コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

先日のテレビのニュース番組で放映していた、東京ビッグサイトの周囲を覆い尽くすばかりの入場待ちの大混雑に衝撃を受けました。
マンガ同人誌の販売やコスプレイヤーが集結する「コミックマーケット96」の光景でした。
「どれだけの人が来た??」と思ったら、4日間の来場者がなんと73万人!
会場に入るまで5時間掛かった人もいるようで、人気ブースだとさらに2時間待ちという凄さ(正確な調べではありません)。


それに耐えてでも行きたい魅力があるってことです。
私の専門分野のファッションで置き換えると、最大のイベントはタレントも多数出演する「東京ガールズコレクション」でしょうが、一日だけとはいえ入場者は約3万人。
残念ながらファッションは完敗です……。

(2011年のNYメトロポリタン美術館でのデザイナー、アレキサンダー・マックイーンの回顧展が合計65万人以上を動員したことはありますが)


コミック市場、そりゃそーか、楽しいですよね。
非日常な世界で夢があり、ワクワクさせてくれる。
小難しい理屈が語られず、子供から大人まですっと作品の中に入り込める。
「エンターテインメント強し」です。



えー、今回のお話の主題は、行ってきた「アート展」です。
ただし私には「エンタメ」とも感じられた魅惑の展覧会。
楽しいです。
真夏の暑さや都会暮らしを忘れ、心のにごりがクリーンになっていく涼しい体験。


事前にこの展覧会を紹介する、ロジカルなアート記事を幾つか斜め読みし、
「来場者に思考を要求するメッセージ系かあ。知恵熱出て倒れそう」
と敬遠していました(バカですみません)。
しかし、無料で観られることもあり気軽に足を運んでみたところ、
思いもかけずググッと心を持って行かれました!

現代フランスを代表する(と各記事が口を揃える)、クリスチャン・ボルタンスキーの展覧会です。


★ エスパス ルイ・ヴィトン東京
「CHRISTIAN BOLTANSKI - ANIMITAS II」展

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

「ルイ・ヴィトン 表参道店」のゴージャスな店内に入り、すぐ右にきゅっと曲がりエレベーターで7階へ。
エレベーターから一歩足を踏み出すと、秋の夜のごとく耳に優しい虫の鳴き声が耳に入ってきました。
この時点で「うわ、気持ちいい」なんですが、さらに進むと鼻をくすぐる懐かしい香りが。
そう、枯れ草の匂いが広がっていたのです。


ワクワク気分が高まり薄暗い部屋に入ると、枯れ草が敷き詰められた中に公園のような道がしつらえられ、大きなプロジェクターで森の映像が投影されていました。

スピーカーから流れている音は、風鈴とセミの鳴き声。
日本の夏の屋外に似た世界です。

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

映像は風鈴をぶら下げたリアルな屋外。
でもこれは映像であり、いわばヴァーチャルな景色。
なのに干し草は本物。
肌が感じるモノと、目が理解しているモノとを、自分の脳が同一の存在と考えようとする不思議な体験です。


さらに素晴らしいのはエスパス ルイ・ヴィトン東京ならではの会場様式で、

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?
コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

この日は8月中旬の、夕方4時ごろ。
高い外壁ガラスから、太陽の光が差し込んでいます。
自然光も作品の一部にできるのがこの小さな会場の良さ。
乱立するビルも透けて見え、ここが都会のド真ん中であることを強く意識させます。


今回はガラス全面に透過性の黒シートが貼られ、部屋が少し暗くなる演出も行われました。
ボルタンスキー氏自身が設営をディレクションしたそう。
日光による作品への負担うんぬんも、作家本人の承諾済みってことですね。


もう何重にも絡み合い、でも穏やかで居心地のいい空間なのです。

作品の意図の一つは “鎮魂” でしょうし、それはしっかりと心で感じ取れました(理屈でなく)。
教会の中にいるのと似た気分ですね。

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?
コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

ベンチを挟んで向かい合う2つの映像による空間表現が今回の展覧会です。
風鈴の森は日本で、対抗側の上写真はイスラエル。
映像の作品名は日本が「アニミタス(ささやきの森)」(2016年)、イスラエルが「アニミタス(死せる母たち)」(2017年)。


会期は、11月17日(日)まで。
差し込む光が強いと映像が浅く白っぽくなりますので、映像重視な人は夜に行くのがベストかと。



★ 国立新美術館
「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」

コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?
コミケに行く? それとも「ボルタンスキー展」に行く!?

山積みの服。天井から下がっている大勢の顔写真は、ボルタンスキーの過去作品で使われた、“ボルタンスキーにとっての” 「亡霊」。

そして同時期に同じ作家の、もうひとつ大きな展覧会が開催中。
マスコミではこちらの東京・六本木(乃木坂)「国立新美術館」の大回顧展がメインに紹介されますよね。
こちらも観に行きました。


……で、感想はですね、ええと……、
ライターが本音をにごす文章を書くときの常套句を、ここで使わせていただきます! それは、


「好みが分かれる」
もしくは、
「観る者を選ぶ」


う〜ん、私は「選ばれなかった者」だなあ。
イメージはダーク、徹頭徹尾ダーク。
照明もダーク。
会場内に響き渡る音も、人の不安を煽るもの。
心臓の鼓動、血を吐く男。


出口を過ぎるまでに頭に浮かんだ言葉は、


<死者・遺影・追悼・祭壇・墓・事故・疫病・20世紀の負の遺産・ホロコースト・ホラー・死神 ……>


「ボルタンスキーの作品本に掲載されてるような、
ヨーロッパの城のように歴史的な場所での展示なら印象がだいぶ違って、すっと入り込めたかもね」
と、一緒に観に行った人と話しました。

しかし、
「インスタとかでハッピーな世界をいつも目にしているいま、真逆の世界に包まれたことは有意義な体験だった」
とも意見が一致。


アートは現場で体感してナンボですし。
こちらの会期は、9月2日(月)まで。
関心ある方はお急ぎをっ!



photos © 高橋一史

※この記事を紹介する目的以外の、まとめサイト、SNS、ブログなどへの写真の無断転載はご遠慮をお願いいたします。