ロールス・ロイスが、同社史上最もパワフルとうたう「ブラックバッジ・スペクター」を、2025年2月に発表。黒色を効果的に使い、標準モデルとの差別化をはかっているのも、独自の”デザイン”だ。

ロールス・ロイスといえば、輝くクロームのパンテオングリルや、その上のシンボル、スピリット・オブ・エクスタシーがすぐ思いうかぶ。ブラックバッジは、ロールス・ロイス車を象徴しているようなクロームの部分をダーク仕上げにしてしまった。
私が実車に接したのは、発表後まもない3月のバルセロナでだった。プレス向けにドライブの機会が与えられたのだ。バルセロナ市内と郊外、それにサーキットが、ひとつのパッケージだった。ロールス・ロイスでサーキットって……。

実車を目にした「ブラックバッジ・スペクター」は、全長5,490mmの堂々たるボディサイズ。それに、サイドウインドウのフレームや、アウタードアハンドルもダーク仕上げだ。ツヤ消しでもグロスブラックでもなく、金属感を活かしつつダークなモーシングウという仕上げで、高級感というより、独自のすごみのようなものが感じられた。
ロールス・ロイスはそもそも16年に「ブラックバッジ・レイス」と「ブラックバッジ・ゴースト」を導入。その際に「ブラック」を選んだ理由として、ファッション界や建築界のトレンドで黒やモノトーンが上質感や先端トレンドのシンボルだったと、2021年のプレスリリースで振り返っている。。
「ダークで、ただしイノベーティブなマテリアル、そして時として大胆な挿し色との組合せ」がシークだとし、ファッション業界ではヨウジ・ヤマモトやノワール・ケイ・ニノミヤなどの世界観を例にあげていた。---fadeinPager---

「ブラックバッジ・スペクター」は、単なる見かけだけの差別化ではない。「ロールス・ロイス史上もっともパワフル」とうたわれているのだ。最高出力は485kW、最大トルクにいたっては1,075Nmに達する。ブラックを使うことに、ちゃんと意味を持たせている。
足まわりは、サスペンションダンパーを強化。カーブを曲がるときの車体の傾きを抑えるとともに、急加速時にリアが沈んでフロントが浮き気味になりがちなスクワットを抑えた。ステアリングホイールの操舵力をやや重めに設定するともに、ドライバーへのフィードバック量を多めにして操縦性を向上……とエンジニアリング的な特徴は多い。
「なぜ(そもそも430kWとパワフルな)標準モデルの上をいくブラックバッジをスペクターに設定したのか。私たちが顧客のドライビングを調査し、またヒアリングをした結果、もっとパワフルなモデルがほしい、という声を聞いた結果です」

「ブラックバッジ・スペクター」には「インフィニティ・モード」が設定された。ステアリングホイールに設けられたボタンを押すとパワーとトルクが上がり、前記のパフォーマンスがフルに発揮される。

加えて「スピリテッド・モード」も。こちらは発進加速用のもので、左足でブレーキペダルを思いきり踏んでおきながら、右足でアクセルを全開にする。クルマは加速力よりも制動力が強いので、クルマは発進しない。が、車体がぶるぶると震えるように“発進したがっている”のがわかる。
そこでぱっとブレーキを開放すると、強力なバッテリー駆動によるモーターが1,075Nmの大トルクをフルに前後輪にかけ、ブラックバッジ・スペクターは、放たれた矢のように飛び出す。2,900kgと重量級の車体を、静止から時速100kmまで4.3秒しかかからない、スポーツカーも顔負けの加速力だ。

バルセロナの試乗会で、サーキットを使ったのも、この体験をさせてくれるためだった。加えて、3kmのコースを、インフィニティ・モードでのドライブで堪能させてもらった。
加速力、車体のコントロール性、制動力、すべてにおいて、これが全長5.5mのロールス・ロイス?と、自分がやっていることが信じられないほどのドライビングが体験できた。どうせ電動化するなら、そのメリットをフルに活かそうではないか、というロールス・ロイスの意気込みのようなものを感じた。---fadeinPager---

同時に、もうひとつ、感心したことがある。意外なほどの、乗り心地のよさだ。ロールス・ロイスは一貫して、高級ボートとの関連性を強調。乗り心地についても、船が水面をすーっと進んでいくことを表現するワフトなる英単語から、「ワフタビリティ」という造語でもって自車の乗り心地を表現している。
サーキットでも、車体が不用意に不揺れないし、加速、減速、カーブを曲がるとき、あらゆる場面で乗員のからだに予期しない重力がかからないような設定だ。
サーキット走行が終わったあと、エンジニアに感想を聞かれて、信じられないぐらい快適な乗り心地にびっくりした、こんなのサーキットで体験したことがない、と伝えたら、「同様の感想を言ったジャーナリストが何人もいました」とのことだった。

インテリアでは、「ブラックバッジ・イルミネーテッド・フェイシア」なるデザインが採用された。ブラックバッジの象徴であるインフィニティ・シンボルを。LEDを使った5,500個以上の“星”で表現。パセンジャーの前で美しく輝いている。
ダークだけれど、きらきら。まさにブラックバッジのイメージはそこにある。ブラックバッジでユーザー年齢が若返ったというロールス・ロイスの説明にもうなずける。ブラックバッジ・スペクターも、輝くような存在感のモデルだ。

ロールス・ロイス ブラックバッジ・スペクター
全長×全幅×全高:5,490×2,015×1,575mm
ホイールベース:3,210mm
電気モーター バッテリー駆動 全輪駆動
車重:2,900kg
最高出力:485kW
最大トルク:1,075Nm(スピリテッド・モード)
バッテリー容量:102kWh
乗車定員:5名
一充電航続可能距離:493ー530km(WLTP)
価格:¥56,140,000~
問い合わせ:ロールス・ロイス・モーター・カーズ・ジャパン
www.rolls-roycemotorcars.com