新型Vクラスに流れる“最善か、無か”の哲学は、2025年のリアル・ヒップホップなのか? 【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第219回

  • 写真&文:青木雄介
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日本におけるミニバンの人気は相変わらず高い。それでも徐々にSUVがシェアを拡大しつつある印象だけど、欧州はその逆になるようだ。フォードやフォルクスワーゲンを筆頭に、人々の足になるMPV(多目的乗用車)として、SUVに取って代わるようにバンが見直されているらしい。この分野の高級車でいうと、欧州車ではメルセデスの「Vクラス」一択ですよ。

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背後から見るとほぼ正方形のスクエアなリアビュー。Vクラスらしいソリッドなスタイルだ。

「Vクラス」は1996年に「Vito」という商用車を乗用向けに派生させたのが始まり。

おりしも1990年代は“ゴールデンエイジ”と呼ばれたリアル・ヒップホップの時代。メルセデスは東海岸のクルーに人気の自動車ブランドだった。それもあって、個人的に「Vクラス」の骨太なイメージはシボレー「サバーバン」と同様に、90年代カルチャーを象徴するバンの2大巨頭ですよ。現在でも床面がフルフラットで商用モデルとの車台共有は同じ。しかし新型「Vクラス」は高級車としての大幅な進化を計ってきた。

エクステリアとインテリアはアップデートされ、足まわりにはエアサスペンションが導入された。それ以前の可変ダンパーとスプリングによるアジリティコントロールサスペンションもすごく良かったのだけど、エアサスを導入することで上屋を手のひらで支えているようなマナーが加えられている。さらに静音性能が高められたことで、より乗用ベースでの高級感が増していた。

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特徴的なワイドスクリーンやアルミニウムインテリアトリムなど、モダンな高級性能を追求したインテリア。

ここでぜひ比較したい車種があって、それはレクサスの高級ミニバン「LM」なのね。そもそも乗用設計と商用設計という車台の根本的な違いはあるけど、その魅力は良い意味でとても対照的なんだ。たとえば「LM」の後部座席は専用設計の高い剛性をともなった車台に、綿密な静音処理を施したリビングのような空間を実現している。窓は小さく、シートを寝かせれば安眠できそうな包まれ感が特徴だ。

それに対して「Vクラス」は窓が大きく、車内空間は余裕たっぷり。3座の3列目シートも大人3人が余裕で座れる。多彩なシートアレンジが特徴で2列目シートは外すことが出来て、フラットで広大な荷室スペースを作れるアレンジメントが魅力。---fadeinPager---

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最大のクライマックスになる2列目のエクスクルーシブシート。フットレストが装備され、リクライニングとリラクゼーションのメニューが豊富に用意されている。

今回、新型Vクラスに家族3世代の計6人を乗せて、都心のレストランへ食事に出かけたんだけど、スペースのしっかりとられた室内は大好評だったね。自分も2列目シートに座って走らせてもらい、かなりくつろげることが分かった。長旅に嬉しいウェルカムな室内が、陽気な気分にさせてくれるんだ。

その点でいくとレクサスは静音設計もより密室的で、使い勝手も近距離の想定、それも書斎のように集中して仕事をするとか、いっそ熟睡するとか、そういう使い方に向いている。その分、流れる時間もより濃密になる感じ。この2車種は高級ミニバンとしてのライバルではあるけど、後部座席の乗り味も使用想定もかなり違うのが興味深かった。よりビジネスフォーマルなレクサスに対して、新型「Vクラス」はより長距離で移動そのものを快適に過ごすための空間設計に優れている。

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3列目の3座シートは大人3人でも余裕のスペース。2列目も含めて着脱可能で多彩なシートアレンジに対応する。

そんな現代の「Vクラス」に「君にお似合いのヒップホップをかけてくれ」ってリクエストしたら、即座にアップテンポでヒットチャートにランクインしているチューンを選ぶだろう。いまなら洗練されたトラックにダークな雰囲気とポップな煌めきがない混ぜになった、パーティネクストドア&ドレイクとか、ザ・ウィークエンドあたりかな。

実際に自慢のブルメスターのサウンドシステムで聴いてみると、昔ながらのドアが閉まる硬質な音だったり、特徴的なメタリックなインパネとネオンのようなダウンライトのインテリアだったり、「Vクラス」とヒップホップはつくづく相性が良い。どちらが寄せてきている訳でもない、ある種の響き合うような共時性が、このクルマでも感じられたのね。

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車内の開放感を最大限に演出するパノラミックスライディングルーフ。

では、なぜメルセデスとヒップホップの相性が良いのか? それはメルセデスの有名な企業スローガンだった「最善か、無か(The best or nothing)」という命題の立て方にある。かつてはコスト度外視の代名詞だったけど、最善の定義は時代が変われば変わる訳で、現代の「Vクラス」だって間違いなく最善を尽くしている。

たとえばディーゼルや商用車との共用フレームをやめて、より静粛性の高い乗用車ベースの専用構造に変えるべき、という意見があったとしよう。メルセデス的な観点からいえば、それならSUVの「マイバッハ GLS」あたりが最善の選択なんだ。定員は少なくなるけど、鬼の静粛性に“文句つけ太郎”は言葉が出なくなるはず(笑)。黙らせる理由がある。ここが大事なんだ。もちろん多人数で乗る、乗用構造の「Vクラス」は“無くて良い”という判断をとっている。つまり最善か、無か。このパッケージは最善の選択の結果。もちろん、いまのところはね。

メルセデス・ベンツ V 220 d EXCLUSIVE long Platinum Suite

全長×全幅×全高[YS1] :5,140×1,930×1,880mm
排気量:1,949cc
エンジン:直列4気筒ディーゼル
最高出力:163ps / 3,800~4,400 rpm
最大トルク:380N・m / 1,600~2,400 rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥13,620,000

問い合わせ先/メルセデスコール
TEL:0120-190-610
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