羽生結弦が殺し屋よろしくターンを決める !? 文系な「マクラーレン GTS」の品のよさに心酔する【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第218回

  • 写真&文:青木雄介
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馬力を上げ、フロントバンパーのエアインテークを拡大し、サイドのエアスクープが追加された。

「マクラーレン GTS」とは、すなわち“文系のマクラーレン”なのだ。今回乗ってそれに気づいた。そこにあるだけで物語を語り出すような存在感に、匂い立つ色気がある。それでいて構造としては軽量ボディにバスタブ型フレーム、そしてミドシップに搭載されたV8エンジンと、マクラーレンの本質すべてを備えている。

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リッチなアニリンレザーを使用。パノラマガラスルーフの開放感が素晴らしい。

外観は聡明なドラゴンのような気位の高さが感じられて、こだわりの革張りインテリアはとてもスタイリッシュだ。マクラーレンの隠れた切り札ともいえる、至高のアダプティブサスペンションも快適な乗り心地を究めている。

基本構造が同じだから「マクラーレン GTS」を基準に、他のモデルも明快に説明することができる。たとえば「750S」ならより軽量かつアグレッシブになることでマクラーレンならではのフレーム主義を加速させ、よりフォーミュラカーに近い走りになる。「アルトゥーラ」なら、電気モーターとEデフを介在させるハイブリッドドライブで未来を先取りし、毎日乗れる常用性の高さは「GTS」をもしのぐと思う。

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ハッチバックトランクの容量は420L。ゴルフバッグやスキー板も入る。 

では、このクルマの魅力とはなんだろう? それはマクラーレンのどんなモデルより文脈に富んでいてミステリアス。アンダーカバー(潜入捜査)よろしく野性味をひた隠しにしている品のよさなんですよ。乗り味を突き詰めていながらも、メロウでしっとりとした操作感があって大人の味わいに満ちている。普段は抑制されている4LV8ツインターボも、アクセルを踏めばターボタービンのシンコペーションとともに本能を解放する。足まわりはなめらかに路面をならし、軽快にカーブをクリアする。限界なんてどこ吹く風。カーボンセラミック・ブレーキを備えた圧倒的な走行性能を武器にライバルたちを突き放していく。

これね、美学としてはキアヌ・リーブスが演じた伝説の殺し屋、ジョン・ウィックに重なるのね。静かな生活がしたいのに否が応でも戦いに巻き込まれていくストーリーを、ロシア人じゃなくてこだわりの強い英国人で仕立てたみたいな世界観ね(笑)。ただ「マクラーレン GTS」は、グランツーリスモにありがちなオールドボーイのモテ狙いではなく、走行性能が現役を引退したばかりのアスリートのようなんだ。

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前輪20インチ、後輪21インチと大径のホイールが組み合わされる。 

その切れ味をたとえるなら、フィギュアスケートで競技を引退しプロスケーターに転向した羽生結弦みたいですよ。いつでも競技に復帰できるくらいのポテンシャルのまま、距離を置くことで人生の彩りも感じられる。現役(競技)との距離の取り方が紙一重なのが、マクラーレンのグランツーリスモである「GTS」なんだ。

ひしめくライバルの中でダントツの軽量モデル。サーキットにおいては戦闘力の高いミドシップという構造を持ちながらも、高級スーツを着てすました顔でパーティにいるって感じ。だいぶ文脈が立て込んでいる文系なんですよ(笑)。理詰めのエンジニアリングが特徴のマクラーレンの中においては異色のクールネス。

でもね。個人的にはこのクルマこそが相棒として最高な気がしていて“お伊勢詣り(ロングクルーズ)に出かけたいGT”ナンバーワンなのだ。

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大型のリアディフューザーと排気テールパイプの上に固定式リアスポイラーが配置されるスーパーカー然としたリアビュー。

マクラーレン GTS

全長×全幅×全高:4,683×2,095×1,213㎜
排気量:3,994cc
エンジン:V型8気筒ツインターボ
最高出力:635PS /7,500rpm
最大トルク:630Nm/5,500-6,500rpm
駆動方式:MR(ミドシップ後輪駆動)
車両価格:¥29,700,000
問い合わせ先/マクラーレン オートモーティブ
cars.mclaren.com/jp-ja

※この記事はPen 2025年4月号より再編集した記事です。