ジョン・レノンも愛した名門クラシックホテルが一新。 130周年を経て生まれ変わった軽井沢「万平ホテル」で、唯一無二のステイを

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    雪解けから新緑が芽吹き、いよいよベストシーズンを迎える長野県・軽井沢。この日本有数の避暑地の歴史とともに歩み続けてきたのが「万平ホテル」だ。約1年半におよぶ大規模改修を経て、創業130周年にあたる2024年10月、装いも新たにグランドオープンを果たした。クラシックホテルの格式ある趣はそのままに、洗練されたいまの時代の息吹を見事に融合させ生まれ変わったホテルは、時を経ても色褪せぬ魅力にあふれている。

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    生まれ変わったアルプス館のグランドクラシック。全面改装を施しながらも、古き良きクラシックなデザインは踏襲。窓の奥に望む豊かな緑を眺めると、時間の流れがいつもよりゆるやかに感じることだろう。

    軽井沢駅からクルマを5分ほど走らせ、カラマツ林が生い茂る別荘地・万平通りを抜ける。すると高原リゾートに相応しい、コテージのような佇まいの万平ホテル「アルプス館」に辿り着く。宿泊棟「愛宕館」と「碓氷館」、そしてバンケット「桜」の全4棟からなるホテルは、豊かな緑に囲まれ、静謐を湛えている。

    万平ホテルが創業したのは、1894年のこと。前身となる旅籠「亀屋」に滞在した宣教師たちを創業者の佐藤万平がもてなしたことがきっかけとなり、ホテルを開業した。万平は異国の地でも故郷のようにくつろいでほしいと、西洋文化を積極的に取り入れたことから“おもてなしは心なり ホテルは人なり”の言葉を掲げ、その想いはいまもホテリエたちに脈々と受け継がれている。そうした居心地のよさは国内外を問わず数多くの著名人に愛され、三島由紀夫や堀辰雄の作品に登場するホテルのモデルになったともいわれている。

    1902年に中山道沿いにあったホテルを現在の桜の沢へと移転し、36年には万平ホテルを象徴するアルプス館が誕生した。日光金谷ホテルや富士ビューホテルなども手掛けた名建築家・久米権九郎が設計したこの建物は、木組みのフレームをあえて露出したハーフ・ティンバー様式。ドイツで建築を学んだ久米らしいデザインで、2018年には登録有形文化財に指定された。

    そんな由緒あるアルプス館は、改装後もかつての外観をほぼ保ったまま。開業当初から掲げられている伝統の木製看板が迎えてくれた。エントランスやロビーも、創業時から親しまれてきた暖炉や、宇野澤秀夫による亀をあしらったステンドグラスなど、昔からの素晴らしい意匠を活かしたつくり。そのうえでエレベーターを新設してバリアフリー化を図ったほか、耐震工事を施すなど、より快適で安心なステイを目指した。

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    暖炉の両端には明治時代の芸術作品を配していたり、新設されたエレベーター前には大正時代に使われていた椅子と、伝統工芸の軽井沢彫が施されたテーブルが飾られるなど、130年の時の重みを感じさせる。ロビーから続くシックな赤絨毯は従来の色味を再現したもので、歴史ある調度品との調和を重視して改装を進めたことがうかがえる。
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    万平ホテルは軽井沢を代表する観光エリアの旧軽井沢銀座にほど近く、モダニズム建築を数多く生みだしたアントニン・レーモンド設計の「軽井沢聖パウロカトリック教会」なども徒歩圏内。浅間山や妙義連峰を一望できる、標高1200mに位置する絶景スポット「旧碓氷峠見晴台」や、白糸の滝にもクルマで10~20分ほど。閑静なホテルでゆっくりと過ごすことも、軽井沢の文化や大自然に触れることもできる立地だ。

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    インテリアも必見な“大人の空間”で味わう、伝統のレシピと優雅なひと時

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    メインダイニングルームのステンドグラスも宇野澤秀夫の作品で、開業以来大切に守り続けてきたもの。江戸と昭和の軽井沢の情景を2面の作品に描いており、窓に広がる中庭の今の景色とあわせて楽しむのも一興だ。

    ロビーを抜けるとあらわれるのは、クラシカルなメインダイニングルームだ。元々はダンスホールとしても使用されていたことから柱が少なく、広々とした空間を彩るように大きなステンドグラスやペンダント照明が輝くさまは、かつての設えのまま。そして開業当時の意匠を美しく再現した折り上げ格天井が、和の風格を見事に漂わせている。

