本は場所や時間を選ばず、私たちを別世界へと連れて行ってくれる。ここでは店主の個性が光るセレクトにより、生き方のヒントを与えてくれたり、自分ではたどり着けなかった本との出合いを楽しめたりする3軒の独立系書店を紹介する。
---fadeinPager---
DJのように自由な発想で書棚をつくる「チャチャチャブックス」
東京・JR青梅線の福生駅から徒歩5分ほどの場所にあるチャチャチャブックス。商店街の一角にあるビルの階段を上がると右手に本屋、左手にカフェが広がり、心地よいラテンミュージックとともにコーヒーの香りが漂う。店主の松下源は、福生の米軍ハウスにひょんなことから移住した縁で2024年8月、この場所で本屋を開業。音楽と本をこよなく愛する店主がセレクトした本棚は、DJのように自由な発想で組み立てられている。

「DJをやる時は最初と最後の曲を決めて、あとはその場に合わせてイマジネーションを膨らませてプレイします。本棚をつくる時も出版社ごととか五十音順ではなく、コアになる本を決めてつなげていきます。音楽には終わりがあるけど本には終わりがないので、終着点は決めていません」。書棚には1950年代タンゴの女王・藤沢嵐子の自伝『カンタンド』を出発点に、レゲエ、ソウル、ヒップホップ、テクノ、ハウス関連の本が並び、ワールドミュージック、ジャズ、カントリー、音楽論と続く。背表紙を順にたどっていくだけで、世界の音楽の変遷が手に取るようにわかる。さらには映画、美術、写真、建築、国内外の単行本や文庫本、哲学書や人類学、ノンフィクションまでを網羅。中央の平積みのコーナーには新刊と子ども向けの絵本が並ぶ。「僕たちも子育て世代なので、大人と子どもが一緒に楽しめる場所にしたいと思って、絵本も置いています。週末はお父さんが子どもを連れてくることも多いですよ」


気に入った本を買ったら隣のカフェで特製のキューバサンドとコーヒーを頼んでゆっくり過ごすのがお薦めだ。ここには都心のブックカフェにはない緩やかな時間が流れている。「たった数百円の本によって世の中の見え方が変わったり、現実から逃避することだってできます。日常をよくすることもあれば危険性を孕んでいるものもある。そこが本の面白いところです」
音楽の人脈を活かしたイベントも不定期に開催している。「トークショーをやりながらDJも同時にやれる。ゆったり寛げるラウンジのような空間を提供したい」と松下。好きなものをとことん追求した本棚には不思議と人を惹きつける力がある。「活字離れが進んで本の発行部数が減っても、本がなくなることはないと思う。デジタルは記事が消えたらそれで終わり。便利な半面、非常に脆いものだと思います。いつでもどこでもこの世界を擬似体験できる本があれば、日常はもっと面白くなります」


チャ チャ チャ ブックス[東京・福生]
東京都福生市本町85 第二根岸ビル 2F
TEL:080-4199-7142
営業時間:11時30分〜19時
定休日:日、月
Instagram: @chachachabooks
---fadeinPager---
本も服もお酒もフラットに楽しめる「スタックス ブックストア」
2024年3月、渋谷から神保町に移転・リニューアルオープンしたスタックス ブックストア。もともとZINEやアートブックを中心に取り扱い、ストリートカルチャーにルーツを持つオルタナティブスポットとして人気だった同店。神保町ではスペースを拡大してクラフトビールやナチュラルワイン、クラフトジンや焼酎、日本酒まで飲めるバーカウンターも併設する。「面白いお店が集まるこの街で、自分の好きなものを発信しつつ、何か新しいことに出合えるような場所になれたらうれしい」と話すのは店主の山下丸郎。古書店がひしめくこのエリアで、感度の高い客層を呼び込んでいる。

書棚はZINEからSF、ホラー、韓国文学、料理本にフェミニズム系の書籍まで店主の個性が色濃く反映された品揃えで、友達の家の本棚を眺めているような気持ちになる。「ジャンルにこだわらず、自分が好きだと思える本を並べています。棚を眺めながら、なんでこれが? って思うくらい自由さを楽しんでもらえたら。うちはZINEの出版も行っていますが、個性豊かなZINEを通して思いがけない表現や出合ったことのない感覚に触れてほしいですね」
壁面の展示スペースはアーティストや作家のためのポップアップとして活用され、バーの横ではオリジナルの商品やセレクトしたスニーカーなどを販売する。「本も服もお酒も、自分の好きなものをフラットに並べたい。ジャンルの境界を気にせず、全部が同じ熱量でそこにあることで、新たな出合いや楽しみ方が生まれたらいいなと思っています」
本、服、お酒といった日常をちょっとよくしてくれるものを追求しながら、場に共感した人たちとつながっていく。スタックスブックストアは、お気に入りを見つけるための自由な空気に満ちあふれている。


スタックス ブックストア[東京・神保町]
東京都千代田区神田神保町1-41-1 三省堂第二ビル 1F
営業時間:12時〜21時
www.stacksbookstore.com
---fadeinPager---
他者を知ることで世界が広がる選書「プラットフォーム3」
潟見陽、丹澤弘行、ともまつりかの3人が東中野で運営するプラットフォーム3。大久保で週末限定の本屋ロンリネスブックスを運営していた潟見と、出版ユニット(TT)プレスでZINEを制作する丹澤・ともまつの3人は、韓国で開催されたZINEのワークショップで意気投合し、新店を立ち上げるにいたった。丹澤とともまつに話を聞いた。

東中野の駅からほど近いビルの4階のドアを開けるとそこにはタイ、韓国、インドなど東アジアの書籍や、クィアやジェンダー、フェミニズムをテーマにした本がびっしり並ぶ。「私はタイのカルチャーに興味があり、ブックフェアに出掛けては本を仕入れています。バンコクのアーティストによるクィアカップルの日常を描いたグラフィックノベルなど、ここでしか出合えない本もたくさんあります」と話すのはともまつだ。
ここではZINEをはじめ自主制作映画などインディペンデントでものづくりをしている人たちがイベントを開催するなど、人々の交流地点にもなっている。「たとえば小・中学校の先生がフェミニズムについて考える会を開いたり、アーティストが展示を行ったり、ふだん出会うことのなかった人たちが、ここを拠点に交流しています。ひと言でLGBTQといってもそれぞれ立場は違うものですが、この場所でなら話せることもある」と丹澤は言う。
本を読むことで自分と違う人間がいることを知り、その世界をのぞくことができる、とともまつは言う。「インターネットで読む文字と本で読む文字とでは全然受け取め方が違うことがあると思います。本は作者が私に向かって話していて、自分の人生の中にまで入ってくるような感覚がある」
いっぽう丹澤は、その日の気分に合った本を無意識に選んでいるという。「僕はいまの自分の助けになりそうな本を本能的に選んでいます。本屋は大量の背表紙を眺めながら、気分に合わせて選べるのがいいところ。手に取って中をパラパラ読むこともできるし、サブスクの作品選択の画面に比べて情報量は桁違い。アルゴリズムのおすすめではなく、自分で選んだ本には愛着も湧きます」


知らない世界を垣間見ることができ、さらに一歩進んでリアルなコミュニケーションの場を提供するのが独立系書店の魅力だ。世界は広いが、本があればいつだってどこへでも旅立てる。慌ただしい毎日からちょっと寄り道して、いまこそ書店のドアを開けてみよう。
プラットフォーム3[東京・東中野]
東京都中野区東中野1-56-5 ホシノビル401号室
営業時間:14時〜22時(月〜金) 12時〜22時(土、日)
Instagram: @plat_form3