「ポエトリー オブ タイム(詩情が紡ぎだす時)」という独自のビジョンの下、ヴァン クリーフ&アーペルは、優美なハイジュエリーと卓越したウォッチメイキングが融合した作品で多くのファンや時計愛好家を魅了する。発表された新作は、その輝きをよりラグジュアリーかつ詩情豊かに進化させた。生誕の地であるパリを舞台に、改めて思いを注いだテーマが「愛」だ。今年の新作について、プレジデント兼CEOと開発ディレクターへの取材とともに紹介する。メゾンの愛の物語は変わることなく、これからも続くのである。


独創的な仕掛けで“愛”を魅せる、「ポエティック コンプリケーション」の最新作
今年はアルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの結婚から130年に当たる。ふたりの愛をきっかけにメゾンの歴史は始まり、1906年の創業最初の作品でハートをモチーフにして以来、メゾンにとって「愛」は常にインスピレーションの源であり続ける。その象徴が「ポエティック コンプリケーション」だ。ヴァン クリーフ&アーペルが誇るこのハイウォッチメイキングのコレクションについて、プレジデント兼CEOのカトリーヌ・レニエは次のように説明する。
「メゾンにとって『ポエティック コンプリケーション』はシグネチャーであり、2010年に発表した『レディ アーペル ポン デ ザムルー ウォッチ(以下ポン デ ザムルー)』はその記念すべき代表作です。今回、橋の上で若い恋人たちがキスをするという物語とデザインはそのままに、これまで培ってきたサヴォアフェールでさらに磨き上げました。取り入れたのは色という演出で、1日の移ろう瞬間というだけでなく、色彩によって4つの異なるムードや情感、感動を表現するという試みです」
こうして愛を育んだふたりの物語は、より詩情豊かに語られる。新作「レディ アーペル バル デ ザムルー ウォッチ(以下バル デ ザムルー)」だ。19世紀にパリやその周辺で人気を博した屋外のダンスホール「ギャンゲット」で、手を取りあった恋人たちがキスを交わす。
「これまでは恋人たちが互いに近寄るという動きだったのですが、新作ではさまざまな動作を再現しました。それこそ高ぶる感情を表現するような。今年はこうしたメカニカルな部分にも注力しています。しかしそれはあくまでも芸術のための機械であり、メカそのものを見せることに重きを置いていません。芸術性を表現する、それこそが私たちの強みなのです」
そこに描かれているのは、光の都パリを舞台にしたエステルとアルフレッドの愛の物語である。



新作「バル デ ザムルー」は、パリの屋外ダンスホールを描いた文字盤に、中央にはカップルの大型のレリーフを備える。時分は、夜空の外縁に記された時分の数字をレトログラード機構で動く星で示す一方、正午と真夜中に中央のふたりはさらに近づいてキスをするオートマタになっている。またケース側面のプッシュボタンで任意にも作動できる。
手を取り合ったふたりは、時刻が訪れるとまるで互いに引き寄せ合うように、腕や全身の自然な動きとともに近づき、キスをする。開発に4年をかけたという動作は生き生きとし、感動的だ。
「再現するのが最も難しかったところです。腕と上半身、そして全体の動きによって腰がちょっと揺れたり、足が動くという細部まで徹底的にこだわり、とにかくなめらかな動きの表現を追求しました」と開発部門ディレクターのライナー・ベルナールは言う。
「できるだけ自然な仕草をさせるため、恋人たちそれぞれの動きを明確にし、3つの連結部で同時進行の動きを組み合わせています。またなめらかな流れを損なわぬよう、パーツにはある程度の自由度を与えつつ、機構自体の精度はより高めています」

計時とオートマタの動きを司るムーブメントは、「ポン デ ザムルー」とはまったく異なる新設計だ。
「ふたつの星で時刻を計時するダブルレトログラード機構のムーブメントに、リピーターと同様のオートマタ用ムーブメントを積層しています。これらを分けることで、時刻とシンクロしたオートマタと、オンデマンドのオートマタの作動を両立しました」
このムーブメントの開発で最も留意したのはシンプルにすることだったと続ける。
「実は前作の『ポン デ ザムルー』に対し、パーツ点数は4つしか増えていません。カムの形状やパーツの一体化など極力シンプルに設計しました。複雑化するほど伝達のエネルギーロスや精度の低下、トラブルの原因になりますからね。もちろんそれには技術やノウハウが必要であり、さらに新たな発想によって、シンプルにも関わらず、複雑な動作や自然な演出効果が生まれました」
さらに、私たちは複雑さを目標としてはおりませんので、と微笑む。

