この春、第12回ワールド・オーシャン・サミットが東京で開催された。持続可能な海洋資源の存続や海洋経済の発展を目的に2012年に設立された国際会議で、日本では初めての開催となった。世界各国から訪れたさまざまな有識者が講演を行う中で、登壇者のひとりがローラン・バレスタだ。海洋科学者であり、著名な水中写真家として、「ゴンベッサ・プロジェクト」でブランパンとともに取り組んでいる。バレスタにプロジェクトの意義とそれを支える「フィフティ ファゾムス」の魅力について聞いた。
6回目を迎えた、ブランパンが支援する海洋探査プロジェクト

1953年に誕生した「フィフティ ファゾムス」は、70年以上の歴史を誇るモダンダイバーズのパイオニアとして知られる。その開発と軌跡を通し、ブランパンは海洋の環境保全に関わる探検家や写真家、科学者らと緊密な関係を築いてきた。「ブランパン オーシャン コミットメント(BOC)」は、その資金援助だけではなく、「原始の海」プロジェクト、「ワールド オーシャン イニシアチブ」などさまざまな組織と連携し、活動を展開する。ローラン・バレスタの「ゴンベッサ・プロジェクト」もそのひとつだ。

ゴンベッサとは、7000万年前に絶滅したと考えられていた先史代の魚シーラカンスを意味する。プロジェクトは2013年にインド洋での調査研究から始まり、翌年はポリネシアでマダラハタの群れの謎を解明した。これに続き、南極での地球温暖化の海洋生態系への影響を測定したほか、再びポリネシアでのグレーシャークの集団狩猟を研究した。活動は海洋生物の生態調査にとどまらず、飽和潜水と閉鎖式リブリーザーを併用した世界初の潜水法にも取り組み、深海での20日間の探査を実現している。


第6回となった最新のプロジェクトは、「ミッション・カップ・コルス」と名付けられ、コルシカ島沖合の水深100m以上に広がる巨大な環礁群に挑んだ。なぜ地中海にひとつの直径が30mにも及ぶ環礁群が生まれたのか。その調査研究は海洋地質学へと広がり、地球が歩んできた長大な時間軸にも向き合うことになった。「ゴンベッサ・プロジェクト」を通して、海への飽くなき冒険心と好奇心は、人類の叡知と可能性を無限に広げるのである。

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深海にあった"巨大なリング"の謎
第6回ゴンベッサ・プロジェクトは、2021年7月にスタートした。
コルシカ島沖合の水深115〜140mに巨大な環(リング)がある。調査の結果、10㎢の範囲に1417個見つかった。バレスタは説明する。
「4年間の潜水調査の結果、そのリングの起源が約2万1000年前の地球最後の氷河期に、海面が120m低かった時期に関係しているとわかりました。それは、ガスの湧き出し口の周りに小さなサンゴが成長した痕跡だったのです。やがて海面が上昇し、ガスが止まってからもサンゴは成長し続けました。最も興味深かったのは、いままで記録されていなかった生態系をこの場所で発見したことです」
さらに遡れば、湧き出すガスやサンゴ、リーフをかたちづくった現象は1億年前の岩石の変成作用から始まっている。深海に広がるのは、太古からの時に刻まれた地球の光景だったのだ。

「リングは過去から来たものですが、存在しているのはいま現在です。そして、これらは保護される必要があります。つまり過去の研究が、未来に向けた保護の根拠を与えてくれたのです。このリングに生息している生物多様性を守ることが、未来へのつながりになると考えています」
過去から現在、そして未来が海の世界にはある。そこから学ぶことは多いという。
「時間がどれだけ貴重か、ということです。それはダイビングを始めてまず最初に学ぶことで、人間にとって海中での1分1秒は特別で、まさに特権です。そして特権には代償が伴います。たとえば水深100mで30分過ごすには、減圧に5時間以上かかり、それだけの短時間のために長い時間をかける必要があるんです」
そのためフリーダイビングからスキューバ、(呼吸ガスを排出せず再利用する)リブリーザーへと技術は進化し、より長く、安全な潜水を実現してきた。ブランパンが「フィフティ ファゾムス」70周年を記念し、2023年に発表した「フィフティ ファゾムス 70周年記念 ACT2 テック ゴンベッサ」はそのチャレンジを支える。

潜水時間を計る回転式ベゼルの目盛りは、通常の1時間ではなく、3時間を刻み、3時間で1周する針を備える。この特許申請の技術に加え、セラミックベゼルやグレード23チタンのケースに、ラグはミドルケースの内側から中央に固定する。開発にはバレスタをはじめプロジェクトメンバーが加わり、4 本の試作品は「ゴンベッサ・プロジェクト」の第4回・5回のミッションの一部に約50日間、水深120mにおいて着用された。
「伝統的なダイバーズウォッチですが、現代のダイビングに合うよう設計されています。そのための3時間ベゼルであり、現代のダイビングはどれだけ深く潜ったかより、どれだけ長く滞在したかが求められます。水深40mで2時間滞在するほうが100mで短時間潜るよりはるかに難しく、リスクも高い。テックゴンベッサは、まさしく“時間こそが重要”という象徴なのです」

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美しい海と環境保全の大切さに思いを馳せて

この春登場した「フィフティ ファゾムス テック BOC IV」は、こうしたBOCの活動から生まれたテックラインの最新作だ。前述の「フィフティ ファゾムス 70周年記念 ACT2 テック ゴンベッサ」のデザインを踏襲し、ケース径を47㎜から45㎜にスリム化し、300m防水にヘリウム自動減圧バルブを備える。
大振りではあるが、チタンケースの軽量性とラバーストラップのフィット感がそれを感じさせない。むしろ力強い存在感は、深海で絶対の信頼を寄せるにふさわしい。
販売される時計1本毎に1,000ユーロが、今年開設された「ブランパン x スルバーイ マリン リサーチ センター」に寄付され、合計100,000ユーロの基金を設立する。リサーチセンターでは、フィリピンのパラワン州シャークフィン湾に設けた海洋保護区での海洋生態系の研究、復元、保護の強化を目指し、その活動を支えるのだ。


価値をさらに高めるのが、付属する寄付証明書と時計のシリアル番号に対応する特別な100枚の写真だ。これは、バレスタがシャークフィン湾周辺に生息するカブトガニを撮影したもの。1億5千万年前からほとんど変わらぬ形態もいまや絶滅の危機に瀕し、海洋保護区で保護されている。その姿を写した希少な作品だ。
時計を手にする誰もが、冒険心に満ちたダイビングに誘われるだけでなく、BOCへの参加意識とともに、海洋環境保全の大切さに改めて思いを馳せることだろう。
