大阪の夜を彩る居酒屋とバー。大阪湾に面する地の利を活かした新鮮な鮮魚を扱うシックな居酒屋から、ディープな下町情緒を感じさせる大衆酒場まで、多彩な店が軒を連ねる。この土地の味と風情を楽しむ視点で、大阪にゆかりがある6人の食通に教えてもらった。
大阪がいま、大きく動き出している。そんな大阪の街をより深く知るために、最新の旬なエリアから、名建築やローカルフードまで、地元をよく知る編集者やクリエイターに案内をしてもらった。第2特集では開催直前となった「大阪・関西万博」の見どころを紹介。ダイナミックに変化を続ける“いま”だからこそ出会える大阪の魅力を発見しよう。
『大阪 再発見』
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鮮魚選びにこだわりつくす、大将の目利きが光る隠れ家



看板も暖簾も掲げていない、知る人ぞ知る「和さ美(わさび)」は今年で創業19年。とれたての活魚にこだわり、大将の目利きと独自の仕入れで揃えた魚をおまかせ料理で楽しめる。海水を張った生け簀で生き生きと泳ぐのは、おもに淡路島の漁港から直送された魚。カニは福井の敦賀湾まで訪れ、最上級を仕入れることに妥協はない。長い脚にしっかりと詰まった身は甘く、上質でバランスのよい味。冬ならフグやクエなど、旬の魚をふんだんに味わえる。料理旅館や割烹で腕を磨いた大将の料理はどれも絶品だ。
(案内人:料理人・高田裕介)
和さ美[ 立売堀 ]
住所:大阪府大阪市西区立売堀2-4-15
TEL:080-1527-7882
営業時間:夕方頃〜夜
不定休
旨い魚を求めてたどり着く、人情味あふれる海鮮居酒屋



なにわ情緒を漂わせる法善寺横丁近く、路地の大きな提灯が目印の「鯛めし 銀◯(ぎんまる)」が店を構える。案内人の吉田玉男が「新鮮なお刺し身や、焼き物、煮魚などどれを頼んでもおいしいです。特に看板料理の鯛めしは必ず注文します」という名物の一品は、焼いて香ばしい天然真鯛を、鯛のアラと真昆布で取った出汁で炊き上げるので米のひと粒ひと粒に鯛の風味が染みわたる。鯛めしが余れば、おにぎりにして土産に持たせてくれる大阪の人情に触れる店だ。七輪を使ってあぶる鮮魚の炭火焼も人気メニュー。
(案内人:人形浄瑠璃文楽座 文楽人形遣い・吉田玉男)
鯛めし 銀〇[ なんば ]
住所:大阪府大阪市中央区難波1-5-2
TEL:06-6211-9515
営業時間:17時〜23時
無休
ワインと本格料理に舌鼓、和洋を超えたビストロ酒場



ホテルのレストランで料理長を務めてきたベテランシェフが厨房に立つ、隠れ家的な店。鶴橋市場で日々仕入れた食材は、和洋の垣根を超えた料理となって幅広い客層を魅了する。ワイン、ビール、日本酒、キンミヤ焼酎などさまざまな酒とともに気軽に楽しめるのが、「ビストロ」と「酒場」の名前を冠したこの店の魅力だ。地元の常連を中心に幅広い年齢層がここで寛いでいく。毎年11月3日には、店主が特別に腕を振るった本格的なフレンチのフルコースを完全予約制で提供している。
(案内人:醸造家・大下香緒里)
ビストロ酒場らくだ[ 鶴橋 ]
住所:大阪府大阪市東成区東小橋3-10-32
TEL:06-6972-5537
営業時間:17時〜23時
定休日:日、祝
Instagram:@bistro.sakaba.rakuda
釣りたての鮮魚でつくる、絶品アジフライ&レアカツ


釣り好きで釣行に赴く時間を増やしたいと考えたオーナーが、焼き鳥店から業態変更して5年前に開業。和歌山の海で自分たちで釣り上げた魚を調理して提供する。常連客が釣った魚が持ち込まれることも。船上で血抜き処理されたアジは鮮度抜群で、まったく臭みを感じない。元焼き鳥店らしい変わり種のつくね串「アスパラチーズつくね」(¥420)など、魚以外のメニューも豊富。「小松菜チューハイ」は見た目やネーミングのインパクトとは違って優しい甘さがクセになる。
(案内人:料理研究家・土井 光)
イザカヤ カモン[ 天神橋 ]
住所:大阪府大阪市天神橋 6-5-27
TEL:06-7777-0530
TEL:17時〜深夜1時(Instagramで告知)
不定休
Instagram:@izakaya_kamonn
普段づかいに心強い、古き良き大阪の酒場


「正宗屋」という屋号の酒屋が、1958年に自社で扱う酒類を売る場所として本店を開業。こちらの相合橋店は暖簾分けのかたちで1981年にオープンした。以来、半世紀近く地元のファンに愛され続けている。その魅力は酒が進むおでんとどて焼きなどの豊富なアテ。そしてなんと言っても、焼酎は230円から、瓶ビール大瓶430円と価格を抑えたドリンク類だ。家族に飲みに行くと言っても「正宗屋なら安心だ」と返ってくるほど良心的な会計がありがたい。
(案内人:料理研究家・土井 光)
正宗屋 相合橋店[ 千日前 ]
住所:大阪府大阪市中央区千日前1-4-14
TEL:06-6211-0339
営業時間:11時30分〜22時(日は9時〜20時)
定休日:第3火、水
http://masamuneya.com
親子で代々守り抜く、安くて旨い居酒屋


