1961年創業、日本発のレンズ・カメラメーカーであるシグマがリリースした「シグマ BF」。ミニマルを極めた“現代版カメラ・オブスキュラ”ともいうべき新モデルは、いま、改めてカメラを持つ愉しさを呼び起こしてくれる。
シグマが追求した、ものづくりの真髄とカメラの本質
スマホで写真を撮影してそのままSNSでシェアできる時代、カメラの存在意義はどこに見出せるのか。世界の写真家や映像作家に愛されるカメラ・レンズを世に送り出してきた日本発のブランド、シグマがこの4月に発売した「シグマ BF」は、その問いに正面から向き合い誕生したカメラだ。
開発時、企画チームがまず立ち戻ったのは、カメラの原型であるカメラ・オブスキュラ。レンズに暗箱が付いたシンプルな構造の映像投影装置である。それを小型化し、フィルムを搭載したものがいまのカメラへと発展していったのだが、デジタルカメラにおいても本質は変わらない。ではその原型に立ち戻りつつ、現代的にアップデートさせたカメラをつくってみたらどうだろう──いわば“モダン・カメラ・オブスキュラ”として、カメラの本質、カメラを所有する愉しさを再考しようと挑戦して生まれたのがこのコンパクトでエレガントな「シグマ BF」だった。
他に類を見ない大胆な発想と「本当に欲しいもの、つくりたいと思うものをつくる」という精神。それが、シグマのものづくりの真髄である。加えて、すべてのシグマ製品の生産が一貫して福島県磐梯町の会津工場を中心に集約されているのも特筆すべきだろう。この地に自社工場を建てたのは、レンズを磨く際に不可欠な清廉な水が豊富であったこと。そして創業者の山木道広が、実直な会津の人々に強く惹かれたのが理由だった。粘り強く、規律正しく、ともすれば頑固とも言えるその気質は、精緻なレンズやカメラづくりに向いていたのである。


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侘びの美学にも通じる、ミニマルなデザイン
長年、会津という場所で培われてきたものづくりの矜持が「シグマ BF」にも注がれていることは、頑なまでにミニマルさを求めたデザインを見ればよくわかる。手にとってまず驚くのは、本体にネジがないこと。実は成型した外装を組み立てるのではなく、ミニマルなデザインを極限まで追求すべく、アルミニウムの塊から削り出して、箱型のボディをそのままつくりだしているのだ。またアルミの存在感を活かすべく、表面は塗装ではなく耐久性や耐食性を高めるアルマイト処理を採用。そうしたデザインを配慮して、各種ボタンやダイヤルの数も最小限にとどめた。
さらに工夫したのがユーザーインターフェース。メニューシステムは、最小限のボタンとダイヤルでも直感的にわかりやすく操作・選択できるようにソフトウエアから新開発。ミラーレスカメラとしては初めて感圧式のハプティックボタンを採用しているのも特徴で、たとえば、軽く触れると直前に撮影した画像がプレビューに現れ、押し込めば従来の再生モードに切り替わるといったように、1つのボタンで複数の機能を直感的に実行可能に。また、記録メディアは、カメラで一般的なSDカードではなく内蔵メモリを採用。安定した処理速度を確保しつつ、水やほこりの侵入を限りなく減らせる構造になっている。

発表時から大きな反響を得たこのカメラだが、その中に「日本らしいデザイン」との声があったのも興味深い。実際に製品名のBFは、明治時代、かの岡倉天心が日本文化の真髄を海外に伝えようと英語で記した『THE BOOK OF TEA』に登場する言葉「Beautiful Foolishness」の頭文字をとったもの。和訳すれば「美しくも愚かなこと」だが、天心は本著の中で功利的な世界を嘆きつつ、「一服して茶を啜ろうではないか」「美しき愚かなものに思いを巡らせよう」と述べた。そうやって茶を飲みながら感じられる、午後の日差しで照り映える竹林や湧き立つ泉、茶釜が鳴らす松風のような響き。功利主義的に見ればなんの利益も生まないFoolishnessなものにこそ、本当の美や世の真理が潜んでいると説いたのだった。
カメラは、そういった日々に潜む美を見出してくれる装置でもある。侘びの美学にも通じるミニマルで日常使いができる「シグマ BF」は、そのカメラの愉しさを確かに感じさせてくれるに違いない。と同時に、茶器のようにじっくり日々の生活の中で育てていきたいカメラでもある。



シグマ カスタマーサポート部
0120-9977-88