
フィンランドのアーティスト、タピオ・ヴィルカラ(1915-1985)の日本初となる大規模な個展が、東京ステーションギャラリーにて開催中だ。イッタラとのガラスのプロダクトをはじめ、木や金属を素材にした作品など、マルチに才能を発揮したヴィルカラの創作とは?
イッタラの専属デザイナーとして、第一線でモダンデザインの発展に貢献

フィンランド南部の港町に生まれ、幼少期をヘルシンキで過ごしたヴィルカラ。美術学校にて装飾工芸を学び、卒業後に広告デザイナーとして働くと、1945年にセラミック・アーティストのルート・ブリュックと結婚する。翌年のイッタラ社のデザインコンペ優勝を契機に、専属のデザイナーとして起用され、約40年にもわたって第一線で活躍。51年にはミラノ・トリエンナーレでガラス作品『カンタレッリ』と会場デザインでグランプリを受賞し、国際的にも高い評価を得た。
自らのデザイン事務所である「デザイン・タピオ・ヴィルカラ」を設立したのは66年のこと。その後は、ヴェネチアン・ガラスのブランド、ヴェニーニやドイツの磁器製造会社ローゼンタール社とのコラボレーションワークのほか、フィンランド紙幣からフィンランド航空の機内用食器まで、あらゆるデザインを手掛ける。カイ・フランク、ティモ・サルパネヴァらと並び称され、フィンランドにおけるモダンデザインの発展と国際化に大きく貢献した偉大なマイスターだ。
ガラスから磁器、金属、プラスチックなど、さまざまな素材を活かしたプロダクト

ヴィルカラがスタジオのためにデザインしたという木のブロックの扉を見ながら展示室を進むと、ガラスや磁器のテーブルウエア、シルバーやステンレスのカトラリー、商品のボトルや照明、さらにゴールドのアクセサリーなど多種多様なプロダクトがずらりと並んでいる。日本ではヴィルカラというと、イッタラとのガラスのプロダクトが有名だが、実は同社以外との協業を通して、磁器、金属、プラスチック、木、紙といった素材にも取り組んでいる。
それらの作品は、素材にじかに触れ、特性を理解し、ドローイングを描き、型をつくって、尊敬する職人たちとの対話を重ねて作られたものだ。また、フィンランドの豊かな自然を着想源としたデザインも多く、実用品としての機能を持ちながら、オーガニックな印象への親近感を抱くような心地よさが感じられる。ヴィルカラは幾何学を応用しつつ、素材とデザインの調和を図りながら、洗練されたプロダクトを次々と制作していった。---fadeinPager---
木の彫刻やヴェネチアン・ガラスによる作品も登場

これまで日本ではまとめて紹介されなかった木の彫刻作品が、赤いれんが壁に囲まれた展示室と美しい調和を見せている。ヴィルカラは1950年代から板を何層にも重ねて開発した「リズミック・プライウッド」と呼ばれる積層合板を用いた作品を制作。当初は、葉や貝殻といった自然界にある形に着想を得ていたが、次第に立体的で抽象的な方向へと変化していく。積層合板を削ることで生まれる木目に、細やかな表情の変化やリズムが見られるのも美しい。
多様な色彩を取り入れたヴェネチアン・ガラスも重要な仕事のひとつだ。65年にガラス制作の長い歴史を持つヴェネチアのムラーノ島にあるガラス工房ヴェニーニに招かれると、ガラス職人の見事な技や色のバリエーションに感銘を受け、以後、毎年のように同地を訪れて協働制作を行う。ヴィルカラは誰よりも早くより工房に入り、職人たちを出迎えたというが、ムラーノの伝統と北欧デザインを融合させた作品の魅力に虜となってしまう。
ヴィルカラが代表作「ウルティマ・ツーレ」に追求したイメージとは?

スカンディナヴィア半島北部からコラ半島にかけて広がる、フィンランド最北のラップランドの地を愛したヴィルカラ。白夜の夏やほとんど太陽が登らない冬などの北極圏に特有の自然環境から生み出したのが、「世界の果て」などを意味する「ウルティマ・ツーレ」のガラスシリーズだ。会場では、約300個のガラスのインスタレーションと全長9メートルにもおよぶ同名の木彫レリーフのデジタル映像を公開。そこからヴィルカラが探求した「世界の果て」のイメージを体感できる。
エスポー近代美術館、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団およびコレクション・カッコネンから選ばれたプロダクトやオブジェ約300点に加え、写真やドローイングが並ぶ本展は、何かとガラスデザイナーとして語られがちなヴィルカラのイメージを上書きするような内容ともいえる。自らの体験や自然から“気づき”を得てデザインをしつつ、素材との調和や手仕事を重視しながら制作したヴィルカラの作品世界と静かに向き合いたい。
『タピオ・ヴィルカラ 世界の果て』
開催期間:開催中~2025年6月15日(日)
開催場所:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
休館日:月 ※5/5、6/9は開館
開館時間:10時〜18時 ※金は20時まで
※入場は閉館30分前まで
料金:一般 ¥1,500
www.ejrcf.or.jp/gallery