大正駅にほど近い大衆居酒屋「クラスノ」。初代店主は過酷なシベリア抑留を生き延びた経験から、多くの人に安くておいしいものをお腹いっぱい食べてほしいと1949年に創業。抑留された旧ソ連の街「クラスノヤルスク」の名を冠した店を、親子3代で守り続けている。大阪名物のくわ焼きは46年前に2代目が始めたもので、鉄板で押し焼いた串が味わい深い。3代目は、いまは亡き初代の思い出の味「だし巻き卵」を復活させ、常連客を喜ばせている。
(案内人:写真家・エレファント・タカ)
クラスノ[ 大正 ]
住所:大阪府大阪市大正区三軒家東1-3-11
TEL:06-6551-2395
営業時間:16時〜22時
定休日:土、日、祝
Instagram:@kurasuno0.2
焼酎の可能性を拓く、裏なんばの立ち飲み屋


小さな飲み屋がひしめく裏なんば。ユニバース横丁の奥にある立ち飲み焼酎バーが「年中夢酎」だ。8人程度で満員になる3坪のスペースに店主が厳選した100種類以上の焼酎が並び、焼酎ラバーが夜な夜な集う。「セラーバー」のバーテンダー池上祐子もそのひとりで「焼酎が苦手な方ほど行っていただきたいお店」と語る。こだわりのお湯割りや九州では昔から親しまれている飲み方である前割、焼酎に直接炭酸ガスを注入した新感覚スーパーソーダなど焼酎の可能性を追求している。
(案内人:バーテンダー・池上祐子)
年中夢酎[ 千日前 ]
住所:大阪府大阪市中央区千日前2-3-16
TEL:06-6641-7888
営業時間:18時〜深夜2時(月〜土) 15時〜23時(日、祝)
不定休
Instagram:@nenju_muchu2022
93歳のマスターが歴史を刻む、日本が誇る伝説のバー


案内人のエレファント・タカが「波のように押し寄せるボトルは圧巻」と語るように、年季の入った重厚な扉を開けると、数百本の酒瓶が目に飛び込む。リキュールやウイスキー本来の味わいを楽しんでほしいと、カクテルではなくショットグラスで提供する。第二次大戦後に米軍基地などで働いてきたマスターのもとには、海外からの客や30年以上通う常連も多い。体調もあって営業は18時からのおよそ3時間に限定。「気持ちと体力が続く限りは続けたい」と語る。後継店「COZY」が近隣で営業している。
(案内人:写真家・エレファント・タカ)
ボビーズ[ 梅田 ]
住所:大阪府大阪市北区曾根崎1-6-23 千種會館 2F
TEL:06-6363-7827
営業時間:18時〜21時頃(早めの閉店もあり)
不定休
案内人は、大阪にゆかりのある6人の食通
高田裕介 料理人
1977年、鹿児島県生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、大阪市内のレストランで修業。2007年に渡仏し、星付きの名店で研鑽を積む。10年、大阪にレストラン「ラ シーム」を開業。12年にミシュラン1つ星、16年以降は2つ星を獲得し、「アジアのベストレストラン50」にランクインするなど、高い評価を受けている。
www.la-cime.com
大下香緒里 醸造家
1976年、大阪府生まれ。大阪府箕面市のクラフトビール醸造所「箕面ビール」代表。97年、父・大下正司がビール醸造を開始した際、ビールづくりをスタート。2013年に社長に就任。品質と多様性にこだわったビールづくりに情熱を注ぎ、世界的コンクールで受賞するなど国内外で高く評価されるブランドへと成長させた。
www.minoh-beer.jp
エレファント・タカ 写真家
1962年、大阪府生まれ。上田義彦写真事務所を経て料理や伝統的な食文化など、幅広いジャンルで活動する。雑誌『dancyu』『ミーツ・リージョナル』『あまから手帖』などの料理写真の撮影を手掛け、その美しい仕上がりと、写し出す人間模様によって多くの読者を魅了し続ける。撮影では高級料亭から老舗の酒場までを訪れ、日本の食の奥深さを体感している。
池上祐子 バーテンダー
1992年、和歌山県生まれ。2014年にリーガロイヤルホテルに入社し、「セラーバー」に配属。以来、数々のカクテルコンペティションで優秀な成績を収める。17年「ラ・メゾン・コアントロー ジャパン2017」では総合優勝、アジア大会でも総合準優勝に輝く。「ディアジオ ワールドクラス ジャパンTOP50」選出経験も持つ。
www.rihga.co.jp/osaka
吉田玉男 人形浄瑠璃文楽座 文楽人形遣い
1953年、大阪府生まれ。中学生の時に人形遣いの吉田玉昇の勧めで文楽に興味を持ち、68年に初代・吉田玉男に弟子入りし、「吉田玉女」の名を授かる。2015年4月に師匠の名跡を継ぎ、二代目・吉田玉男を襲名。23年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。4/5〜30に国立文楽劇場にて行われる、4月文楽公演「通し狂言 義経千本桜」に出演する。
www.ntj.jac.go.jp/bunraku
土井 光 料理研究家
1991年、大阪府生まれ。フランスのポール・ボキューズ料理学校でフランス料理とレストラン・マネジメントを学び、 卒業後は3つ星レストランなどで経験を積む。2018年、父である料理研究家・土井善晴の「おいしいもの研究所」に所属し、料理研究家として活動をスタート。著書に土井善晴との共著『お味噌知る。』がある。
Instagram:@hikaru___doi