解体されたスピードの美学。プーマとバレンシアガが仕掛けた静かな反逆

  • 文:倉持佑次
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ファッション業界の「常識」に一貫して疑問を投げかけてきたバレンシアガ。今回、スポーツブランドの老舗プーマと手を組み、既成概念を覆す挑戦を始動させた。Winter 25コレクションで披露されたこのコラボレーションは、スポーツウエアとハイファッションの境界を溶かす試みとなっている。

BALENCIAGA WINTER 25 CLOSE UP IMAGE 4.jpgオリジナルモデルと様相を異にするシューズ。Courtesy of Balenciaga

その象徴が、1999年に発表されたスニーカー「スピードキャット」の再解釈だ。モータースポーツのために生まれたこの機能的なシューズを、ウォーンアウトスエード(worn outは「ぼろぼろの」「くたくたの」を意味する形容詞)という質感で新たに構築し直している。「スピードキャット ウルトラソフト」と名付けられたこの一足は、アッパー部分の構造的要素を大胆に取り除き、足を包み込む柔軟性を極限まで追求することで、「スニーカーとは何か」という問いを投げかける。1958年から続くフォームストライプ(シューズ側面の流線型ライン)をあえて切り落とすという選択にも、伝統へのリスペクトと挑戦が同居している。

コレクションを見ると、衣服にも同様の精神が貫かれていることがわかる。本格的なサッカーのウォームアップスーツの形式をとりながら、バレンシアガのライオンの紋章を配したエクストラドライモルトンのスウェットスーツ。90年代のプーマのアーカイブから引用しながらも、色あせたナイロントラックスーツに現代的解釈を加える。最も挑発的なのは、服の概念そのものを揺るがすアイテムたちだ。シアリング素材で作られた「トラックスーツ」ジャケットは、その名称と素材感の不協和が意図的であり、起毛したリバースモルトンの裏地がついたスエードのバスローブコートは、家着とアウターの境界を溶解させる。

素材選択にも反逆の精神は表れている。日常の買い物に使うショッパーバッグに、カイトサーフィンや弾道安全装置に用いられる超高強度繊維を採用。トゥーマッチと言える強度を持つ素材で日用品を作るという過剰さには、消費社会への静かな問いかけが含まれている。

2025年後半に新たな展開が予定されるこの取り組み。それは商業的な提携を超え、衣服の意味、スポーツとエレガンスの関係性を再考する、静謐ながらも力強い革新の宣言である。

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BALENCIAGA WINTER 25 LOOK 70_KHATRI.jpgCourtesy of Balenciaga

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BALENCIAGA WINTER 25 CLOSE UP IMAGE 77.jpgCourtesy of Balenciaga

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BALENCIAGA WINTER 25 LOOK 52_OSKAR G.jpgCourtesy of Balenciaga

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