待ってました! 全世代から愛される、フォルクスワーゲンから待望のコンパクトEV「ID.EVERY1」が発表

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Volkswagen
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フォルクスワーゲンは3月6日、コンパクトEV「ID.EVERY1(アイディエブリワン)」を発表した。世界中から200名以上のメディア関係者が集まり、デュッセルドルフの広大な見本市会場を使ってお披露目された。

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一目でフォルクスワーゲンのプロダクトとわかるが、しっかりと新しさあたらしさが盛り込まれている。

「ID.EVERY1」について「VWの(ピュアEVの)ID.ファミリーのパズルにはまる最後のピース」と言うのは、フォルクスワーゲン乗用車部門のトマス・シェファーCEO。

フォルクスワーゲンのファンなら、間違いなく「待ってました!」と言いたくなるような論理的な構成で凝縮感のあるボディ。コンパクトな全長に対して長めのホイールベースのパッケージも上出来だ。

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工場での雇用も確保する、という談話を発表したVW乗用車部門のトマス・シャファーCEO。写真:筆者
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面構成はシンプルだけれどフェンダーの張り出しと19インチのホイールで力強さを強調している。写真:筆者

ハッチバックスタイルこそ伝統的なボディ形状であるものの、デジタル技術を駆使して表情をさまざま替えるヘッドランプとリアコンビネーションランプが、強く印象に残る。

ボディデザインは「あえて厚く見えるように造型してSUV的な印象をつくった」と、ヘッドオブデザインを務めるアンドレアス・ミントは会場でのインタビューに答えてくれた。

全長は3,880mmと、日本の軽自動車(3,400mm未満)より少し長い。一方、車幅は1.8mを超え、ホイールベースは2,539mmもある。その上でキュートな印象をうまくつくり出しているのが特徴だ。

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「ゴルフ1」を意識しつつより力強さを出した、と語るアンドレアス・ミント。写真:筆者

「まだコンセプトの段階だから技術的にどう進化するかは、はっきり言えないんです」とミントが言うそばから、ヘッドライト内部でレイヤーをつくる扇状のLEDライトが付いたり消えたり……。色も変わり、まるで意思のあるように見えるのが面白かった。

「現在、ID.EVERY1と名付けていますが、これはこのクルマのコンセプトを表しています」とシェファーCEO。

「免許を取ったばかりの若者にも、歳をとったカップルにも受け入れてもらえるクルマだと思うし、ピッツァから荷物まで、日常生活でお世話になっている人たち、私はこの人たちをエブリデイヒーローと呼んでますが、彼らにも使ってもらいたいです」

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求めたのはキュートさと親しみ、競合車にはない強みとは?

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インテリアは現時点で発表されているレンダリング。26年の発表時にどうなっているか楽しみだ。

「ID.EVERY1」は、2023年まで生産されていた「up!」の後継車の位置付けだという。全長3.6m程度のコンパクトハッチバックの「up!」は、日本でもユーザーが多かったが、欧州でもやはり広い層に受けていたという。

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扱いやすいサイズと走りのよさで日本でも人気の高かった「up!」。

「ID.EVERY1」は新世代のBEV(バッテリー駆動EV)用プラットフォームを持つ。23年にコンセプトが発表されて、26年に発売が予定されている「ID.2all」と共用だ。2,539mmのホイールベースを持つシャシーのフロントに、70kWあるいは95kWのモーターを搭載する。

昨今、いくつもの自動車メーカーがコンパクトBEVを送り出している。最初は、軽自動車規格の日産「SAKURA」だけれど、グローバル市場には投入していないので、「ID.EVERY1」の競合というと、ルノーが24年に発表した「4」と「5」、ヒョンデがまもなく日本で発売する「インスター」などが寸法的にもドンピシャの競合になりそうだ(欧州では)。

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灯火類は光り方でメッセージを伝えるコミュニケーションライトになるはず。

ルノー「4」も「5」も、それにヒョンデ「インスター」も、見た目の印象は少しオモチャ的なところもあり、楽しさが前面に押し出されているクルマ。そのことをミントに言うと、フォルクスワーゲンとしては「ID.EVERY1」の方向性には自信がある、ときっぱり。

「フォルクスワーゲンのプロダクトは、クオリティでトップクラスという自負があります。生産についても同様で、ID.EVERY1の車体にキャラクターラインを入れていないのは、ゆがみのない鋼板を、美しく成型しているクオリティに自信があるからです」

競合に負けていると思えない、とミントは胸を張るように言うのだった。たしかに、コンセプトカーだけれど、会場では走らせている様子を見ると、しっかりとした力強さがある。

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全長に対してホイールベースは長く、プロポーションもパッケージングもとてもよい。

19インチの大径ホイールと組み合わされた扁平率40%のタイヤと、ホイールハウスがぐっと内側の力で押し出されたような造型感覚は「これが期待されているフォルクスワーゲン車のあるべき姿」とミントが言うのに納得させられるもの。

「ID.2all」もシンプルでいて力強さを感じさせるボディデザインで、やはり4輪の存在感が大きい。どうやって差別化するのだろうか。そう尋ねるとミントは「2車はまったく異なる存在」と答える。

「ID.2allはエレガンスとか力強さを強調して、一方でID.EVERY1ではキュートさや親しみやすさをつくり出しているつもりです。前後の水平型のシグネチャーライトは軽くカーブをつけて、笑顔をつくっているように見せています」

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インテリアも現時点ではレンダリング(一種のスケッチ)だが、スペースは広そうだ。

もうひとつの違いといえば価格だ。26年の「ID.2all」が2万5000ユーロ(1ユーロ=160円として400万円)であるのに対して、27年の「ID.EVERY1」は2万ユーロを想定しているそう。日本市場への導入計画については未定。

フォルクスワーゲン ID Every1

全長×全幅×全高:3,880×1,816×1,490mm
ホイールベース:2,539mm
バッテリー駆動電気モーター 前輪駆動
最高出力:70kWと95kW(2モデル想定)
一充電走行距離:250km以上