ラングラーの希少なデニムジャケットがここに蘇る。最新の転写技術を駆使した、トリックアートのような一枚

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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このデニムジャケットのベースになったのは、ラングラーの「888MJZL」というモデル。チェック柄のライニング付きのフロントジッパーモデルというのは、古着市場でも見ることが少ない希少品だが、トルクが持つ技術によってあたかも実物のヴィンテージ品のようなプリントプロダクトに仕上げられている。¥79,200/ラングラー×TOLQ ×RIKIYA KANAMARU(※現在は取り扱いがございません)

大人の名品図鑑 デニムジャケット編 #3

薄着で出掛けられる、これからの季節に便利なのがデニムジャケットだ。最近では大きめのデニムジャケットをスウェットの上に羽織ったり、逆にコートなどのインナーとして着たり、通年で愛用する人も増えていると聞く。今回のシリーズで取り上げるデニムジャケットは、デニムウエアを愛するブランドやショップ、人物とコラボレーションして生まれた名品だ。ポットキャスト版を聴く(Spotify/Apple)

ラングラーはリーバイス、リーと並ぶアメリカ3大ブランドのひとつだが、「名品図鑑」では、このブランドのアイテムを何度か取り上げてきた(「ボブ・マーリー編 #4」や「デニムの名品6選」)。その度にブランドの歴史にも触れてきたが、初めて本連載を読む方のためにラングラーというブランドの歴史を簡単に紹介しておこう。

ラングラーの母体となるブルーベルは、いくつかのワークウエアメーカーが統合して生まれた会社だが、そのひとつが1904年にテネシー州で創業されたハドソン・オーバーオール・カンパニーだ。その最初の工場は食料品店の屋根裏部屋だったという。徐々にビジネスを拡大し、19年に社名をブルーベル・オーバーオール・カンパニーと改めた。『完本 ブルー・ジーンズ』(出石尚三著 新潮社)によれば、45年頃には「ブルー・ベル社は『ブルー・ベル』『ケイシー・ジョーンズ』『ビッグ・ベン』の3つのブランドを持つ、世界最大のワークウエアメーカーであった」(ブランド名等は原文のまま)と書かれている。

そんなブルーベルが2年後の47年に、新たに登場させたブランドがラングラーだ。ブランド自体は43年にケーシー・ジョーンズを買収するときにブルーベルが取得したものだが、いくつかの候補の中から社員で投票を行い、圧倒的な支持を得たラングラーが選ばれたという。3大デニムブランドの中では、ほかに比べて後発となるラングラーだが、ブランドを立ち上げるときに協力を仰いだのが、当時ハリウッド映画などで衣裳を担当していたテーラーのロデオ・ベンことベンジャミン・リヒテンシュタインという人物だ。彼がデザインした最初のジーンズが「11MW」というモデルで、11は試作ナンバー、Mはメンズ、そしてWはウェスタンウエアを意味している。ブランド名通り、最初からカウボーイにはかれることを念頭にデザインされた。

その翌年の48年に早くもデニムジャケットが発表されるが、その品番が「11MJ」。「MJ」はメンズジャケットの略称で、これをベースに、50年頃には「111MJ」がつくられ、50年代末にはデニムジャケットに初めてジッパーを採用した「11MJZ」へと進化する。これらのデニムジャケットは、肩の可動域を確保したアクションプリーツ、フロントのプリーツを留める「丸カン」と呼ばれる円形状の縫い糸など、それまでのデニムジャケットには見られないディテールを備えていた。前述の本では「よくもまあ、ワークウエアでここまでやったな、と感心させられてしまう」と著者の出石も驚く。テーラーならではのデザインで、その後のラングラーのデニムジャケットを象徴するデザインとなった。

視覚を惑わす、緻密な再現プリント

今回紹介するデニムジャケットは、ラングラーのヴィンテージピースのコレクターとしても知られる金丸力也と、高度な転写プリント技術を用いて、ジーンズなどのさまざまなプロダクトをリリースするブランド、トルク(TOLQ)がコラボレーションして製作されたスペシャルなモデルだ。

メインで紹介した「888MJZL」は、ラングラーで1950年代後半の数年間のみ生産されたという希少品。金丸が所有するヴィンテージのデニムジャケットのシワ、デニム表面のアタリや色合いが忠実に再現されている。遠目からは普通のデニムジャケットに見えるかもしれないが、左胸の位置にあるスナップボタン留めのポケット、両脇のポケット、フロントのプリーツやそれを留める「丸カン」、さらには裏地の赤いチェック柄などはすべてプリントされたものだ。まるでトリックアート(騙し絵)のような素晴らしい出来栄えは、アート作品と呼んでもいいだろう。ヴィンテージデニムを愛する人たちの情熱を集約したような傑作品だ。---fadeinPager---

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歴史を感じるラングラーの織りネームも、実はプリントで再現されている。その下の白いトルクの織りネームは実物。マニア心を刺激するような凝ったつくりもこのジャケットの特徴だ。

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裏地に縫い付けられたタグは、ラングラーの世界的なコレクター、金丸力也が所有する1960年代の貴重なデニムジャケット「888MJZL」をベースにしてデザインされたことを示す。

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写真の中央にある脇ポケット以外のポケットやボタン、背面のダーツ、チェックの裏地は晒しの生地にすべてプリントされたものだ。驚くべき再現度ではないか。

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北米で人気が高いロデオ大会のチャンピオンに送られる赤いジャケット。ベースになったのは、「12MJ Champion Jacket」というモデルだ。チェーン刺繍パッチやチェーン刺繍など、すべてプリントで表現されている。¥79,200(参考商品)/ラングラー×TOLQ ×RIKIYA KANAMARU

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このデニムジャケットのベースになったのはラングラーの名品とも言える「111MJ」というモデル。背中に入ったチェーン刺繍もプリントで再現されている。¥79,200(参考商品)/ラングラー×TOLQ ×RIKIYA KANAMARU

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金丸力也が今年3月に出版した書籍『WRANGLER ARCHIVES』。この一冊は、金丸が35年以上もわたり集めた200点以上のラングラーのヴィンテージアイテムをまとめている。右の通常版は¥11,000、左のラングラーのデニムを貼った限定版は¥33,000。この書籍はゴールドゲートのインスタグラムDMまたはメール(info@ric-planning.jp)で購入することができる。2025年5月6日まで虎ノ門ヒルズにあるSELECT by BAYCREW’Sでも販売されている。

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