2021年のデビュー以来、衣服の可能性を追求してきたIM MEN(アイム メン)。初のパリコレクションでは、三宅一生の遺志を継ぐブランドとして新たな一歩を踏み出した。
---fadeinPager---
三宅一生最後のブランドが、コレクションショーで見せた新たな始まりとは
三宅一生が最後に立ち上げたブランドのひとつ「IM MEN(アイム メン)」。2021年のデビューから4年を経て、パリで初のコレクションショーに挑んだ。テーマは「FLY WITH IM MEN」。新たな始まりながら、これまでの集大成をも思わせる充実したデビューコレクションであった。
ショーを貫いたのは、三宅が生涯を通じて追いかけた「一枚の布」の可能性と、その新たな探求だ。まずは一枚の布が持つ純粋な魅力を示すように、白を重ねたルックから始まった。秋冬のコレクションと思えぬほど、布はやわらかく軽やかに踊る。新素材のテキスタイルと多彩な技術をちりばめ、コート、パンツ、ブルゾンなどを、いずれも一枚の布から生みだすというアイデアで再構築。抑揚の効いた色使いはやがて鮮やかなカラーパレットに広がり、祝祭的雰囲気へ。端的に、布への愛が貫かれたコレクションとなった。
新しい日常着であるとともに驚きやよろこびを感じさせるもの。これこそ三宅から受け継いだ最たるものだろう。ショーという舞台でも、テキスタイルの可能性と衣服のあり方の探求を両面から追求するスタイルは変わらない。デザインとエンジニアリングに精通したチームで運営するという他のコレクションブランドにはない独自の編成で、仕組みそのものから新しさを社会に提示した。
100%植物由来のナイロン繊維で織り上げた薄手の布地をライナーに、それを厚手に発展させたツイル生地を本体に用いる「スウィッチ」シリーズ。ライナーは取り外しが可能で、パンツのライナーはベストのように着用することもできる。コート¥286,000、パンツ¥121,000(ともに10月発売予定)/ともにIM MEN(イッセイ ミヤケ) © ISSEY MIYAKE INC.
肉厚だが、軽くやわらかく、光沢ある布地で、ゆったりとしたコクーンシルエットを描く「コクーン」シリーズ。身頃と前端から襟にかけて続く一枚の布を基にしている。襟をフードにしたり、身頃についたタブや前端のループのかけ方を変えることでさまざまな着方を楽しめる。ブルゾン¥110,000(9月発売予定)/IM MEN(イッセイ ミヤケ) © ISSEY MIYAKE INC.
世界で初めて100%植物由来のポリエステルを基材にした人工皮革スエードを衣服に使用する「ヘロン」シリーズ。機械工作を用いる切削加工で精緻なドットのグラデーションを表現。折れ線状の切り込みを入れ、ボタンで組み立てる仕組みが特徴的なかたちをつくっている。コート¥330,000(10月発売予定)/IM MEN(イッセイ ミヤケ) © ISSEY MIYAKE INC.
タテ糸とヨコ糸の色を変え、刷毛で描かれたような柄をジャカード織機で織りあげた布地を使う「コットンジャカード」シリーズ。立体感のある柄、ふくらみのある生地感、やわらかな質感や軽さを特徴とする。コート¥198,000、バッグ¥49,500(ともに9月発売予定)。帽子は参考商品/ともにIM MEN(イッセイ ミヤケ) © ISSEY MIYAKE INC.
伝統技法の絣染めを現代的に表現した「カスリ」。太さの異なる綿糸3種を染め分け、大胆な柄のグラフィックをコンピュータージャカードで仕立てる。裾から脇にかけて斜めに入ったカットラインにファスナーを配置し、二通りの着用が可。コート¥198,000、ジャケット¥132,000(ともに8月発売予定)。他は参考商品/すべてIM MEN © ISSEY MIYAKE INC.
---fadeinPager---
三宅一生の遺志を継ぎ、その知恵と哲学を次代につないでいきたい
右から、テキスタイルデザイン/エンジニアリングの小林信隆、デザイン/エンジニアリングの河原遷、板倉裕樹。それぞれに三宅のもとで長く学んだ経験を持ち、互いの知見と視点を交えつつ、それらを統合するかたちでアイム メンデザインチームの中心となり、コレクションを手掛ける。© ISSEY MIYAKE INC. photograph by Kazumi Kurigami
静まりかえった空間にまず現れたのは、見るからに軽やかな白い布を重ねた衣服だった。初めてショーというプレゼンテーションで世界に向けて発信したアイム メン。今回は「一枚の布」というものづくりに立ち返ったという。それは三宅一生の哲学であり、ものづくりの指針である。三宅自身、生涯を賭してその哲学をもとに研究開発を続け、同時に人を育てた。
「そこに学んだ私たちが新たにショーをやるということで、やはり多くのみなさんに三宅とのつながりを感じてもらえたようです」。それはアーカイブに立ち返るなどではなく、ものづくりの姿勢としてだ、と続けるのはデザイン/エンジニアリングの河原遷だ。
「私たちはその学びを次の世代につなげていきたい。ショーを通じて、この先にやるべきことも明快になり、使命感も感じました」
コロナ禍を経て、明らかに人々のライフスタイルは変化した。物質的にも精神的にも軽やかさを求めるなか、その気分にも合致するコレクションだ。一枚の布からできた衣服は、たっぷりとした美しいドレープを描くものが多い。そのドレープにはジェンダーを超えた普遍性が宿り、人々を魅了する。
