
アップル社大型デジタル情報機器、MacBook Air(左)とiPad Air(右)が、ほぼ同時にアップデートされた。ノートパソコンというジャンルの完成形のMacBook Airと、まだまだ用途が広がり続けているタブレットというジャンルの開拓者のiPad Air。あなたに合っているのはどちらの機種だろう。
3月4日、アップル社のCEO、ティム・クックが、ソーシャルメディアのXに「There’s something in the air.(何かの気配がする)」という謎の動画メッセージを投稿した。
実はこれ、2008年に創業者の故スティーブ・ジョブズが初代MacBook Airを発表する直前に使われたティーザー広告の言葉だ。その後、発表されたMacBook Airは瞬く間に世界で最も売れているノートパソコンに成長した。アップルは、その人気にあやかって2013年には「Air」の称号をiPadにも拡張、「iPad Air」を発表した。また2016年には「AirPods」も発表している。
日常に軽やかに空気のように溶け込む―「Air」というネーミングには、そんなミニマリストの美学を感じさせる。
さて、クックの投稿の翌日、アップルはM3プロセッサ搭載で進化した新「iPad Air」、さらに次の日にはM4プロセッサを搭載した新「MacBook Air」を立て続けに発表した。
どちらもiPad、Macという2大製品ファミリーを代表し、ほとんどの人のニーズをこなしてくれる最もおすすめの製品、つまり主力製品だ。
iPad、MacBookともに、この「Air」以外に、「Pro」の名が付くモデルがあるが、こちらはスポーツカーやレーシングカーのようなフラグシップとしての存在。多少高価でも最高のスペックや最新テクノロジーを手に入れたい人や、それを仕事を通して価値に還元できる人をターゲットにしたモデルといえよう。一方で、一般層のニーズは「Air」がしっかり満たしてくれる。その上、本体のカラーバリエーションやカラフルなアクセサリーで自分のスタイルに合わせて彩ることもできる。
では、あなたのライフスタイルや仕事に合うのはどちらの製品だろうか。2種の違いに触れつつ、その特徴を語っていこう。
2010年、スティーブ・ジョブズが最初のiPadを発表した時、スマートフォンとノートパソコンの中間的性質の製品で、どのように使われる製品かはわかっていないと語っていたが、それから15年経ってiPadがどのような製品かを理解した人も増えてきた。
今回、iPad AirとMacBook Airがほぼ同時にリニューアルされたのは、もしかしたら、「あなたのデジタルライフスタイルを今一度見つめ直し、真に共鳴する相棒を選び直す時ではないか」という静かな問いかけなのかも知れない。
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iPad Air:用途が広がり続ける変幻自在の魔法の板

iPad Airは、シリーズの基本となる製品だ。製品名が「iPad」だけで何もつかない通称「無印iPad」というモデルもある。しかし、こちらは企業や学校が大量導入することを目指した価格最優先のモデルで、本当に最低限のことしかできない。最新のモデルでありながら、これからのアップル製品で肝となるアップルインテリジェンスという機能にも対応しない(日本では4月から利用可能になる)。そう考えると個人で買って長く愛用するのであれば、このiPad Airが基本モデルとなる。
その特徴は、製品としての形状は11インチまたは13インチのタッチディスプレイが埋め込まれた6.1mm厚の1枚の板。裏面にはカメラのレンズが1つ付いている。重量も11インチモデルが460グラム、13インチでも617グラムとおよそ本1冊分の重さだが、この中に何万冊を詰め込むことができ、Webの情報にもアクセスできるのは、特筆に値する。
これ以上ないというくらいにシンプルな形状だが、このシンプルなかたちが、この15年間、例えば農林水産業やスポーツ、ファッション業界、サービス業、医療や教育や育児の現場など、パソコンによるIT革命から取りこぼされていたさまざまな領域で革命を起こしてきた。
これだけ幅広い使われ方が生まれたのは、使い方も覚えやすく何も余計なものがついていないから、デジタル機器に慣れていない人でもすぐに使い始めることができたことが大きい。他にも、後から必要に応じて文字や絵を描くためのApple Pencilを加えたり、文章を入力するためのキーボードだったり、その両方を加えてみたり、額縁に入れて壁に展示をしたり、治具を使って三脚や車椅子などに取り付けて使ったりもできる。

