【Penが選んだ、今月の音楽】
『オルフ/世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」』

曲名を知らずとも、第1曲「おお運命よ」を聴けば、「ああこの曲か!」と誰もが膝を打つに違いない。スポーツ、格闘技、テレビに映画など「カルミナ・ブラーナ」はさまざまな場面で繰り返し使われてきた。問答無用の圧倒的な迫力、繰り返される原始的なリズムは、クラシック音楽を普段聴かないリスナーにも希求する力を持っている。
作曲したカール・オルフ(1895-1982)はドイツのミュンヘン出身。J.S.バッハよりも古い時代の音楽を研究し、生々しく力強い原初的な音楽を志向した作曲家だ。そんな彼が目をつけたのが、ベネディクト会のボイエルン修道院で見つかった11~13世紀の民衆のリアルな生活が歌われた詩歌集『カルミナ・ブラーナ(ラテン語で“ボイエルンの歌”の意)』。抜粋された詩を第1部「春」、第2部「酒場で」、第3部「恋の庭」に再構成し、およそ1時間にわたる音楽が生まれた。
愛欲が当時の人々の生活の中心であったことが伝わってくる詩の内容をオルフは代弁するかのようにシンプルなリズムとメロディの繰り返しを基調にして音楽化。非常にわかりやすく親しみやすいのだが、正直に言えば反復が単調になってしまう演奏が多かったのも事実だった。しかしこの度リリースされたアンドレア・バッティストーニの指揮による録音では、そうした不満が解消されているのでこの作品を軽んじてきた人にもお薦めできる。優れたオペラ指揮者であるバッティストーニだからこそ、音だけでも情景が視覚的に喚起されるほどていねいに一つひとつの場面を描き分け、繰り返しには異なる要素を加えていく。正直言っていつも途中で聴き飽きてしまう筆者のような聴き手は、作品観が変わるほどの衝撃を受けるだろう。時代を超え変わらぬ人間の本質が透けて視えてくるような演奏だ!

※この記事はPen 2025年4月号より再編集した記事です。