『ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年』展は、レアな作品が目白押し。
2019年12月4日から国立新美術館で始まった展覧会「日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」。ブダペスト国立西洋美術館と、ハンガリー・ナショナル・ギャラリーから約130点の作品が来日しています。ルネサンスから近代美術まで、展覧会タイトルのとおりヨーロッパの美の歴史400年を一気に見られる展示です。この美術館から作品が日本に来るのは25年ぶりとのこと。というわけで普段なかなか見ることのできない、レアな作品が目白押しです。
まず入るとクラーナハが2点! この時点でテンションが上がります。クラーナハは2016年に国立西洋美術館で、日本で初めての大回顧展が開かれて話題になりました。クラーナハの作品にはデリケートな板絵が多いので、そう簡単にヨーロッパから日本まで運んで来られないのです。
今回、来日をはたしたのは「不釣り合いなカップル」と呼ばれる画題のもの。1点は年老いた男性と若い女性、もう1点は老女と若い男性と年齢差のある男女の組み合わせです。最初の絵をよく見ると男性の手は女性の胸に、女性の手は男性の財布に延びています。2枚目の絵では男性の手は老女の肩に置かれていますが、老女は男性にお金を握らせています。お金で買える愛は真の愛ではない、という教訓が込められています。
続いてイタリア・ルネサンスの画家が登場します。こちらはなんとなくレオナルド・ダ・ヴィンチぽいなあ、と思ったらベルナルディーノ・ルイーニでした。彼はレオナルドの弟子ではありませんが、熱烈なフォロワーの一人であり、レオナルド作品の模写も多く行っていました。人物の表情だけでなく、足元の岩や花、背景の木もレオナルドの描くものに似ています。
彫刻のコーナーも面白いです。このルカ・デッラ・ロッビアの《キリストと聖トマス》はフィレンツェのオルサンミケーレ教会のための見本として作られたと思われます。が、なぜか彼はこの注文をとることはできず、かわりに受注したのはアンドレア・ヴェロッキオでした。
ここからはいよいよハンガリーのコーナーです。《紫のドレスの婦人》はこの展覧会のキーヴィジュアルにもなっている、「ハンガリーのモナ・リザ」的存在。シニェイ・メルシェ・パールの作です。モデルは画家の妻。美しい女性のドレスの紫と草花の緑が鮮やかな対比を見せるこの絵は大人気となり、写真や版画、切手などさまざまな形で複製が流通しました。
ところがシニェイ・メルシェがそのあとに描いた《ヒバリ》は激しい批判を受けます。神話や歴史上の登場人物でもない無名の女性の裸体を描いている、というのが理由でした。マネ《草上の昼食》も似たような理由で“炎上”しています。この絵はマネより20年ほどあとに描かれたものですが、さらに激しく炎上したのだそう。なぜ女性が裸なのか、その理由がわからないので人々はとまどい、よけいに怒りを覚えたのかもしれません。
こちらの2枚は象徴主義のもの。左はフェレンツィ・カーロイ《オルフェウス》です。オルフェウスは彼が音楽を奏でると動物たちもうっとりと聞き惚れるという神話上の人物ですが、ごく普通の青年の姿で描かれているのがちょっと奇妙な感じです。右はジュール・ジョゼフ・ルフェーヴルの《オンディーヌ》。水のニンフを描いたこの一枚は明らかにアングルの《泉》を参照しています。
ブダペストにはずいぶん前の夏に行ったきりです。レヒネル・エデンという建築家の建物を見に行きました。ブダペストは温泉で有名な街ですが、そのときは記録的な猛暑で、ビルの壁の温度計が「42℃」と表示しており、それは温泉のお湯の温度かなー、と思ったら気温だったということも。そのときにはあまりの暑さに美術館には行きそびれました。この展覧会を見るに、まだまだお宝がありそうです。ぜひまたあまり暑くないときに行ってみたいものです。
「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」展は国立新美術館で2020年3月16日までです。