オートマタの動きをより魅力的に演出するパリの屋外ダンスホールの風景は、夜空、雲、両脇の建物、石畳、カップルといった5層で構成され、まるでステージのセットのような遠近感を与えている。そこに施されたのが、伝統的な「グリザイユ エナメル」技法だ。
16世紀にフランスのリモージュで生まれた「グリザイユ エナメル」技法は、2色のエナメルの相互作用から生まれる明暗効果を特徴にする。まず「ブラン ド リモージュ」と呼ばれるホワイトのエナメルパウダーを2層でダークブルーの背景の上に塗り、透明感の違いを生み出すとともにコントラストを強調する。
さらに異なるトーンのブルーの濃淡で奥行きを演出し、暖かみのあるイエローをアクセントにランタンの光を表現する。文字盤ひとつにつき40時間の作業と12回もの窯での焼成が必要になるという。1枚の文字盤は完成までひとりの技術者が担当する。
「構図ではさまざまな立体的な要素がシーンを飾り、文字盤にさらに奥行きを出すため、綿密な遠近法作業が求められました。そのなかで新しいブルーをつくり出し、異なる種類のホワイトを組み合わせることで、光の視覚効果によってより幅広い色合いを得ることができました」とエナメル研究開発部門の責任者は説明する。


ヴァン クリーフ&アーペルでは、数ある伝統的な装飾技法でも特にこのエナメル技法に注力し、ジュネーブの時計制作ではエナメルのアトリエとトレーニングスクールが中心となって、技術を研鑽し、次世代への継承を続けている。
さらに伝統技法を守り、維持するだけでなく、新たな技術の開発が進められ、数多くの特許も取得する。それが創造性と表現の可能性をさらに広げ、詩情あふれる新たな物語を紡いでいることは言うまでもない。

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ふたりの物語は4色の輝きに彩られ、さらなる感動へ

一般的なコンプリケーションがメカニカルな複雑機構を打ち出すのに対し、ヴァン クリーフ&アーペルの「ポエティック コンプリケーション」はむしろ複雑さを表に出さず、希少な貴石や伝統的な装飾、オートマタ技法などを駆使し、詩的な世界を表現する。
代表作の「ポン デ ザムルー」は、2010年に発表された後、19年にケースの大径化やサイドプッシャーの装備といった改良が施された。そして今回4つの物語でよりラグジュアリーな新境地を拓く。
パリの橋の上で向き合った男女が、レトログラード機構によって時分を刻みながら近づき、正午と真夜中に口づけを交わす。3分後にふたりは離れ、再び時を刻み始める。この3分間は、実際にパリの橋で開発チームが確認したフレンチキスの時間だという。この間も時は止まることなくカウントされ、針は帰零後、正しい時刻を刻み始める。さらに8時位置のプッシュボタンを押せばオンデマンドで、ふたりがどんなに離れていてもそれぞれの位置から歩み寄りキスを交わすことができる。

新作は、文字盤の背景に夜明け、朝、夕暮れ、月光という1日の瞬間を「グリザイユ エナメル」で描き、ダイヤモンドでベゼルを飾る。さらにケースサイドから大小のダイヤモンドとグラデーションのサファイアをセットした輝きがハイジュエリーブレスレットに連なる。表情豊かな煌めきとなめらかな動きはまさしくハイジュエラーの本領発揮だ。
「技術的に難しかったのは、エナメルの色みをはじめ、サイズや濃淡のある石をどこに使うかを熟考し、文字盤とハイジュエリーブレスレットを自然に調和させることでした。一体感の中、実際にその瞬間を目にするような感動を目指しました」とカトリーヌ・レニエは語る。
誕生から15年目を迎え、美学とサヴォアフェールはさらなる洗練を重ね、その根底にある物語の「人を愛する想い」が伝わってくる。こうした時代だからこそその価値と大切さがより一層際立つのだ。
「愛は私たちにとって大きなテーマであり、インスピレーションの源です。そして世界中のすべての人たちに理解していただけるテーマでもあります。そうしたことからこれからも愛の物語をつなげていきたいと思います」






