実写とアニメと360度映像を組み合わせた表現が話題となり、再生回数1億回超の大ヒットとなったVTuber・星街すいせいの『ビビデバ』など、数多くのMVやオリジナル作品で注目を浴びている映像制作ユニット「擬態するメタ」。アニメ作家のしまぐちニケと、映像作家のBiviがタッグを組んだのは2020年末のことだったが、そのきっかけは、ひとりで創作を続ける限界を感じたことだったという。
「さらに上のレベルに進むには、新しい動きが必要だと思い、映像作家とアイデア先行で作品をつくるチームを組みたいと考えたんです」としまぐちは語る。
偶然にもBiviもチームメイトを探していたタイミングだった。SNSでつながったふたりは「どうでもいい話が延々とできた」と「擬態するメタ」が結成された。
そんな彼らの核にある言葉は、“大衆的実験映像”だ。

「実験映像は本来ワクワクするものなのに、見づらさ故にその魅力が届いていない作品が多いのです。だったら大衆的なエンターテインメントと融合させて、わかりやすいかたちで提示できないかと考えました」としまぐち。
たとえば文字を反転させても読める「アンビグラム」という技法を映像に取り入れたオーイシマサヨシ『L’oN』のMV(ミュージックビデオ)では、誰もが馴染みのある学校の教室を舞台に、掲示されているポスターに反転する文字を描いた。さらには教室全体をひっくり返すという視覚的インパクトで観客を惹きつける。まさに「大衆性×実験性」を両立させる試みだ。
実写とアニメを掛け合わせる手法は彼らの代名詞だが、大きな転機になったのがTOOBOEの『心臓』だ。Biviは回顧する。
「実は最初から実写とアニメを組み合わせたいと思っていたわけではありません。スケジュールや背景美術の問題といった、いろいろな“できないこと”を埋め合わせた結果、実写を舞台にアニメを描くかたちになりました。でもそれが強烈な印象を与えたみたいで、手応えを得ましたね」

しかし、彼らは単純に「実写×アニメ」を繰り返しているわけではない。『ビビデバ』では、360度カメラを用い、さらにはワンカット撮影を駆使することで、舞台となるMVの撮影現場の雰囲気を真空パックするように作品に落とし込んだ。ところがふたりによれば、「みんなが注目したのは、こだわり抜いた360度表現よりも、アニメで描かれたキャラクターと、実写で撮影された人物とのやり取りだった」という。彼らが苦心した技術面よりも、むしろ舞台裏が映る“メタなつくり”にこそ反応が集中したという点もまた大衆的実験映像ならではの現象かもしれない。
彼らの作風の特徴として、視聴者の視点をアニメキャラの視点に重ねる「一人称」表現や、記憶がありありと蘇るようなリアルな青春や生活の描写が挙げられる。Biviは「いまの自分を閉じ込めたい」というモチベーションがあると説明し、こう続ける。
「若い時間はあっという間に過ぎてしまう。だからこそ作品に、その時の感情や環境を封じ込めておきたいんです。そうすることで時間を遅らせる感覚というか」

“界隈”コミュニティや固定されたイメージに閉じ込められることを嫌う彼らは、モキュメンタリーやYouTubeチャンネル『META TAXI』のコンセプトデザインなど、次々と新領域へ乗り出している。今後は実際の展示やイベントといった「映像の外側」に踏み込んでいきたいと、しまぐちは言う。
「たとえば街頭ビジョンや、巨大なモニターを活用して実写とアニメが共存する空間をつくったら面白いかもしれない。そうやって自由に企画して、また次の年には違う角度の実験をしていきたい。僕ら擬態するメタにとっては、それが自然な流れなので」
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PICK UP
PERSONAL QUESTIONS
いまはまっていることは?
ダウ90000のYouTubeチャンネルのコント動画は全部見ました。存在は以前から知っていたのですが最近まで見る機会がなくて。見始めたらクセになってしまいました。(しまぐち)
最近見た動画配信コンテンツは?
DMM TVの『大脱出』シリーズです。『水曜日のダウンタウン』(TBS)の藤井健太郎さんが手掛けている番組で、タレントパワーだけではなく企画が強いから面白いんです。(Bivi)
改めて勉強したいことは?
キャラクターの魅力です。キャラが魅力的なだけでコンテンツが伸びる場面に多く遭遇するので、その再現性を探っています。あと、「スマブラ」が強くなりたいです。(しまぐち)
いま買いたいものは?
音楽デバイスですね。これまで映像はつくってきましたが、音楽はまだまだ知らないことがたくさんあります。先日もギターを買ったり、DJ機材を揃えたりしているところです。(Bivi)

いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。