感覚を揺り動かす、民藝の寡黙な佇まい【Penが選んだ今月のデザイン】『民藝 無作為の美 ―深澤直人が心を打たれたものたち』

  • 文:猪飼尚司(デザインジャーナリスト)
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「白薩摩角深鉢」(19世紀)。現在の鹿児島県日置市にあった苗代川と呼ばれる窯場集落でつくられたもの。1603年に開窯し、江戸時代は薩摩藩の御用窯として大切に守られ、韓国の李朝の流れを感じさせる白土を用いた陶器を制作していた。

1925年の末、思想家の柳宗悦と陶芸家の河井寛次郎、濱田庄司は、木喰上人が彫った仏像を追い求め紀州を旅していた。そんな旅の途中で交わした会話のなかで、「民衆」と「工芸」を掛け合わせた「民藝」という造語が誕生。それから今年で100年を迎える。いまや民藝は単なるものの審美にまつわる評価の枠にとどまらず、広くものづくりに関わる思想や豊かな暮らしの態度にまで広がり、昨年には民藝をテーマとした大規模な企画展も開催。海外でも「MINGEI」として広く認知されている。民藝という言葉を思いついた時、柳たちはこれほどまで大きく影響を及ぼす存在になると想像していたのだろうか。

日本デザイン界のトップランナーとして第一線を走り続ける深澤直人が2012年より日本民藝館の館長を務める理由も、民藝のなかに見る無垢な心や手仕事の温もりが現代デザインにとって大きな気づきを与えると信じているからに違いない。

過去のインタビューにおいて深澤は、「見た瞬間に『おぉ!』と思わず声を上げてしまう」、「立場や文化が違うものでも、同じ感覚をシェアできる」、「『参りました』のひと言。一生憧れてもたどり着けない領域」といった、人間味あふれる感覚とわかりやすい言葉で、民藝の魅力を語り継いできた。

この展覧会では、1万7000点を超える日本民藝館のコレクションから、民藝のなかに見る温もりや親しみ、愛らしさにフォーカス。深澤自身が感動を覚え、刺激を受けた生活の道具をセレクトしている。

100年の年月を超え、現代に伝わる民藝の毅然とした思想、用の美の佇まいは、いまを生きる私たちの目にどのように映り、これからの未来にどのような影響を与えるのか。改めて感じ取り、思考を巡らしてみたい。

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「弁当箱」(朝鮮半島、1930年代)。柳で編まれ、薄く削った松の枠がつけられている。

『民藝 無作為の美 ―深澤直人が心を打たれたものたち』

開催期間:3/30~6/1
会場:日本民藝館
TEL:03-3467-4527
開館時間:10時~17時
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休み)
https://mingeikan.or.jp

※この記事はPen 2025年5月号より再編集した記事です。