パソコンと同じUSB-C(USB3規格)が用意されているので、これをデジタルカメラと撮影してスタジオでの確認用モニタとして活用している人もいれば、小型プロジェクターと一緒に持ち歩いてどこでも資料を投影できるようにしている人も、サイドカーという機能を使ってMacのセカンドディスプレイとして持ち歩く人もいる。
搭載プロセッサはM3で、iPad Proが搭載する最新M4プロセッサより1世代前のものだが、アップルインテリジェンスを含む最新の使い方にも十分以上の性能で対応。M1搭載のiPad Airからわずか3年で性能が2倍近く向上している(昨年のM2搭載モデルと比べても10〜15%ほど速い)。
だが、iPad Airは性能以上に使い方の多様さが強みだろう。キーボードを取り付けてMacBook Air同様の使い方もできるが、必要に応じてマグネットでくっつくキーボードを取り外して500グラムの板だけを鞄の資料の間に忍ばせて休憩時の読書や動画視聴にも活用できる。かと思えば、会議では思い立ったアイディアをサッとApple Pencil(別売り:1万3800円)でメモする。さらに絵心がある人なら、Apple Pencil Proを使うこともできる。
ある時は、鞄の中に資料と一緒に忍び込ませられる500グラムほどの軽いデジタル機器として。そしてある時は、仕上がりを確認しながら撮影できる大型のデジタルカメラあるいは拡大鏡として、日常のあらゆる場面をサポートしてくれる。
最初のモデルの登場から15年、iPadの強みは、まるでビニール袋のように、ある時は持ち歩き袋、ある時はゴム手袋の代わりとして使われるようにニーズに合わせて七変化する柔軟性を持つことが多くの人に浸透してきた。そしてそこに魅力を感じる人にとって今、一番おすすめなのがこのiPad Airなのだ。

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MacBook Air:究極まで洗練を重ねたノートパソコンの完成形

これに対して1989年の東芝ダイナブック、翌年のアップル社PowerBookから始まったノートパソコンの最終到着地を思わせる完成形となっているのがMacBook Airだ。
「クラムシェル」、つまり貝殻のように開閉する折りたたみ式のノートパソコンの形状の製品で、ここまでシンプルに削ぎ落とされ、洗練された製品は他になかなかないのではなかろうか。
開いた時には縁いっぱいまで広がったディスプレイとキーボードだけでほとんど主張がない見た目ながら、使い終わって本体を閉じると、まるで工芸品のような美しい仕上げのアルミボディーの光の反射が目を楽しませてくれる。今回、従来のシルバー、スターライト、ミッドナイトに加わる4番目の色として「スカイブルー」が加わった。光の加減によって見え方が変わる表情豊かな色合いだ。光の強さや色によっては、シルバーやグレーに見えることもあるが、自然光に近い光の中では、朝霧を思わせるような神秘的な青、あるいは驚くほどビビッドな青が浮かび上がってくることもある。
13インチ、15インチの2つのディスプレイサイズが用意され、前者は厚さ1.13cmで1.24Kg、後者は厚さ1.15cmで1.51KgとiPad Airの本体と比べるとキーボードの分だけ厚く重さもあるが、その代わりAI関連の処理性能が大幅に向上した最新M4プロセッサを搭載し、バッテリー時間もこれまでのMacBook Airより約6時間長く使える最大18時間動作にも対応。臨場感溢れる空間オーディオを再生できるスピーカーや同じUSB-CでもThunderbolt 4と呼ばれる高速通信に対応したモデルを搭載し、外付けストレージへの大容量ファイルのコピーなどもより素早く行うことができる。
また外付けディスプレイを接続できるのは、これまでのMacBook AirやiPad Airでも当たり前だが、このMacBook Airからは1台ではなく2台の外付けディスプレイを使うことができるようになった。つまり、オフィスではまるでデイトレーダーのように、MacBook Airの内蔵ディスプレイを合わせた3画面にメール、インターネットの最新データ、作業中の書類を同時に並べて作業というデスクトップパソコンのような使い方をしながら、出かける時はデータの転送不要で、ケーブルを外すだけで、そのデータが入ったパソコンを鞄の書類の隙間にはさんで持ち出す、というコントラストの大きい使い方ができる。
ちなみにiPad Airと比べた際、最大のアドバンテージとなるのが搭載プロセッサのM4だが、どれくらい凄いのかを検証したところ、ほとんどの処理でiPad Airよりも2割以上速く、最適化が進んだAI関連の処理では5割近く速くなることもあることがわかった。