    こちらでいただくディナーは、ホテルが誇る伝統のレシピを継承しつつ、新たな風を取り入れたフレンチ。新シグネチャーコース「けやき」は、軽井沢ならではの旬の食材を随所に用いてつくりあげた全6品を堪能できる。アラカルトも豊富で、重厚感あるダイニングながら気軽にディナーをいただけるのも嬉しい。

    かつての趣を残しながらも、より明るく開放的な空間に生まれ変わったと感じるのは、ダイニング奥に広がるサンルームのおかげかもしれない。中庭テラスに面した窓にはアイアンフレームが施され、日中には眩い陽射しがたっぷりと差し込んでくる。ディナーを味わった翌朝は、ここで朝食を楽しむのがよいだろう。

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    シグネチャーコース「けやき」は地産地消の考えにもとづき、季節ごとに地元食材を使い分けたメニューが並ぶ。ホテルを象徴するスズランがあしらわれたプレートやシルバーひとつとっても歴史を感じさせる。(¥21,000、サービス料別。以下同)
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    窓のアイアンフレームや床面を飾る淡いブルーを基調とした北欧調のタイルは、メインダイニングルームとはひと味違う雰囲気を醸し、明るいサンルームに仕上がっている。

    メインダイニングルームでディナーを楽しんだあとは、同フロアにあるオーセンティックなバーへ訪れたい。軽井沢彫の桜に囲まれた“The Bar”の看板を目印に、昭和初期から変わらぬドアを開けば、そこはまさにノスタルジックな大人の社交場。

    今回のリニューアルでは、赤絨毯に格子天井という和洋折衷のアルプス館らしさはそのままに、シャンデリアなどのインテリアをモダンなデザインに一新した。タイムレスな魅力に浸れるこの場所で、シグネチャーカクテルの「霧の軽井沢」や「軽井沢の夕焼け」を嗜めば、優雅に時を刻み続けるホテルの歴史をより一層感じ取れるだろう。

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    カウンター席とテーブル席は各7席。こぢんまりとした空間は、近くの別荘にステイする人々や地元住民たちも訪れる社交場になっている。
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    左:ジンベースにあんずのリキュールを効かせた「軽井沢の夕焼け」¥2,200 右:ウォッカベースに鮮やかなブルーキュラソーを合わせた「霧の軽井沢」¥2,200

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    四季折々の情景に触れる、和洋折衷の美しき客室

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    アルプス館の「クラシックプレミア」は48㎡のゆったりとした客室。リビングとベッドルームを仕切る磨りガラスや猫足が目を惹くレトロなバスタブは、昭和初期につくられたものを修繕して改装後も使い続けている。

    アルプス館の客室は3タイプ、全12室。数多の著名人を魅了してきた、久米権九郎による和洋折衷のデザインや伝統的な設えを継承し、インテリアなどを刷新している。今回ステイした「クラシックプレミア」には軽井沢彫の美しい模様が施された家具や違い棚、“万平格子”と呼ばれる独特な格子模様が刻まれたガラス障子など、和の技巧が光る客室に、真紅のソファや大理石調の丸テーブルを配した。異なる個性が見事に調和するだけでなく、不思議と居心地のよい客室に仕上げたのは、万平の伝統が成せる業だ。中庭側とエントランス側のいずれの部屋からも美しい緑を臨み、軽井沢らしい穏やかなステイが叶う。

    リニューアルに合わせて建て替えられた愛宕館は、“万平ホテルのDNAを受け継ぐクラシックモダン”をコンセプトに、ふたつのスイートルームを含む5タイプ全30の客室を備える。豊かな自然を望む窓辺にはこちらも万平格子が施され、温かみのある丸いペンダントライトなど和の意匠に、現代的なインテリアが馴染む。

    そしてなにより、全客室に塩沢温泉の湯をひいているのが愛宕館の特徴だ。“熱の湯”と呼ばれる保温効果に優れたナトリウムー塩化物・炭酸水素塩温泉で、身体の芯から温まるため湯冷めしにくく、神経痛や冷え性などに効果があるという。これまで冬季は休業していたが、リニューアルを経て通年営業になった万平ホテル。緑豊かな季節に訪れてエネルギーチャージするもよし、しんしんと降り積もる雪を眺めたあとに、熱の湯で身体を癒す真冬のステイもよいだろう。

