1970年の万博で若手建築家が起用された歴史もあり、今回も公共スペースを若手が設計している。20カ所あるうちの一部を紹介しよう。
Pen最新号『大阪 再発見』の第2特集は、4月13日に開幕する「大阪・関西万博」。万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。会場には158の国・地域と7つの国際機関、8つのシグネチャーパビリオン、13の民間パビリオンと4つの国内パビリオンが並び、世界中からトップクリエイターと最先端テクノロジーが集結する。パビリオンを手掛けているクリエイターや研究者たちに、知られざる万博の魅力や見どころを案内してもらった。
『大阪 再発見』
Pen 2025年4月号 ¥880(税込)
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『大西麻貴+百田有希/o+h』──大きな布を纒った、大屋根の休憩所

これまでも「シェルターインクルーシブプレイス コパル」などの公共建築を手掛け、生き物のようで親しみやすい“愛される建築”を目指し設計を続けてきたo+h。今回設計するのは、リング外側の南西の海に近い位置にある延床面積約830㎡のトイレと休憩所だ。モンゴルの住居ゲルのように大きな布の下に円形の休憩所が設けられ、さらにその周囲に木造のトイレや授乳室が配置されている。
「仮設の建築ということもあり、普段の外装では使わない軽やかな素材を主役にしました。布は婦人服の生地を製造する大阪の宇仁繊維さんにご提供いただき、赤や黄色の生地をグラデーションになるよう一枚の布に仕上げています。ひとつの大きな布が屋根となり、人間が服を着るように建築が布を纒っているようなイメージです」
光が布を透過し、内部を明るく照らす。海風になびく布がさまざまな表情を見せ、多くの人を包み込む空間になるだろう。

『山田紗子建築設計事務所』──緑豊かな森に連なる、木々のような建築

都心にありながら小さな森の中のような住宅、「daita2019」を設計している山田紗子。今回手掛けるトイレと休憩所も、樹木に囲まれ森の中にいるような建築になりそうだ。この建築は大屋根リング内側の中央に位置する「静けさの森」の近くにつくられる。
「森の一端を担うため、樹木はもちろんのこと、トイレや休憩所などの人工物も、森の木々のようにそれぞれがユニークで、木陰をつくるような形状にデザインしています。さまざまな方向から人が移動してくる場所ですが、フードトラックや食事スペースがあったりと人が滞留する場所でもあります。動線を考えながら樹木や建物の配置を考え、それぞれの間に居心地よい場所が生まれることを意識しながら設計しました」
外装材は鋼板の波板など仮設的な印象のものだが、着色され奥行きある印象になるという。樹木と建築、その間の関係にも注目したい。

『浜田晶則建築設計事務所 AHA』──テクノロジーと自然の素材で、未来の建築が立ち上がる

建築家・浜田晶則が手掛ける峡谷のような雰囲気のトイレは、施工に注目の技術が使われている。トイレと洗面エリアの部分はおもにパネル化された土壁だが、周囲を囲む峡谷のような壁を土を中心とした自然素材と3Dプリンターでつくりあげる。
「淡路島や広島など日本各地の土と藁、海藻糊やマグネシウムを混ぜ合わせた材料を3Dプリンターで抽出しました。工場で生産した外壁パネルと、現地でプリントする峡谷のような壁に3Dプリンターを使っています。近い将来、部材を遠くから運ばなくても現地の土を使って建築をつくれるようになるでしょう」
自然素材だけでつくられるので、コンクリート以上に素材の配分が大変だったという。この中には植物が植えられプランターやベンチのようなランドスケープとなり、会期終了後はそのまま土に還す予定だという。 少し先の未来の建築の姿が、小さな空間に現れている。
『桐 圭佑/キリ アーキテクツ』──常に変化する雲が、世界をつなぐ屋根となる

藤本壮介の事務所出身の桐圭佑が代表を務めるキリアーキテクツは、大屋根リング内側の「光の広場」にあるステージの設計を担当。ここは夢洲駅から大屋根リングに入ってすぐの広場で、ステージの上空に雲を発生させるという他にはない演出が見どころだ。
「半年間という短い期間だけの仮設なので、身近なものが形を変えて立ち現れ、終わるとすぐに消えてなくなってしまうものをつくれないかと考えました。開催が春から夏ということもあり、頭上に雲を発生させ、日射しを遮り、涼をとることができる、原初的な屋根をかけることを考えました」
霧の彫刻作品で有名な中谷芙二子は、1970年の大阪万博でパビリオンを霧で演出する試みを初めて行った。今回はその踏襲でもあり、どこにでもありながら同じかたちにはならない雲が、世界をつなぐひとつの屋根のような存在となることを願っているという。

『スタジオミッケ一級建築士事務所+スタジオオンサイト+ユリカデザインアンドアーキテクチャ』──大坂城の歴史を語る石が、万博会場に建築として登場

スタジオミッケの小林広美とスタジオオンサイトの大野宏とユリカデザインアンドアーキテクチャの竹村優里佳による合同チームは、江戸時代に大坂城の石垣を再築する際に使われなかった「残念石」を建築に使うことで注目を浴びている。木津川の近くにあったものを5つ運び出し建築の一部に使う予定だ。
「歴史的に価値のある石を傷つけない方法で施工しています。ていねいに運搬し、神社仏閣に使われる『石場建て』という工法と現代技術を組み合わせた施工方法を採用しています。石を3Dスキャンし、石の凸凹に合わせて加工した木材を石に載せ、その上に木製の屋根を載せています」
文化財ではないものの歴史的な石を使うことに批判もあったが、デジタル技術と日本の石工たちの職人技術を組み合わせることで見事に実現をしている。長く放置されていた石も、数百年の時を経て注目されるとは思っていなかっただろう。世界の人たちがどのような反応をするのか楽しみだ。