ともに生き、輝く未来へ──エズ・デヴリンが案内する大阪・関西万博ウーマンズ パビリオンとは

  • 文:久保寺潤子
Share:

長年ジェンダー平等を支持し、世界の課題に取り組んできたカルティエが、内閣府、経済産業省や博覧会協会とともに共同出展する、大阪・関西万博のウーマンズ パビリオン。「ともに生き、ともに輝く未来へ」をコンセプトに掲げ、すべての人々が平等に生き、尊敬し合いながら、それぞれの能力を発揮できる世界を目指している。

Women's Pavilion_Building at night_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg奥へ細長く続く日本の長屋をイメージして再構築された、永山祐子によるウーマンズ パビリオン。

私的な物語から始まる、ともに生き輝く未来

2020年ドバイ万博から2025年大阪・関西万博へと続くウーマンズ パビリオンのミッションは、将来の世代へと受け継がれるレガシーを創造するとともに人類の叡智をひもとき、コラボレーションの力を示すこと。ジェンダーの枠を越えて対話を広げ、共生と持続可能性の相互作用を考察する。

建築を手掛けるのは、リード アーキテクトを務める永山祐子。日本の伝統工芸である組子にヒントを得てつくられたファサードは、ドバイ万博の日本館で取り入れられた画期的な構造だ。解体された約7000個の部品はQRコードで管理され、AR技術を使って再構築が可能。大阪・関西万博では町屋建築にインスパイアされ、日本の伝統的な建築方法を取り入れた。館の内外に取り入れた木々は近隣から持ち込まれたもので、展示終了後には自然に戻される予定だ。

Women's Pavilion_Building_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg
館の内外に配置された植物は、近隣の山から持ち込まれたもので、万博閉会後はまた自然に戻される予定。
Es Devlin_Portrait_1_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg
エズ・デヴリン●イギリスの美術家。光、音楽、言語を組み合わせた大規模な彫刻作品を制作し、深刻度を増す気候変動に関する人々の理解や行動の変化をうながす。作品はイギリスのテートモダン、サーペンタイン、V&Aほかに展示。世界的アーティストやオペラの舞台演出をはじめ、2012年ロンドンオリンピックの開会式、20年ドバイ国際博覧会の英国パビリオンも手掛けた

会場の空間演出を指揮するグローバル アーティスティック リードのエズ・デヴリンは、世界中で舞台やインスタレーションなどを手掛ける美術家だ。このたびエズが、完成を間近に控えたウーマンズ パビリオンを案内してくれた。

来場者はまず、入り口のスピーカーに向かって自分の名前を告げ、これから始まる物語の一部となる。
「万博というのは国を代表するパビリオンがメインですが、私たちは全世界の女性を代表したパビリオンをつくっている。これはとてつもなく難しいことです。はじめにプロジェクトの内容を聞いたとき私の脳裏に浮かんだのは、アイリスの花を持った3人の女性が、内に秘めていた物語や経験について語り合う姿でした。来場者はオーディオを使ってこの女性たちの声を聞くことになります」。

3人の女性とは、ダボス会議やグラスゴー気候会議でスピーチを行ったスーダン出身の詩人、24歳の気候活動家、そして日本からは小説家の吉本ばななが登場。異なるバックグラウンドを持った女性たちの経験に耳を傾けることで、来場者は彼らの親密な物語を追体験することになる。

Women's Pavilion_Interior_2_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg
3人の女性の物語へと続く入り口。
Women's Pavilion_Interior_Banana pathway_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg吉本ばななの空間では、下町で生まれ育った小説家の私的な物語が繰り広げられる。

日本でのパビリオンを手掛けるにあたってエズは、瀬戸内海の直島と豊島を訪れた。
「ヨーロッパの人間にとって、直島や豊島は夢のような場所です。そこには場所と空間、建築と詩の出合いがありました。空間が主役になり、部屋そのものが語り出すという貴重な経験をすることができました」

空間自体が主役になる、というエズの体験が生かされたのが、パビリオン中程にある卵型をした円形の空間だ。
「私は毎朝少しだけ早起きをして、ブラインドから差し込む光の線を見つめる習慣があります。光線だけに意識を集中するよう脳を訓練することで、私たちの存在を可能にしている惑星、太陽と対話をするのです。この卵型の空間では光がゆっくりと移動していきます。ここに身を置くことで自分は何者でもなく、ただ光の一部であるかのような感覚に包まれるでしょう」 

スクリーンショット 2025-03-26 1.15.46.png光に包まれる空間。天井にくり抜かれた卵型の空間は、座る位置によって異なる形状に見える。

会場には女性のエンパワメントに取り組む著名な人物を特集したパネルが展示されている。
「ここで紹介されているJJ・ボラという男性は、男性であること、さらには黒人男性であることについての本を執筆しています。彼を紹介することで、女性のアイデンティティは男性のアイデンディディと不可分に絡み合っていることを伝えたかったのです」。エズ自身も、仕事で家を空けることが多く、二人の子どもの世話を夫に任せてしまったことで、夫が職を失うという経験をしたという。
「人間が種として進歩するのはケア(世話)をすることが一つの芸術であると認識したときではないかと思うのです。そしてそれは男性であるか女性であることとは関係ありません。私の夫は『あなたの妻はいつも出張しているけれど、どうやって家庭を切り盛りしているの?』と聞かれると、こう答えています。『父親としての腕を磨くチャンスを与えてもらっているよ』と」

ウーマンズ パビリオンでは多くのアーティストとのコラボレーションも見どころだ。プレリュードムービーを担当した映画監督の河瀬直美、最後の部屋に登場する女優の黒柳徹子、ポートレートや彫刻、サウンドスケープ、バーチャルリアリティを駆使して女性のエンパワメントを探る女優/映画監督/アーティストのメラニー・ロラン、「人間性の共有」をテーマに作品を制作した森万里子ほか、景観デザイナーの萩野寿也、sacaiのデザイナー/クリエイティブディレクターの阿部千登勢らが参加する。

Women's Pavilion_Sculpture Garden_Victor Picon ©Cartier_RVB.jpg景観デザイナーの萩野寿也による地元の植栽を使ったガーデン。空との一体感が感じられる開放的な場所だ。

また2階にある「WA」スペースは、アイデアの合流点としての役割を果たし、講演会やパネルディスカッション、展示などによりグローバルな課題を掘り下げる場として活用される。ここでは「大いなる地球」、「ビジネスとテクノロジー」、「教育と政策」、「芸術と文化」、「フィランソロピー」、「役割とアイデンティティ」という6つのテーマについてビジョナリーリーダーや活動家、専門家とともに、人々の行動を喚起する。

女性というキーワードを中心に据えたこのパビリオンは、決して女性だけに向けられたものではない。地球規模の課題解決やあらゆる分野での平等を前進させるために、すべての人類が思いを共感し、対話を始めることが求められている。

ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier
https://womenspavilion.cartier.com/ja/ 

カルティエ www.cartier.jp