「素直にいいと思える提案を行ったので、そうした声には驚きました。時代の求めるものが身体のなかにあり、自然と出てきたのかもしれません」と、河原。それこそ三宅は時代を切り拓く先進性と普遍性の両立で、マスターピースを生み出してきた。河原、そして同じくデザイン/エンジニアリングの板倉裕樹は、数え切れないほどに三宅と仮縫いを行った。言語化できぬほどの微細なディテールを、三宅自らの手で数百回と教え込まれたという。その経験が美意識や身体感覚の継承となり、アイム メンの衣服に息づく。
「シンプルなシャツ一枚をとっても、デザイナーやパタンナーで雰囲気は違います。そこには各々の蓄積があり、私たちの根底には三宅がいる。このような些細なことの蓄積から三宅の哲学を感じてもらえるのだとしたらうれしい」と、ふたりは言う。
そして「一枚の布からつくられる衣服は本質的に身体を包むもので、体型などを問わずに楽しめるもの。その根源的な部分が伝わっているのかもしれません」と、テキスタイルデザイン/エンジニアリングの小林信隆。それを支えるのがまさに小林の担当するテキスタイルだ。新旧の技術を横断しながら、布そのものはもちろん、加工技術を含めて進化するテキスタイルの創造に挑戦を続ける。それぞれが専門性を持ったデザインチームだからこそ互いのものづくりが往来することで、完成度を高めていける。布の特性に驚き、それを活かしたフォルムに驚く。さらに板倉は語る。
「新しいテーマに立ち向かうことを大切にしながら、同時にこれまでの蓄積もアップデートしたい。試行錯誤を繰り返しながら、より良い生地へと進化した衣服もあります。さらなる開拓でクリエイションはさらに広がります。新しいテーマを吸収しながら、世界を広げていく。それが未来を切り拓くことにつながると信じています」
ふたたびショーに立ち返ろう。人の動きに追従して布がしなやかに踊り、色が鮮やかに踊る姿は来場者の目をよろこばせていた。そのよろこびこそ、根源的な衣服の楽しみである。三宅はその根底に一枚の布を見た。着るよろこびをもって、ますますアイム メンは進化を続けていく
16世紀に建造されたレフェクトワール・デ・コルドリエを会場に、ショーを開催。デザイナーの吉岡徳仁によるインスタレーションのもと、「一枚の布」のコンセプトを多角的に展開した。写真は「フライ」シリーズを使って躍動感あるプレゼンテーションを行ったショーのフィナーレ。© ISSEY MIYAKE INC.
ショーの翌日、会場は展覧会の会場へ様変わり。同じく吉岡のインスタレーションを通して一枚の布からなる5つの衣服の構造と、独自の素材開発について展示した。会場にはファッション関係者やメディアの他にも、現地の学生など幅広い来場者が訪れた。会期中にはデザインチームがコンセプトから衣服のディテールまで直接紹介するギャラリーツアーを複数回設け、コレクション期間中にデザイナー自らが解説するという貴重な機会に会場は白熱。ツアーの予定時間を大きく超え、さまざまな立場を持つ人々がアイム メンの世界に魅了されていた。© ISSEY MIYAKE INC. photograph by Thomas Adank
---fadeinPager---
一枚の布から広がる、新しい衣服の可能性
ドットボタンで、アレンジを楽しむ一着
「フライ」シリーズは、コート、ジャケット、パンツの3型を展開。いずれも一枚の布に配置されたドットボタンを留めることでフォルムをかたちづくることができる。コートとジャケットは上下の反転やボタンを留める位置のアレンジで多様なスタイルが楽しめるようにデザインされている。驚くほどに軽い布が、風や人の動きによってしなやかに表情を変えていくさまが美しい。もちろん持ち運びにも最適で、旅先といわず日常的にも携帯できる。コート¥121,000(7月発売予定)/IM MEN(イッセイ ミヤケ)© ISSEY MIYAKE INC.
代表的な軽量素材を、さらにアップデート
上のアイテムのボタンをすべて外した様子。一枚の布が持つ姿をそのまま衣服として表現した「フライ」シリーズはまさに今回のコレクションを象徴するアイテムだ。耳と呼ばれる織物の端さえも切り落とさず、一枚の布として衣服を提示する。アイム メンがファーストシーズンから展開する「エアー」シリーズの布地を使用。部分植物由来と中空糸の2種のポリエステル糸を使用したシワになりにくいテキスタイルを、さらに軽やかに改良。素材のアップデートで、進化が深まった。© ISSEY MIYAKE INC.
一枚の布が、簡単な動作で立体的に変化
角張ったシルエットがユニークな印象を与え、光の受け方次第で箔プリントの表情が複雑に変わる「メタリック ウルトラ ボア」のジャケット。前身頃の裾と直角に3本の直線的なスリットを入れ、3つのファスナーを配置する。中央は着脱時のファスナーとなり、左右2本は袖口にかけてつながるファスナーを軽く捻るように閉じることで、肘まわりに大きく張り出す大胆な袖のフォルムをつくり出す。シンプルな動作で、一枚の布が立体的に構築されるアイテムのひとつ。¥242,000(11月発売予定)/IM MEN(イッセイ ミヤケ)© ISSEY MIYAKE INC.
人工ムートンという新素材が生んだ逸品
一枚の布から形づくられた「メタリック ウルトラ ボア」のジャケットのジッパーを外した様子。東レが開発したおもにサトウキビの廃糖蜜を使用した部分植物由来の人工皮革スエード「ウルトラスエード®」に、リサイクルウールを含む複合繊維のボアを貼り合わせた人工ムートン使う。これは東レとアイム メンが共同開発した布地で、天然のスエードやムートンにはない軽さも実現している。表面に箔プリント加工を施すことで加わった力強い質感も魅力的だ。© ISSEY MIYAKE INC.
イッセイ ミヤケ
TEL:03-5454-1705
www.isseymiyake.com