ラグジュアリーレザーグッズブランド「ヴァレクストラ」のCEO、グザヴィエ・ルゥジョーが、ミラノサローネに先立ち来日。2021年の就任以降、ミラノ発祥のクラフトマンシップとデザイン哲学を現代に継承する「エンジニアリングビューティー」を推進してきた彼に、直後のミラノサローネで発表した新プロジェクト「ヴァレクストラ・ヴォカボラリオ2.0」について話を聞いた。

エンジニアであり、デザイナーでもあった創業者ジョバンニ・フォンタナの哲学を体現するヴァレクストラ。1954年にはアイコニックな24-Hoursブリーフケースで第1回コンパッソ・ドーロ賞を受賞し、ラグジュアリーラゲージの代名詞となった。この伝統を現代に息づかせながら進化を続け、先日開催されたミラノサローネでは「Costa 70 + Zaven」スーツケースを発表した。デザイン界との対話を重視するヴァレクストラらしい、意欲的なプロジェクトだ。
「1937年の創業以来、ヴァレクストラのDNAの中核をなすのは、相互に響き合い、さまざまな解釈を可能にするデザインです。ザヴェン(Zaven)は私たちのアーカイブに収められた名品を現代的に再解釈することで、喜びと卓越性を備えたオブジェを実現しました。これは、まさに私たち自身が情熱を注いできたことでもあるのです」


このプロジェクトは、2024年の第1回「ヴァレクストラ・ヴォカボラリオ」に続くもので、今回はベネチアを拠点とする学際的なクリエイティブ・スタジオ、ザヴェンをブランドパートナーに迎えた。2008年にエンリカ・カヴァルザンとマルコ・ザヴァーニョが設立したザヴェンは、コミュニケーション、デザイン、アートの相互作用を得意とする気鋭のスタジオだ。ヴェネチア・ビエンナーレやパラッツォ・グラッシなど一流機関とのコラボレーションを実現し、2024年にはインテリアブランド、ザノッタのためにデザインしたソファ「Za:Za」でコンパッソ・ドーロ賞を受賞した実力派である。
「この提案はヴァレクストラのアーカイブが起点となっています。元々は特定のアイテムを収納するために設計された機能的なスーツケースから着想を得たものです。私たちはミラノのデザイン史にも目を向け、ブルーノ・ムナーリや1960年代のキネティック・アーティストたちの作品から影響を受けました。彼らの作品にあった相互作用と空間構成の要素を現代に取り入れたかったのです。このプロジェクトで私たちが目指したのは、使い手が意識的に関わることでバランスのとれた構造物を創り出す、遊び心あふれるオブジェです。単なる鑑賞物ではなく、人との創造的な対話を生み出すデザインなのです」
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感情を揺さぶる色彩表現の追求

ザヴェンとの出会いについて、ルゥジョーは「自然な流れだった」と振り返る。両者の間には、デザインへのアプローチや価値観において多くの共通点があったという。特に色彩感覚と建築的要素の表現方法で強い親和性を感じたそうだ。対話を重ねるうちに、共同プロジェクトへの道が自然と開けていった。
「60年代にヴァレクストラのバッグの一つがコンパッソ・ドーロ賞という非常に権威のある賞を受賞しました。2024年には、ザヴェンのスタジオが同じ賞を受賞した。そういった必然的な流れで知り合い、対話をしていく中で、非常に精神の似通ったところがあると感じました」
特に注目すべきは、両者の色彩に対する姿勢だ。ヴァレクストラとザヴェンはともに、色が単なる表面的な要素ではなく、デザインの本質を形作るものだと考えている。
「ザヴェンのデザインは強いビビッドな色の使い方が特徴的です。それはヴァレクストラのコレクションにも共通する要素で、私たちも豊かな色彩表現を大切にしています。色は単なる装飾ではなく、感情や空間に影響を与えるバイブレーション(振動)を持っているのです。私たちはこの色彩のエネルギーを意識的に取り入れ、見る人の感性に訴えかけるデザインを追求しています」

コスタ・スーツケースをモチーフに選んだ理由として、ルゥジョーはブランド名そのものに込められた意味と、製品が持つアイデンティティの関係性について語った。
「ヴァレクストラというブランド名はイタリア語で『トラベルバッグ』を意味する『ヴァリジェリーア(Valigeria)』と『最上級の』を意味する『エクストラ(Extra)』を組み合わせた造語です。その名の通り、旅とともにあるブランドとして、私たちにとってスーツケースは単なる容器ではなく、旅する美術品なのです」
このコラボレーションを記念して、ヴァレクストラはミラノサローネで限定ハンドバッグ「Iside Resin Tint」と「Milano Resin Tint」を発表。いずれもヴァレクストラのアイコンである多面的なミレプンテレザーを使用し、グリーンとピンクの型押し樹脂をあしらったパラジウムメタルのハンドル、ピンクとブルーのアーカイブのクラスプを備えた特別なデザインで、プロジェクトの革新性を反映している。


今後の展望について、ルゥジョーは変わらぬブランド哲学とともに、革新への意欲も語った。
「90年近い歴史を持つヴァレクストラですが、創業以来の基本姿勢は変わりません。質感と品質へのこだわり、そして美しさと実用性を両立させる哲学を大切にしています。私たちが目指すのは、美術館に飾られるだけの作品ではなく、日常の中で手に取り、身に着けることで真の価値が生まれる、生きたデザインなのです」
「Costa 70 + Zaven」スーツケースは、単なる旅の道具ではなく、旅先で自分だけの空間を創造できる実験的オブジェとして誕生した。それは使い手に無限の創造性と喜びをもたらす、まさに「旅する美術品」だ。「100年後、人々がヴァレクストラのバッグを見た時に、『これは機能性からこういうデザインが生まれているんだね』と言われたら嬉しい」とルゥジョーが最後に語った言葉には、ヴァレクストラの本質が凝縮されていた。時代を超えて愛される製品を生み出す——その志こそが、ヴァレクストラの真髄なのだ。