/news/fashion/jil-sander-a-magazine/1
いわゆるスターフォトグラファーじゃありませんが、風景と人物の調和と、光と影の対比の美しさはさすが。
夫妻のお気に入りさんなのも納得です。
広告のロゴの下は人物名、フォトグラファー名、撮影場所などが記載されたキャプション。
写真の意味をしっかり示すものです。
ケルヴェンヌが撮った人は、NANAKO OKAとの記載が(どなたでしょう?)。
場所はフランス、時期は20年4月。
ロックダウンの社会的記録でもあるのです。
★これもまた、ファッション写真
イギリス出身のクリス・ローズが本国で撮影したのは、限りなく抽象的な絵。
馬だけでもロゴが入るとほら、途端にファッション写真に。
1980年代のコム デ ギャルソンの広告(カラスの巣の写真)や、90年代のヘルムート ラングの広告(芸術写真家ロバート・メープルソープの作品そのまま)が思い起こされます。
ファッション広告はそのブランドの服が写っていないケースも多々あるのです。
見る人を選ぶやり方ですけども、これもまた美学。
★日本滞在歴の長いフォトグラファーも参加
スウェーデン出身のアンダース・エドストロームによる、自然の風景と静かな人物とが対話しているような連作は、とてもジル サンダー的です。
服の魅力も引き出され、今回のなかでいちばんファッション広告らしいかも。
活動拠点が日本……だった(いまも?)人で、『パープル』 マガジンやマルタン マルジェラの撮影で知られる人。
被写体名がMai Edströmとなってますから、日本人の奥さんか娘さん?
撮影場所はスウェーデン。
★ブツ撮りシリーズは、女性らしい感性。
スウェーデン出身でロンドン在住のリナ・シェイニウスは、ブツ撮り手法でトライ。
誰が撮ったかを意識するのは作品を判断する目にバイアスが掛かりがちですから良くない面もあるのですけど、
昔モデルをやっていたほどの女性フォトグラファーが撮ったと知ると、セクシュアルな写真にも生活のリアリティを感じちゃいますよね。
★大御所、マリオ・ソレンティは妻を。
大御所ファッションフォトグラファーのマリオ・ソレンティは拠点のニューヨークの公園で、妻であり女優のメアリー・フレイを撮影。
ソレンティはジル サンダー19年春夏キャンペーンを日本で撮り下ろして、それはそれは素晴らしいものでした。
えー、ファッション周辺カルチャーの大物であり、私ごときが何を言ってもビクともされないので調子に乗りまして、正直な感想言っちゃいます!
今回はいいと思わないですっ \(^o^)/
(バンザイでごまかす)
あ、いえ、ほかの人たちと比べちゃうとですよ。
写真としては何の文句もないんですよ。
でも、「この表現ってジル サンダーじゃなくてよくね?」と思えちゃうだけですよ。
こういうさぁ、私のような思い込みの激しい輩がいるからファッションヲタクってのは面倒くせ……(以下、省略)
クリエイティブ ディレクション: Lucie and Luke Meier
アート ディレクション: Heiko Keinath
フォトグラファー: Anders Edström - Olivier Kervern - Chris Rhodes - Lina Scheynius - Mario Sorrenti
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