大人目線で絵本を選び、‟読み聞かせ”を自分の楽しみにする。【いまだからできること #3】
毎晩、寝る前に絵本を1~2冊読み聞かせるのが子どもとの約束になっている。新型コロナウイルスの影響で休日は家に籠るようになったため、読み聞かせを求められる機会がめっきり増えた。文字量が多いものを子が好むようになってきたこともあり、「ちょっと大変だな」と思ってしまう自分が……。これはいけない。せっかく普段より取れるようになった親子のコミュニケーションの時間だ。よし、前向きに読み聞かせに挑もうと、「親目線」で絵本を選んでしまうことにした。自分にとっての基準は以下だ。
■絵やデザインが美しい
■海外の作品
■現代の作品
まず、絵やデザインが美しいのは、こちらのモチベーションを上げるためにも譲れない。次に海外の作品というのは、もともとは自分の「どこかへ行きたい欲」を満たすためにほかならないが、絵本を通して子どもと旅するように、世界に思いを馳せてみるのもいいものだ。最後に、現代の作品であること。これはクリエイターの「いまの気分」を感じられれば親にとっても刺激になるし、無意識に子どもを旧態依然とした価値観などに晒すことを避けられる。
以下に紹介するのは、そんな目線で選んだにもかかわらず、子ども(4歳11カ月女児)が気に入ったものばかり。親が気に入ったのに子はまったく興味を示さなかった、なんていう失敗を経て行きついた5冊だ。わが家と同じように、お子さんと過ごす時間が増えた親御さんの絵本選びの一助になればうれしい。(編集 NH)
『おーい、こちら灯台』
オーストラリア出身、ニューヨーク在住の著者、ソフィー・ブラッコールが描くのは、ある灯台守の人生だ。灯台守?と思うかもしれないが、これがめっぽうドラマティックで面白い。驚くのは海の絵の描きこみ方だ。波の表情一つひとつが、繊細に表現されている。どのページも非常にグラフィカルで、飽きさせない。灯台を知らなかった子どもも、わくわくして読んでいた。
最後、機械仕掛けの灯りが設置され、灯台守はその役目を終える。機械化が進むと、人間の仕事がなくなることもある。そんなメッセージも伝わってくる。
『ぺろぺろキャンディー』
著者は、パキスタン生まれでカナダ在住のルクサナ・カーン。同じように移住したのであろう、ある移民一家が描かれている。長女のルビーナは、通い始めた小学校で誕生会に誘われる。うれしそうに家族に報告するが、ヒジャブを身に着けたお母さんは、誕生会という文化が理解できず、一緒に行きたいと駄々をこねる次女のサナも連れて行けと言うのだ。しょうがなく連れて行ったルビーナは、それ以降、誕生会に呼ばれなくなってしまう。
時を経て、大きくなったサナが誕生会に呼ばれる。すると今度は末っ子のマリアムが一緒に行きたいと駄々をこねるのだが……。親よりも柔軟に異文化に溶け込む子どもの様子が、リアルに描かれている。登場人物がどうしてその行動をとったのか、子どもと対話しながら読むのもお薦めだ。
『3人のママと3つのおべんとう』
盛り上がる韓国フェミニズム文学の流れをくむ一冊。『82年生まれ、キム・ジヨン』の翻訳を手がけた斎藤真理子が訳している。登場するのはある集合住宅に住む3人のママだ。301号室に住むジソンさんは建設会社の次長を務めるワーキングマザー、202号室に住むダヨンさんはイラストレーター、101号室に住むミヨンさんは専業主婦。同じ幼稚園に通っており、ママたちが遠足のお弁当づくりに奮闘する様子が描かれる。それぞれの事情で忙しい中、3人とも春の訪れになかなか気づかない描写が印象的だ。
ママの視点を軸にした絵本はあまりないが、よその家のママの生態を知りたがっていた子どもは、興味津々の様子だった。
『フランクリンの空とぶ本やさん』
この本はまず装丁がいい。アナログレコードのような判型で、ジャケ買いしたのだが、中身も当たりだった。描かれるのは、読書好きのドラゴンと、本好きなルナという少女との友情だ。ところ狭しと本が並ぶ岩穴に住むドラゴンは、本当は心優しいのに、人間から恐れられていた。ところがルナは違った。読書という共通の趣味によってふたりは友達になったのだ。
ふたりが好きな本の中の世界が、活き活きと描かれているところが魅力的だ。ローラースケートで戦うアーサー王の物語やねずみが電動泡だて器でつくるお菓子の本などがユーモラスにイラスト化され、ところどころに差し込まれている。それらの本を、「どういうストーリーなんだろう」と子どもと想像するのが楽しい。
『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート 』
アメリカを舞台に、4つの時代の4つの家族による4つの物語が描かれる。話の軸になるのは、西欧文明における最古のデザートともいわれる「ブラック・フール」だ。各時代ごとに、どんな状況下でどんな道具を使ってつくられていたのか、時代を追う形で紹介している。つくり手は黒人奴隷だったり、女性の召使いだったり、家族のお母さんだったりするのだが、共通して伝えるのは、手づくりのデザートが人々に喜びをもたらすということだ。最後の2010年代では、お父さんと息子がふたりで、電動泡だて器を使ってつくる。
このブラックベリー・フール、巻末にレシピが付いているので、ぜひお子さんとつくってみてほしい。ベリー類と生クリームさえ入手できれば、簡単にできるし、間違いのない味だ。