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天空に想いを馳せる、煌めく惑星の優雅なダンス

近年、ヴァン クリーフ&アーペルが力を入れる「エクストラオーディナリー オブジェ」は、伝統的なオートマタを新たな解釈と技術によって現代に蘇らせ、毎年発表される新作が大きな話題を呼ぶ。メゾンでは1906年の創業当初からこうしたオブジェを手がけ、精緻なメカニズムで自然界の動きを再現してきた。なかでも時間の概念の発祥ともいえる天空の動きに魅せられ、2022年に誕生したテーブルクロックが「プラネタリウム オートマタ」だ。
高さ50cm、直径66.5cmの大型サイズに、半球のドームが被せられた地球義には、太陽と、地球から見ることができる太陽系の惑星である水星、金星、地球、火星、木星、土星、そして地球の衛星である月を設け、それぞれの天体は、実際と同じ速度で周回する。オンデマンドで起動させると、ハッチから流れ星が現れ、メロディが流れるなか、文字盤を一周して時刻を示し、惑星たちは通常の軌道とは反対の方向に動き出し、ダンスを繰り広げる。
最新作では、ローズゴールドとスペサルタイトガーネットを使い、イエローサファイアやダイヤモンドを500本以上のゴールドステムにセットした太陽をはじめ、惑星それぞれに新たな装飾を施す。さらにフランスの木工アトリエが手がけたキャビネットや、ドームは手作業による吹きガラスで製作し、教会の鐘を製作するスイスの専門会社に依頼した15個のベルがメロディを奏でる。スイス人音楽家ミシェル・テル・ボスコフによるオリジナル曲に、宇宙の神秘へと想いを馳せるのだ。




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シークレットウォッチの伝統を受け継ぐ、“時を告げるジュエリー”

南京錠を意味する「カデナ」。このユニークな名を持つタイムピースの誕生は1935年に遡る。当時のシュールレアリスムからマルセル・デュシャンが提唱したレディメイドの概念に呼応する。それは、量産品に対し、その機能から離れ、署名や異なる組み合わせによって違った視点を持つことでアートに昇華するものだ。
まさに南京錠を想起させるスタイルは、同時にモダニズムを反映し、時の流れを一切意識しないという当時のモダンガールたちに高く支持された。ジュエリーのようなデザインに文字盤を手首の内側に秘め、周囲に気づかれず時刻を確認できたのだ。
ヴァン クリーフ&アーペルにおけるシークレットウォッチの歴史を物語る「カデナ」コレクションだが、その新作は、三角柱のケースにリング状のハンドルを備え、ダブルスネークチェーンのクラスプで留める基本デザインを受け継ぎ、イエローゴールドにスノーセッティングのダイヤモンドをちりばめる。さらにトップとクラスプにはサファイアをあしらい、美しいコントラストも絶妙だ。側面に設けた文字盤にもダイヤモンドがセットされ、さらに密やかに自分だけの時を刻む。
手首に沿うような優美な着け心地が味わえるエレガントなブレスレットスタイルとともにモダニティは時を越えていく。

計時という機能を秘めたシークレットウォッチは、まさにメゾンのサヴォアフェールと美学を象徴する。新作の「リュバン ミステリユー ウォッチ」はその伝統を継承し、さらなる革新的なクリエイティビティを表現する。
コレクション名はリボンを意味し、オートクチュールの世界から着想を得る。やわらかさを感じさせるフォルムの全面には、スノーセッティングされたダイヤモンドに加え、サファイアとエメラルドがミステリーセットによって敷き詰められている。これは1933年に特許を取得したメゾンを代表する技法で、ゴールドをレール状に象り、それに沿ってカットした貴石をひとつずつはめ込んでいく。こうすることで、石留めもなく隙間なく埋められ、美観とともにビロードのようななめらかな触感が得られるのだ。そして中央にはオーバルカットのダイヤモンドを文字盤上にしつらえ、その輝きが時を優雅に演出する。
ジュエリーメイキングのサヴォアフェールを駆使した美しきエレガンスに、時計としての存在感を控えながらも精緻な技術がこれを支える。両者が融合した、まさしく“時を告げるジュエリー”である。

リュバン ミステリユー ウォッチ/手巻き、18KWGケース&ブレスレット、非防水、世界限定1本。¥320,760,000(参考価格)
ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
TEL:0120-10-1906
https://www.vancleefarpels.com