ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」

ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」

まずはご覧いただきましょう。
「ジル サンダー 2019-20年 秋冬」
のキャンペーン写真シリーズを!


とその前に、予備知識をちょっと。
ブランドは現在ルーシー&ルーク・メイヤー夫妻がディレクションしている、ドイツ生まれのモード。
“品性”と“知性” がアイデンティティともいえるストイックなテイストです。
写真のロケーションは、イギリス北部のスコットランド。
ケルト民族の土地柄ですね。
ケルト音楽を思い浮かべつつ、写真を眺めてもいいかもしれません。
「そんな音楽知らない」、ですって?
いえいえきっとご存知ですよ、「無印良品」の店内にいつも流れてますから。
あれがケルト音楽です。


それではっ。

ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」
ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」
ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」
ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」
ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」
ひっさびさに心に響いたファッション広告、「ジル サンダー」

いかがです??
静寂、安らぎ、趣味の旅、心を探す旅。
ゴージャスな富裕層の世界の真逆ともいえる、ある意味でアンチテーゼなジル サンダーの表現です。


私はケルト文化好きですから、もうワクワクしちゃいますが。
皆さんが心惹かれるかはわからないものの、
「ほかのブランドとは目指す道が違うな」
とはお感じだと思います。


1980〜90年代のファッション写真では、さほど珍しくなかったアプローチです。
素朴な風景と高級ファッションとを融合させることは。
「自己顕示でなく、心の充足のために服を着る」
という考え方もしかり。


撮影したフォトグラファーは、ナイジェル・シャフラン(Nigel Shafran)さん。
ファッション誌のページでは、

https://www.mapltd.com/post/nigelshafran/shootsfashiononleeleesobieskiforame/

なんかも。
こちらは、「プロモデルにスタイリストがお高い服を着せ付けた感」ありありですけども、
気取らないチャーミングな写真です。
 

★ 以下、蛇足なお話。

 

一般の広告写真は、アートディレクターが精密に描いた絵コンテを再現した、
計算とつくり込みの世界。
どこか絵空事と言いますか、奥行きのあるムードに欠けるケースもあります。
撮るときに面白いハプニングが起きても度外視されるのが通例です。


でも仕方ないですよね、クライアントだってリスクを回避しないといけませんから。
「アートをつくってるワケじゃない」って話ですよ。


ところがファッション広告になりますと、
ブランド側に 「アートが好き」って人が多いこともあり、
予定調和じゃなくクリエイティブスタッフの現場の創造性をベースに制作を進める場合も多く。


今回ご紹介したジル サンダーの写真シリーズも、そうした印象のあるもの。
実際の制作プロセスは把握してないんですけど(すみません、ファッションライターなのに)。


実は今回これを取り上げたのには理由があります。
それは久々に、「ステキ !」と思ったキャンペーン写真だったから。
デジタルで人の肌をツルツルにすることもなく。
ゴージャスなソファの上で山のようにバッグを抱えたスーパーモデルの起用でもなく。
ストリートでもクラブパーティでも、不良でもデカダンスでもエロスでもなく。


旅行に出掛けても屋外で本を読んでるような人たちに向けたアプローチって、
ホントに少なくなりましたよね。
ファッションって誰のための、なんのための存在なのか。
多様性がうたわれながら、セレブの口コミ発信ばかり狙うブランドが増えて。
私なんぞは庶民ですから、
「いつのまにか息苦しくなったモンだな」、と思ったり。


商売ですからね、すぐに効果が出るマーケティング発想に飛びつくのはわかりますよ、もちろん。
売れないと、おまんま食べられないですもん。
その意味ではジル サンダーがやってることってリスキーなんですよ。
かなりの高価格帯な商品を、誰に買ってもらえるのか。
誰に着てほしいのか。


でも、「気になるブランドはジル サンダー」という声が
私の仕事の周辺でもよく聞かれるようになったのは、
彼らの軸をぶらさない表現方法があればこそでしょう。
独自の目線こそが、心に響く。


頑張ってください!!
(がんばれ、って言われても…… )