世界でたった151本! 1本800万円のウイスキー「グレングラント65年」をレビュー

  • 文:西田嘉孝
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グレングラントがリリースする世界で151本のみしか生産されていない貴重なウイスキー。「グレングラント65年 スプレンダーズ・コレクション」の実力とは?

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世界で151本のみがリリースされる「グレングラント65年 スプレンダーズ・コレクション」。グレングラントの新たな歴史を切り拓くリリースだ。

アートとウイスキーの融合

リリース本数151本のうち日本への割り当てはごく限られた数になるため、抽選での販売(抽選応募期間は2025年4月22日から5月25日)となる「グレングラント65年 スプレンダーズ・コレクション」。1958年に蒸留され、特別な熟成庫で65年以上に渡り熟成を続けてきた一樽のみをボトリングした、まさにグレングラントの歴史そのものとも言える希少なウイスキーのコレクションだ。

発売に先駆けて3月下旬には、同コレクションのグローバルローンチイベントが香港で開催された。会場となったジ・アッパーハウス香港に集ったのは、各国から招待されたジャーナリストやメディア関係者、そして現地のウイスキーファンたち。

華やかに彩られた会場では、2013年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で初披露された「レインルーム」などを代表作に持つ、ロンドンのデジタルアート集団「ランダム・インターナショナル」がペインティングパフォーマンスを披露。会期中には、デジタルデータを再現不可能な“絵画”ともいうべきアートへと変換するピクソログラフィーの手法を使い、時代を超えた「グレングラント65年」の軌跡や移りゆく自然を象徴する65点の作品がゲストの目の前で制作された。

TheGlenGrant-4610.jpg香港のアートウィークに合わせ、ジ・アッパーハウスで開催されたグローバルローンチイベント。グレングラントとのコラボレーションによる、「シーズンズ」と題されたピクソログラフィーパフォーマンスが披露された。

香港のオークションハウスなどではいまや、その資質を人々に認められた限られたウイスキーがアート作品のように取引されている。グレングラントをベースに四季のイメージで創作されたカクテルを飲み、現代デジタルアートの最先端に触れる。まさにウイスキーとアートが融合した非日常な空間に人々が十分に酔いしれた頃、グレングラントの守護者でありマスターディスティラーのグレイグ・ステーブルが挨拶に立った。

「ランダム・インターナショナルによる驚くべきパフォーマンスを楽しんでいただけたと思います。次は私たちが皆さんに素晴らしい作品をご紹介しましょう。当社のスプレンダーズコレクションの最初の作品となる『グレングラント65年』です。このウイスキーはたったひとつの樽の中で65年以上熟成されてきました。特別な樽や熟成環境、そして緻密な熟成の管理によって、驚くべき香りと味わい備えたウイスキーへと成長を遂げた、世界に151本のみしか存在しないアメージングなウイスキーです」

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偉大なるマスターディスティラーとして知られたデニス・マルコムの後を受け、2024年にマスターディラーに就任したグレイグ・ステーブル。蒸溜所の責任者として、デニスとともに長く働いてきた。

そんなグレイグの言葉に合わせ、会場に設置された舞台にその姿を現した「グレングラント65年」。グレングラント蒸溜所が所有する“最も貴重な樽”からのリリースとなるスプレンダーズ・コレクションは、同蒸溜所が誇る美しい庭園(スプレンダーズ・ガーデン)に着想を得た新たなシリーズ。

その歴史的な第一歩となる「グレングラント65年」は、グラント兄弟が創業した蒸溜所を継いだメジャー・グラントが世界を旅し、希少な植物を持ち帰って整備した庭園にいまも咲く、ヒマラヤンブルーホピーからのインスピレーションを受けている。会場で初めて披露された「グレングラント65年」のその美しい装いに、参加者たちからは感嘆の声があがった。

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超高級ウイスキー市場に参入する資格

メビウスの輪を思わせる木製のクレードル(飾り台)と、“幻の青い花”とも称されるヒマラヤンブルーホピーを象った繊細な細工がされたデカンタは、スコットランドの木工デザイナーであるジョン・ガルビンとグラスストルム社が手掛けたもの。

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ジョン・ガルビン(写真右)は「日本は私の作品に大きなインスピレーションを与えてくれる国。日本のクラフツマンシップをとても尊敬しています」と話してくれた。

2023年に英国サザビーズのオークションで8万1250ポンド(日本円で約1500万)の値が付いた「グレングラント デポーション70年」の装いを担当したコンビでもあり、グラスストルム社は同年に21万2500ポンドで落札された「ザ・ビジョナリー(グレングラント68年)」のデカンタも手掛けている。他にも、両者とも名だたる蒸溜所の最高級ウイスキーのデザインに数多く携わるなど、そのクラフツマンシップと作品性の高さでスコッチウイスキーに新たな価値を吹き込んできた。 

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ウイスキーを支えるクレードルには良質なチェリー材を使い、メビウスの輪のようなフォルムは永遠の時間を象徴する。クレードルもデカンタも、すべて丹念な手仕事で仕上げられる一点ものだ。
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中心に収められた手吹きのデカンタは、植物の命の始まりである「種」を象徴。世界で最も希少な花のひとつとされるヒマラヤンブルーホピーが、繊細な彫刻であしらわれている。

グレングラントは2022年に、スコッチウイスキー業界への大きな貢献でも知られる伝説のマスターブレンダー、デニス・マルコムの勤続60周年を記念した「グレングラント60年」を発売。その後に前述した「70年」や「68年」を発表し、超高級ウイスキー市場への参入に成功した。