新MacBook Airは、Thunderboolt4使用のUSB-C端子に最大2台のディスプレイを接続。内蔵ディスプレイと合わせて3ディスプレイ状態で利用することができる(これまでのMacBook Airでは、最初に接続した外付けディスプレイだけが利用できた)。
実はMacBook Airの性能は、同じ世代のM4プロセッサを搭載しているだけあって、プロ用の上位モデル、MacBook Proに迫る性能だ。実はMacBook Proは、早さの魅力もあるが、それ以上にビデオ編集や3Dコンピューターグラフィックの製作など負荷が大きい作業でいつでも安定して高い性能を出せることが魅力になっている。一方のMacBook Airはピーク時の性能はMacBook Proに迫るが、そうした負荷が大きい作業を長時間行っていると、プロセッサが熱を持つため、それを抑えるべく性能が落ちるという特徴がある(MacBook Proはプロセッサが熱くなるとファンを回してこれを冷却する)。
つまり、ビデオ編集や3Dモデリングもやろうと思えばできるが、たまにちょっと作業するだけで、仕事として定常的にそればかりをやっているわけではない--そんなほとんどの人はMacBook Airで十分で、タイトな納品時間に合わせて負荷の大きい処理でもずっとピークパフォーマンスで作業し続けられるのがProモデルという違いになっている。

AI関連の処理や3Dグラフィックスの性能が大幅に向上した最新プロセッサ、M4を搭載する最新MacBook Airは、クリエイティブな作業だけでなく、複雑な3Dゲームをプレイする上でも理想の1台だ。
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あなたのライフスタイルにあるのはどちらのAir?
性能面だけで比較すれば、MacBook AirはiPad Airを大きく上回る。しかし、二つのAirの選択は、万年筆と鉛筆、ピアノと電子キーボードのような、単なる性能差だけでは語れない違いがあり、どちらを選択するかはあなた自身のライフスタイルや美学の表明にもなる。
MacBook Airが示すのは調律が施されたピアノのような、完成された道具を選ぶのに似ている。同じ完成されたピアノが、クラシックの大曲からJazzの即興、そして子どもたちに聞かせる童謡まで奏でるように、かたちこそ完成されているが、使い方はソフトウェアの選択や周辺機器の追加によって無限に広がり続けている。
一方、iPad Airを選ぶことは、ある時はメインの演奏機として、そしてある時は効果音の発生装置やサブの鍵盤といったように柔軟な使い方ができる電子キーボードを選ぶのに似た体験かもしれない。朝のニュースチェックから、移動中の読書、会議でのプレゼンテーション、カフェでのスケッチ、夜の動画鑑賞まで—iPad Airは一日の中で幾度も姿を変え、その瞬間に最適なかたちで存在する。
実際の選択は、あなた自身の日常と美意識による。変わらぬかたちの中に可能性を見出すか、変容そのものに可能性を見出すか—それは単なる製品選択を超えた、現代における「道具」との関わり方の本質的な問いかけでもある。
もちろん、二項対立的な選択に縛られる必要はない。Sidecar機能を使ってiPad AirをMacBook Airのサブディスプレイとして活用するなど、二つのAirは互いを補完し合うこともできる。


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ITジャーナリスト
1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。
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1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。
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