自然の恵みと伝統に感謝を込めて。「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」のインスタレーションに込められた思いとは

  • 文:石川博也
  • 写真:湯浅亨 
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MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOを率いる建築家の原田真宏(左)と原田麻魚。

「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」が、4月18日から29日の12日間にわたって開催中だ。

今年で7回目となるこのイベントは、全国400蔵以上を訪問してきた中田英寿を中心とした専門家によって厳選された酒蔵と、世界トップクラスのミシュラン星獲得数を誇る超有名レストランが集結。世界に誇る日本の食文化を体験できる絶好の機会となっている。

注目の建築家に依頼する会場デザインも毎年話題に。今年は原田真宏と原田麻魚が率いる「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」が担当する。

イベントのシンボルとして登場するのは“棟上ゲ”をテーマに木造の骨組みを模った高さ11メートルにも及ぶ建築物のインスタレーションだ。そこにはどんな意図があるのか? そして、イベント自体をどんな風に楽しめばいいのか? 「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」のふたりに訊いた。

自然と手仕事にリスペクトを込めて。“棟上ゲ”に込めた思い

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MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO/木の建築を数多く手がけ、国内外で数多くの賞を受賞。その土地の素材にこだわり、知恵や技術をもつ人が繋がること。それにより、その場所特有の風景の一部となり、さらには高める建築を目指す建築事務所。

棟上げとは、木造建築の骨組みが完成した時に行う儀式のこと。大工さんなど建築に携わった人たちや土地の神様に感謝を伝え、その後の工事の安全を祈願する。祝祭の意味もあり、棟上げの場では日本酒が振る舞われるのが恒例だ。

「日本酒はお清めの意味もありますし、お祝い事をする時に高揚感をもたらしてくれるものでもありますよね。棟上げは最後の柱が上にあがって所定の位置にハマる時に、みんなで空を見ながら、その建物の将来について思いを馳せるような前向きな場です。祝っているのと同時に祝われているような気持ちにもなる。そこに寄り添ってくれるのが日本酒なのです」そう話すのは原田真宏(以下、真宏)だ。

 さらに棟上げは自然の神様への感謝の気持ちを伝える場でもあると原田麻魚(以下麻魚)が続ける。

「森から木を切り出してきてお家を建てさせてもらうわけなので、自然の神様へ感謝の気持ちもあります。木造の建物は自然風土の恵みからできていますし、同様に日本酒も森が涵養した水や、その土地の気温や風などに育まれて獲れた米など、森羅万象の恵みをいただくわけですから、やはり自然に感謝ですね」

今回「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」の会場で棟上げの現代版を行うことによって、東京のど真ん中である六本木にいても、日本の自然風土との一体感や感謝の気持ちが感じられるよい機会になるんじゃないかと麻魚は話す。

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「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」のシンボルである“棟上ゲ”のインスタレーション。

“棟上ゲ”のインスタレーションは、各辺の長さが約3メートルの立方体を積み重ねたもので、高さ約11メートルは、4階建てのマンションに相当する。ひとつひとつの立方体がテンセグリティ構造と呼ばれる力学を利用した不思議な造りをしていて、通常であれば、木材と木材が接している部分が離れているため、まるで空中に浮いているかのように見える。

「巨大な木造建築があると思って近づいてみると、実はパーツとパーツが離れている。手品や魔法のように感じて面白いし、脳が混乱すると思いますね」と真宏。

縁台や展示台などで使用している木材は、富士山麓で育った富士ヒノキだ。よく見ると表面がさらっとしたキレイな四角をしているなど、日本の職人たちの繊細な仕事ぶりも見どころのひとつ。インスタレーション全体から木材が発する気を感じられ、ヒノキの香りも楽しめる。

「山がないとキレイな水はできないし、キレイな水ができないとおいしいお米はできない。おいしいお米がないとおいしい日本酒はできません。山から生まれる木の素材の美しさを間近で感じながら、日本酒や伝統文化の背景にもつながるインスタレーションになっています」と麻魚。

ほかにも会場には「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」によるデザイン的な仕掛けが各所に施されている。たとえば、縁側や縁台に見立てたベンチに腰掛けて日本酒を飲むことができたり、メッシュ素材でつくられた紅白のパーテーションウォールによって、昔ながらのお祝いのムードを感じられたり。

「伝統、モダン、未来など多様な要素が同時にあらわれ、つながっていくような会場構成になっています。昔から慣れ親しんだ日本の古きよき物事と、現代的で研ぎ澄まされたデザインが融合していると思うので、楽しみにしていただけたら」と真宏は話す。

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なんにでもなれる、無限の可能性を感じるインスタレーション

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イベントでは、日本酒は日替わりで提供される。「何度でも会場に足を運びたい」と話すふたり。

実は日本酒が好きなふたり。「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」は、どのように楽しむつもりなのだろうか?

「基本的に米と水と米麹からできているのに、銘柄によって味わいが異なるところが日本酒の面白さ。飲み比べることで日本の風土の豊かさを感じられるイベントだと思います。気候もちょうどよさそうなので、外飲みで気持ちのいい時間を過ごしてみたいですね」と真宏。

なかなかお目にかかれない希少なお酒や特別なお酒に出合えるのは楽しみだと話すのは麻魚だ。「仲間と日本酒をゆっくり味わいながら、いろいろなレストランのフードを分け合うことができるのは、このイベントならでは。開催が待ち遠しいです」

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テンセグリティ構造が生み出す、木材が空中に浮いたように見えるインスタレーションは必見。ぜひいろいろな角度から見てほしい。

そして、日本酒やフードを味わいながら眺めたいのは、やはり“棟上ゲ”のインスタレーションだ。骨組みを模したデザインには、ふたりのこんな思いが込められている。

「骨組みは抽象的なもので、その先につくられるであろう建物の姿を想定していません。逆に言えば、なんにでもなれる。無限の可能性を立ち上げたかったのです。今年家を建てたい人がいるかもしれないし、みんなで学校をつくりたい人だっているかもしれない。どんな思いをも馳せることができる、どんな思いにも応えることができるように、インスタレーションの造形を骨組みにしているのです」と口を揃えるふたり。

「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」では、“棟上ゲ”のインスタレーションのその先に待つ、未来への希望を思い描きながら、気に入った日本酒で前祝いをしてみては。

 

「CRAFT SAKE WEEK 2025 at ROPPONGI HILLS」

開催期間:2025年4月18日(金)~4月29日(火・祝)
開催場所:六本木ヒルズアリーナ
東京都港区六本木 6-9-1
料金:スターターセット¥4,200(オリジナル酒器グラス+飲食用コイン12枚)
https://craftsakeweek.com