日本と最古の縁を持つ独立系ブランドの雄、ジラール・ペルゴの3本【腕時計のDNA Vol.19】

  • 文:柴田充
  • イラスト:コサカダイキ
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右上:「ロレアート クロノグラフ アストンマーティン エディション」英国の伝統色であるグリーンからホットなオレンジへと色彩を変える。 右下:「ヴィンテージ1945 グレー ジャパン エディション」角形に対し、文字盤は中央のサークルから放射状にインデックスが広がる。 左下:「ネオ コンスタント エスケープメント」上半分をふたつの香箱が占め、下方にはスケルトン仕様になった最新のコンスタントフォース脱進機の動きが楽しめる。

連載「腕時計のDNA」Vol.19

各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。

スイスの時計ブランドの多くがグループに属するなか、あくまでも単独で独自のウォッチメイキングを貫く独立系ブランドがある。そのひとつがジラール・ペルゴだ。1791年にジャン=フランソワ・ポットがラ・ショー=ド=フォンに創業した時計工房を前身に、1856年に時計師コンスタン・ジラールと妻マリー・ペルゴの名からブランド名を名付けた。マニュファクチュールとして2世紀以上の歴史を誇り、この間、2011年にケリンググループの傘下に入るなど変節はあったが、それでも22年に姉妹ブランドのユリス・ナルダンとともに再び独立系ブランドに立ち返った。

現代の時計産業においてグループに属することは、経営基盤の安定や設備、技術の共有化などスケールメリットも大きい。それでもジラール・ペルゴが独立系としてあり続ける原動力になっているのが、唯一無二の腕時計を生み出すマニュファクチュールの強い意志だ。その技術は「スリー・ゴールド ブリッジ トゥールビヨン」に代表される審美性を備えた複雑機構を筆頭に、初期のクオーツ開発を手がけ、いまも革新的な機構に積極的に取り組み、汎用ムーブメントを他社に供給することでスイス時計産業を支えている。

近年では「ロレアート」がブレイクし、モダンヘリテージにも注目が集まる。それは伝統を守りつつ、次世代へとつなげるマニュファクチュールのあり方とともに、長期展望に立った独立系ブランドならでの唯我独尊という価値を知らしめるのである。

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新作「ロレアート クロノグラフ アストンマーティン エディション」

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ロレアート クロノグラフ アストンマーティン エディション/文字盤にはあえてコラボを表記せず、印象的なグリーンのダイヤルで個性を主張する。自動巻き、チタンケース&ブレスレット、ケース径42㎜、パワーリザーブ約46時間、100m防水。¥3,190,000

英国を代表するスポーツカーとのコラボ最新作

ブランドのアイコンモデルとして高い人気を誇る「ロレアート」の新作は、アストンマーティンとのコラボレーションによる。ジラール・ペルゴは1995年にフェラーリとタッグを組み、異業種コラボの先駆けとなった。クルマとの親和性はそれだけ高く、英国を代表する高級スポーツカー、アストンマーティンとは2021年に公式パートナーシップを締結。これまで6作のコラボモデルを発表している。その最新作「ロレアート クロノグラフ アストンマーティン エディション」は、チタンケースを鮮やかな虹色のカラーダイヤルで彩る。

文字盤は、英国のスポーツカーを象徴する伝統色グリーンにインスピレーションを得て、通常はクルマに用いられる偏光性のペイントを施す。す。製造には14工程を要し、ごく薄く15層に塗り重ね、さらに 2回加熱処理を施すことで完成する。繊細な光の効果で見る角度によって、グリーンからオレンジへと美しく色彩が変化するのだ。

軽量なチタンを採用したケースは、英国車の伝統である軽快な走りを想起させる。同時に強靭、高剛性や耐食性、非磁性、さらに低アレルギー性といった特性も併せ持つ。内蔵するクロノグラフムーブメントは、自社キャリバー「GP03300」を採用し、マニュファクチュールの本領を発揮する。さらに時分を差すスケルトン針は、レギュラーモデルのペンシル型ではなく、やはりアストンマーティンを象徴するフロントグリルをモチーフにデザインしている。

ケースとの一体感あるブレスレットは、人間工学に基づき、手首にも心地よくフィットする。それはまさしくクルマにおけるマン-マシンの設計思想にも通じ、両者の関係をより強く印象づけるのだ。

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定番「ヴィンテージ1945 グレー ジャパン エディション」

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ヴィンテージ1945 グレー ジャパン エディション/なめらかな曲面の文字盤に、凹凸をつけたスモールセコンドと日付カレンダーが調和する。自動巻き、SSケース、ケースサイズ33.3×32.46㎜、パワーリザーブ約46時間、アリゲーターストラップ、30m防水。¥1,848,000

