4月に開幕する大阪・関西万博のフランス館では、1970年の大阪万博のパビリオンで用いられた作品にオマージュを捧げ、特別にデザインされた家具が登場する。日本とフランスの文化を讃えるその特別なクリエイションにぜひご注目を。
半世紀前の万博を彩った、記念碑的デザイン
1970年に大阪で開催された日本初の万国博覧会において、フランスは著名なインテリアデザイナー、ピエール・ポランに館内の設計を依頼した。ポランは、カラフルで有機的なフォルムの家具で知られ、1960年に発表された「マッシュルーム」チェアは、伸縮性のある布で全面を覆った初の椅子のひとつとされる。この技術は、大阪万博のフランス館の象徴ともいえるベンチ「アンフィス」にも活かされた。フランス国旗を想起させる3色のモジュールから成るこのカーブを描くソファは、一部がわずかに隆起し背もたれとなる構造を持ち、その大胆さと柔軟性がデザイン史に刻まれている。

その後、フランスは万博のために専用のインテリアデザインを採用するということはなかった。しかし、大阪・関西万博2025において、国有家具の管理・制作を担う公的機関「モビリエ・ナシオナル」はこの伝統を復活させることを決定。家具デザインの任を託されたのは、ヴィラ・ノアイユ(建築、デザイン、ファッション、写真を専門とするアートセンター)によって推薦されたデザイナー、ジャン=バティスト・ファストレだ。
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伝統を復活させ、大阪・関西万博のためにデザインを構築
最高品質の屋外家具ブランド「テクトナ」とのコラボレーションにあたり、ファストレは短期間での制作を求められた。「新しい技術を用いずに、いかに革新的なデザインを生み出すか」。この挑戦に対し、彼は木材とメタルチューブを組み合わせることを決め、デザインの構築に注力した。

フランス館の飲食エリアに設置されるチェア、その名も「Osaka 25」のデザインには、伝統的なビストロチェアのイメージが反映されている。ファストレは、ウィーン分離派の美学を取り入れつつ、ヴィラ・ノアイユを設計した建築家ロベール・マレ=ステヴァンスのチェアに敬意を表した。さらに、背もたれ部分には遊び心が加えられ、その曲線が「トーネット」を思わせると同時に、カエルの顔のようにも見える。
このデザインには偶然の発見が関係している。カエルは、英語圏で「フロッギー」と呼ばれるフランス人を象徴する生き物でありながら、日本では旅人の守護としての意味も持つ。日本語でカエルを意味する「かえる」は「帰る」と同音であるため、旅人が無事に戻れるようにと、お守りとしてカエルの形をした小物が用いられてきたのだ。
「日本の浮世絵には、旅人がカエルの形をしたお守りを携えている姿が描かれています。この家具もある意味で、フランス館のための“お守り”のような存在になるのではと思いました」とファストレは語る。彼は動物的なフォルムを想起させるデザインを得意としており、2019年にGalerie kreoで開催された『Vivarium』展でもその特徴が際立っていた。

大阪万博終了後、この家具はモビリエ・ナシオナルによって、他のフランスの公式施設へと引き継がれる予定だ。これまで、同機関には屋外用の家具がほとんどなかったため、「Osaka 25」シリーズのデザインにあたっては、室内外どちらにも適応できる仕様が求められた。そこで、木材と金属を組み合わせ、家庭的な温もりを持たせつつ耐久性を確保する工夫が施された。木の質感を活かしながらも、何層にも重ねた透明な仕上げが施され、深みのある色合いに。カラーバリエーションにはフロッググリーンもあるが、大阪万博のフランス館では、レセプション空間のクリエイティブ・ディレクターであるジョゼ・レヴィが手がけた内装に調和するブラックが選ばれた。
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愛をテーマに、日仏の文化を融合させたデザイン
フランス館のテーマは、エディット・ピアフの名曲に由来する〈愛の賛歌〉。レヴィは、フランスと日本の相互の敬愛を表現するべく、両国の文化を融合させたデザインを生み出した。「日本とフランスの間にある親和性が、とても好きです」と彼は語る。

ジョゼ・レヴィ自身もまた、日本文化への深い愛情をもつアーティストだ。彼の祖父母はオリンピック公式畳の供給元であり、日本から持ち帰った美術品が身近にある環境で育った。後年、京都のヴィラ九条山での滞在を機に、日本の伝統工芸を独自の視点で再解釈し、能面をモチーフにした畳の座や、武士の姿をねぶたとして再解釈するデザインを発表。日本の素材メーカー「ダイケン」との協働により、メンテナンスの手間や匂い、変色の問題を解消しつつ、天然イグサの風合いを再現した紙製の座面を持つ漆塗りの長椅子「ムービング・タタミ」を開発。このシリーズの長椅子は、まるでメリディエンヌのようなフォルムで、くつろぎを誘うデザインとなっている。大阪万博のフランス館では、プロトコール・ラウンジに設置される予定だ。
日本の伝統や職人技が空間を彩る
この空間は、ハイレベルなレセプションのために設計されており、そこには卓越した職人技が息づく作品が並ぶ。ガルニエ&リンケによる銀箔をあしらった屏風は、日本の工芸ブランド「宏精堂」の技術によって製作され、ピエール・ポランへのオマージュとして「アンディ」チェアも配される。「ポランの家具は、ほんの少し低めの座面が特徴的で、日本的な雰囲気を感じさせます」とレヴィは述べる。

パートナーラウンジでは、フランスの遺産とのつながりがさらに強調される。このフランス館の中心的なエリアでは、ステラ・カデンテによる幻想的な壁画が壁一面を黄金に輝かせている。この洗練された空間に、ジョゼ・レヴィは大阪・関西万博2025のために特別に制作した家具を配置した。彼は、モビリエ・ナシオナルに保存されていた設計図をもとに、フランスの著名なインテリアデザイナーであり、パリの地下鉄駅のアイコニックな座席を手がけたジョゼフ=アンドレ・モットの未発表デザインを現代に甦らせた。
この親密なラウンジでは、モジュール式の幾何学的なフォルムを持つシートが、長く連結されたり、島のように配置されたりと、用途に応じて自由なレイアウトが可能となっている。これは、1970年の大阪万博でピエール・ポランがデザインした座席へのオマージュともいえる。このシートは、デュヴィヴィエ・カナペによって制作され、現代の使用環境に適応するよう金属製のゴールドポリミラー仕上げのベースでわずかに高さが調整された。さらに、レリエーヴルによって選定されたウッディな色調のレザー張りが施され、ラウンジの豪華な雰囲気と調和している。

フランス館の内装は、ジョゼ・レヴィが厳密さと創意を交えて設計した。ソコア社が製作した3脚の椅子は、建築全体を貫くテーマである恋愛の三角関係を表現する。それぞれフランスの国旗、日本の国旗、そして愛を象徴する赤一色が配され、館内の随所に点在することで、華やかな空間にユーモラスなアクセントを加えている。フランス館は愛の国への旅を提供し、感情を呼び起こすことを目的とし、ジョゼ・レヴィは来場者の笑顔を引き出すことを大切にしているのだ。