日本でも大人気の「グレングラントアルポラリス」や、「12年」から「18年」、そして昨年には「21年」や「25年」といった「グラスハウスコレクション」をリリースするなど、幅広いレンジを持つグレングラントが、超高級ウイスキー市場に参入するのはいわば必然とも言える。

スペイサイドのローゼス地区で1840年に創業した蒸溜所でいまも使われているのは、スピリッツを美しく磨き上げる精留器が取り付けられた、背が高くユニークな形状のポットスチル。これは理想の香味を実現するためメジャー・グラントがデザインしたものであり、そうした唯一無二のポットスチルでの蒸留や、バックバーンと呼ばれる小川から引いた水での仕込み、隣接する広大な庭園の美しい景観からのインスピレーションまで、グレングラントには180年以上に渡り受け継がれてきた伝統がある。

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グレングラントが誇る美しい庭園。ウイスキーの蒸溜所は数あるが、種々の植物が生い茂るこれほどまでに見事な庭園を持つのはグレングラント蒸溜所の魅力だ。

彼らとウイスキーファンにとってさらに幸運だったのは、ゆうに半世紀以上もの時を経ていまも熟成のピークへと向かう最良の原酒が蒸溜所に残されていたことだ。

「今回リリースする『グレングラント65年』は、1958年に蒸留され、特に品質の高いオロロソシェリー樽で熟成されたものです。先人たちが残したレガシーを反映した私たちのウイスキーづくりは、現在もほぼ変わることはありません」

そう話すグレイグによると「グレングラント65年」の熟成に使われていた樽は、当時の樽職人の技術による樽自体の高い強度や密閉性に加え、樽材に使われていたフレンチオークの品質や側板の厚みも、驚くべきものだったという。

「私たちはこの特別な樽を、蒸溜所で最も古い第4熟成庫で厳格に管理し続けてきました。そして65年の熟成を経て完璧に熟成のピークに達したと判断し、世に出すことを決断したのです」

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1本800万円のウイスキーの味わいとは?

12 - Greig Stables Portraits V2 - Retouched - Grant Anderson - 3200px - July 2024.jpgグレングラントの年間生産量は約300万リットルと、生産量を伸長させ続けるスコッチウイスキーの大手蒸溜所に比べてその規模は小さい。先人たちから受け継いだDNAを反映したウイスキーづくりを維持し、日々の熟成を管理しグレングラントの品質を守るのがグレイグの仕事だ。

香港では特別なセミナーやディナーなどを通じて、グレイグと長く時間をともにし、蒸溜所や今回のリリースについてじっくりと話を聞く機会があった。どれも特別な時間だったが、なかでも忘れられない体験となったのが、ラマ島のプライベートレストラン「OOAK Lama」での「グレングラント65年」のテイスティングだ。

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ラマ島では「グレングラント65年」をテイスティング。濃密でフルーティ、繊細かつ複雑な香味が次々に現れてくる生命力に満ちたその味わいに、グレングラントの歴史とウイスキーの熟成の神秘を感じた。

本島から小さな船でラマ島に渡りレストランにつくと、「グレングラント65年」が注がれたグラスを持つグレイグが迎えてくれた。

幸運なゲストたち一人ひとりにグラスが行き渡り、「ぜひ特別なウイスキーを楽しんでみましょう」とグレイグが挨拶し、それぞれがグラスにそっと鼻を近づける。

磨き込まれた高級家具を思わせるマホガニー色の液体が発するのは、ブラックベリーなどの濃密で柔らかなフルーツの香り。目を瞑り香りを嗅いでいると、立ち現れてくる深く心地よいウッディネスも感じられ、まさにいまこの瞬間に、蒸溜所の歴史ある熟成庫に立っているかのような気分になる。

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たった一樽のオロロソシェリー樽からボトリングされる「グレングラント65年」。この特別な樽は、蒸溜所で最も古い、石造りの第4熟成庫に貯蔵されていたものだ。

飲めば最初の口当たりは少しドライで、やがてじんわりとフルーティな甘味が口の中に広がっていく。ブラックチェリーやディーツ、サルタナレーズンやオレンジ、香りでも少し感じたエキゾチックなスパイスや、ほのかなスモークも感じられる。

なによりも感動したのは、65年という長い熟成を経たウイスキーのアロマやフレーバーが、驚くほどに生き生きと輝きを放っていることだ。その生命力に満ちた豊かな味わいは、まさにウイスキーの熟成の神秘を感じさせてくれる。

「現在のグレングラントにはないスモーキーな香味が感じられるのは、当時のグレングラントがピートを焚いた麦芽も使用していたから。香り豊かでフルーティな味わいを追求してきたグレングラントのDNAに加え、そうした蒸溜所の歴史も刻まれているのです」

あまりにもおいしいウイスキーを飲むと、「その香りが残ったグラスを持ち帰ってずっと残しておきたくなる」とグレイグは笑う。その香味や味わった時の感動を、いつまでも記憶に留めておきたくなるウイスキーがある。「グレングラント65年」は、まさにそんなウイスキーだ。

抽選販売となる「グレングラント65年」の価格は800万円。誰もが買えるものではないが、コレクションとしての価値はもちろんのこと、この夜のような感動を繰り返し味わい人々と共有できる権利を得られるのは、この希少なボトルを手にした人だけの特権となる。

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グレングラント 65年

容量:700ml
アルコール%:55%
原酒:フレンチオーク製シェリー樽熟成のシングルカスク
希望小売価格:¥8,800,000
抽選期間:2025年4月22日〜2025年5月25日
抽選サイト:https://theglengrant.jp

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。