日本との絆から生まれた人気レクタンギュラー

2世紀以上のブランドの軌跡は、決してたやすいものではなかった。特にクオーツが台頭した1970年代以降、商社に買収されたことで伝統的な機械式からクオーツ中心の事業に転換せざるを得なかった。これを再びマニュファクチュールに戻したのが、85年に参画したルイジ・マカルーソであり、92年にCEOに着任、開発を指揮した代表作が「ヴィンテージ1945」だ。

その名の通り、45年に発表されたアーカイブをモチーフに復刻する。当時流行していたアールデコのデザインに、角形のケースに対してサイドは手首に沿うような流麗なカーブを描く。初代のデビューから半世紀を迎えた95年に発表、一躍ブランドのアイコンになり、これをはじめとする数々の功績はマカルーソを中興の祖として讃えるのだ。

「ヴィンテージ1945 グレー ジャパン エディション」は、これにもうひとつのレガシーを添える。日本との歴史的な関わりだ。ジラール・ペルゴは、1864年の日本とスイスの通商条約締結後、日本に上陸した初のスイス時計であり、来日した創業家フランソワ・ペルゴこそ、その魅力と文化をもたらしたのである。

特徴的なレクタンギュラーケースに、シルバー文字盤とグレーストラップをワントーンで組み合わせる。そのアクセントとして全体をシックに引き締めるのが、針やインデックスに用いられたブルーだ。それは日本の伝統色である藍色を思わせ、日本との強い絆を物語るのだ。

今年は誕生から80年、復刻から30年を迎え、その品格にさらに磨きをかける。まさにタイムレスな名作だ。

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通好み「ネオ コンスタント エスケープメント」

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ネオ コンスタント エスケープメント/先進性をアピールした前衛的なデザインに、9時位置には直線上にスライドするパワーリザーブ表示を備える。手巻き、チタンケース、ケース径45㎜、パワーリザーブ約7日間、ラバーストラップ、30m防水。¥14,014,000

革新機構にマニュファクチュールの本領を発揮

「スリー・ゴールド ブリッジ トゥールビヨン」は、1884年に特許を取得し、ブランドの世界的な名声を確立した。やがて創業200周年の1991年には腕時計として発表し、連綿と続くマニュファクチュールの伝統を象徴する。そしてその独創性と革新性はいまも受け継がれている。2013年に発表した「コンスタント・エスケープメントL.M.」だ。

通常の脱進機とは異なり、シリコン製パーツを用い、中央に設けた線状のブレードが上下にしなる一定の動きでアンクルとテンプを動かす。そのパワーは、ふたつの香箱の残量に関係なく安定し、長時間駆動と高精度を両立。同年のジュネーブ時計グランプリで「金の針」賞を受賞した。

「ネオ コンスタント エスケープメント」は、これをさらに進化させ、シリコン製ブレードの形状変更や部品点数を減らし、従来の6日から7日へ駆動時間を向上している。デザインも刷新し、時分表示をインダイヤルから中3針に変えることで視認性を高めた。さらにガンギ車を支えているブラックのブリッジは、スリー・ゴールド・ブリッジのデザインに着想を得て、変わることのない先進技術への情熱が息づくのだ。

開発には20年以上を費やし、伝統的な脱進機に革命をもたらす技術であるとともに、エコロジー発想に基づく省エネ設計は今後の機械式時計の大きな布石となる。複雑時計におけるブランドの存在感をあらためてアピールし、常に先進を追求するオート・オルロジュリーの未来を示唆するのである。

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独立系へのこだわりがブランドの未来を開く

ジラール・ペルゴのCEOであるパトリック・ブルニエに腕時計づくりで大切にしていることを訊ねたところ、「クオリティ」「エクスクルーシブ」「ディシプリン(信念)」と答えた。そのためにはグループに属さず、独立系であることは不可欠であり、それによって長期的展望に立ち、ブランドの理念を貫き、製品開発にもじっくりと取り組むことができる。そこから定番であるロングセラーであり、革新的な脱進機も生まれたのだろう。そして真摯な姿勢は時計愛好家の信頼を育み、ブランドを長く存続させる。

最新のトピックスでは、マネージングディレクターにマルク・ミシェル=アマドリーの就任が伝えられた。2017年から昨年までIWCのCCOを務め、その辣腕がブランドに新たな息吹を与える。新たな体制の下、次世代に向けた高級時計マニュファクチュールの動向から目が離せない。

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柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。

ソーウインド ジャパン

TEL:03-5211-1791
www.girard-perregaux.com

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