    四季のうつろいと、木々や草花の息吹を間近に感じられる碓氷館は、客室がリニューアル。ウッディな床面にグリーンを基調とした設えが馴染む、温かみのある空間に生まれ変わった。3フロア全4タイプの客室とスイートルームの全44室から選べるが、テラス付の客室が多いのが碓氷館の魅力。秋には目の前の木立が色づき、部屋にいながら紅葉狩りを楽しめる。

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    「愛宕館 プレミア」は45㎡の広さ。万平格子の窓からは四季折々の美しい景色が客室を彩り、都会の喧騒から隔絶されたステイが叶う。1階の10室は同タイプのテラス付の客室もあるので、温泉で湯あみを楽しんだあとは軽井沢の心地よい風で涼むこともできる。
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    アースカラーをベースに控えめなグリーンが差し色になった「碓氷館 スタンダード」も広さは同じく45㎡。ミニキッチンに広々としたダイニングテーブルを備える「碓氷スイート」も有し、碓氷館のすっきりとした設えは長期ステイにも相応しいくつろぎを約束する。

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    ジョン・レノンが愛した、ロイヤルミルクティーとアップルパイの変わらぬ味わい

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    カフェテラスの屋外デッキでは、ペットとともに過ごすこともできる。ホテルに宿泊した時だけでなく、軽井沢散策の合間に訪れるのにもぴったりの場所だ。

    翌朝、万平ホテルでの上質なひと時が名残惜しいときは、カフェテラスにも忘れずに立ち寄ってほしい。明るい陽射しに包まれた開放的なテラスは、リニューアルで屋外デッキが広がった。ここではジョン・レノンが愛したことで知られる「伝統のアップルパイ」と、ジョンのリクエストでメニューに加えられたというロイヤルミルクティーを味わいたい。近くに別荘を持っていたことから頻繁にホテルに訪れていたというジョン・レノンファミリーとの逸話も多く、どこで過ごしてもさまざまな歴史にふれられるのは、万平ホテルが唯一無二の存在であることを証明してくれる。

    カフェテラス横のショップにはオリジナルアイテムも豊富に揃うので、旅の思い出やギフトはここで手に入れよう。ブランデーとドライフルーツの芳醇な香りが評判の「伝統のフルーツケーキ」や、リニューアルオープンを記念してつくられた新フレーバー「りんごとくるみのケーキ」、ホテルの魅力を詰め込んだ数量限定の「万平ホテルプレミアムクッキー缶」にも注目だ。このほかにも昭和初期のバゲージタグを復刻したステッカーやレトロなデザインのメッセージカードなど、万平ホテルの歴史を感じさせるグッズも必見だ。

    “ホテルは人なり”という言葉は、長きにわたり息づくホスピタリティを表すだけにとどまらない。創業当時からの設えを大切に修繕し、本当に価値あるものを時代を超えて保つ心意気。その想いがあるからこそ、万平ホテルはゲストとの数えきれない歴史が積み重ねられた建物を、時代に合わせた新しさを取り入れながらも、この場所で守り続けられるのだろう。130年の伝統を内包しながらもなお、しなやかに変わっていくのは、歴史や人々の思い出を守るためでもあるはずだ。これから先も長く続いていく万平ホテルの歩みのなかに、自分の大切な思い出もあったら嬉しい。そんな憧れを抱かせるホテルは、そうないだろう。

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    ロイヤルミルクティーのレシピをホテルのスタッフに教えたというジョンは、ここで故郷を思い出しながらティータイムを楽しんだのかもしれない。濃厚なミルクの味わいにアッサム茶葉の香りが広がる「ロイヤルミルクティー」(¥1,300)にはホイップクリームがのっており、ミルキーな味わい。信州産の紅玉りんごがごろごろと詰まった「伝統のアップルパイ」(¥1,500)はシナモンがアクセントになった正統派。
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    左:「伝統のフルーツケーキ」と新たな「りんごとくるみのケーキ」を一度に味わえる「パウンドケーキ 2種セット」¥3,200 右:ホテルの看板をデザインしたものやシンボルであるスズランが描かれたアイシングクッキー、カフェテラスのロイヤルミルクティーやアップルパイをイメージしたクッキーまで揃った宝箱のような一缶。パッケージにはメインダイニングルームのステンドグラスが描かれている。「万平ホテルプレミアムクッキー缶」¥7,600

    万平ホテル

    住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢925
    TEL:0267-42-1234    全86室
    https://www.mampei.co.jp/