大阪では割烹料理に代表されるように、カウンターを挟んで料理人と向き合い、食事とともに対話を楽しめる店が多い。そこで交わされる言葉は大阪の人情を感じさせ、特別な時間となるだろう。ハレの日にも訪ねたい名店を、大阪にゆかりがある6人の食通に教えてもらった。
大阪がいま、大きく動き出している。そんな大阪の街をより深く知るために、最新の旬なエリアから、名建築やローカルフードまで、地元をよく知る編集者やクリエイターに案内をしてもらった。第2特集では開催直前となった「大阪・関西万博」の見どころを紹介。ダイナミックに変化を続ける“いま”だからこそ出会える大阪の魅力を発見しよう。
『大阪 再発見』
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日本料理の域を超える、一期一会の味



趣のあるカウンター席を備えた高級感のある空間ながら、フレンドリーなスタッフたちのもてなしが温かい。月ごとに一新される「おまかせコース」には、繊細な和食の美学が光る。番茶で湯がいて香りと食感を引き出したナマコや、たこ焼き風に仕立てた鱈の白子など、技術に裏打ちされ創意工夫が重ねられる。磨き上げられたカウンター内には、趣向を凝らした酒器も並ぶ。毎月のメニュー構成に合わせてスタッフで利き酒会を行い、料理を最大限に引き立てる日本酒を厳選している。
(案内人:写真家・エレファント・タカ)
大阪まんぷく堂[ 今里 ]
住所:大阪府大阪市東成区大今里西3-4-14
TEL:06-6972-1199
営業時間:17時〜23時
不定休
Instagram:@manpukudou
店主がつくり・語る、食材や料理の物語を楽しむ



地元の食材を取り入れ、年中行事に合わせて趣向を凝らした品々。鳴門の漁師など信頼できる生産者からの仕入れを大切にし、食器や酒器は骨董品や親交のある作家などの作品を取り揃える。初午にちなんだいなり寿司、赤こんにゃくを稲荷神社の鳥居に見立てるなど、食材の色彩や器の絵柄を活かし日本料理の技が光る。24歳から料理の道を歩み、大阪食文化研究所も主宰する店主の語る食材と料理のストーリーを楽しめるのもうれしい。日本料理の面白さを知ってほしいと店主は語る。
(案内人:醸造家・大下香緒里)
高麗橋桜花[ 高麗橋 ]
住所:大阪府大阪市中央区高麗橋4-5-13
TEL:06-6201-0223
営業時間:18時〜(最終入店20時30分)
定休日:日、祝(不定休)
www.kouraibashi-ouka.com
おもてなしの心で惹きつける、住宅街にひそむ旨い店



鮨や割烹などの修業を積んだ店主が、閑静な住宅街・緑橋に店を構えたのは2005年のこと。天然にこだわり、扱う魚は一級品。かつては店の定休日まで市場に出かけ、信頼関係を築いたからこそできる仕入れだ。その日の魚がいちばん活きるメニューを大将が提案してくれる。あしらいなどもすべて手づくりで、カラスミも自家製。血抜きをして塩漬けの工程などを経て干し、1カ月半ほどかけてつくる。大将の人柄と確かな腕が評判を呼び、遠方から足繁く通う人が多いのも納得だ。
(案内人:バーテンダー・池上祐子)
旨い料理旨い酒 じょうじ[ 緑橋 ]
住所:大阪府大阪市東成区東中本2-2-25
TEL:06-6977-2470
営業時間:17時30分〜22時30分
定休日:月
https://w-jorge.com
“火遊び”をテーマに、焼き鳥づくりを魅せる


北新地にありながら喧騒から隔絶された、凛とした雰囲気のカウンター。ここで味わうのは店主が火入れにこだわり抜いた焼き鳥だ。紀州備長炭を贅沢に3段に積み、熱放射のパワーで焼き上げる素朴で力強い味わい。比内地鶏をメインに、名古屋コーチンとほろほろ鳥を使い分け、20品ほどをコース仕立てで提供する。つくる過程をドラマチックに見せることにも力を入れ、炎と煙を上げて籠の中で焼き上げる籠焼きや、目の前の炭火で豆を煎ってコーヒーを淹れるなど、目にも楽しく、遊び心も忘れない。
(案内人:料理人・高田裕介)
焼鳥 市松[ 北新地 ]
住所:大阪府大阪市北区堂島1-5-1 エスパス北新地23 1F
TEL:06-6346-0112
営業時間:16時〜20時30分(火〜木) 16時〜23時(金、土)
定休日:月、日
Instagram:@yakitori__ichimatsu
バーのような空間で、手の込んだ創作中華を堪能



今年で創業21年を迎える中華の名店。ビルの地下にひっそりと佇む、カウンター10席ほどのコンパクトな空間だ。オーナーシェフがつくるのは、アレンジを効かせた創作中華。常時40種類ほどのメニューを味わえるが、特に評判なのが「海老のふわふわ玉子チリソース煮」だ。糸状に細く仕上げた卵をたっぷり使い、ふわふわな口当たりに仕上げるのがこだわりで、控えめな辛さのマイルドな味付け。出来立てを箸で持ち上げると卵がチーズのように糸を引き、口触りも新しい。
(案内人:料理研究家・土井 光)
創作中華えにし[ 心斎橋 ]
住所:大阪府大阪市中央区東心斎橋1-18-2 STビル B1
TEL:06-6281-0373
営業時間:18時〜23時
定休日:日、祝
ミナミ有数の市場に構える、旬の食材を扱う串揚げ



国立文楽劇場の観劇後にもお薦めな、黒門市場の一角にある串揚げの名店。メニュー表はなく、すべておまかせのコース料理となる。食材は黒門市場のほか全国の生産者から直送される旬のものを厳選。カウンター越しにリズムよく聞こえる油の音は、食事を盛り上げるこれ以上ないBGMだ。客の要望に応じて少しずつ品揃えを増やしてきたワインは約600種類にのぼる。よい材料を使いおいしくつくることを「当たり前」とし、当たり前を実現した上での居心地のよい空間づくりを心がける。
(案内人:人形浄瑠璃文楽座 文楽人形遣い・吉田玉男)
六覺燈 黒門本店[ 日本橋 ]
住所:大阪府大阪市中央区日本橋1-21-16 たこそうビル2F
TEL:06-6633-1302
営業時間:17時〜22時
定休日:水
www.rokukakutei.co.jp
案内人は、大阪にゆかりのある6人の食通
高田裕介 料理人
1977年、鹿児島県生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、大阪市内のレストランで修業。2007年に渡仏し、星付きの名店で研鑽を積む。10年、大阪にレストラン「ラ シーム」を開業。12年にミシュラン1つ星、16年以降は2つ星を獲得し、「アジアのベストレストラン50」にランクインするなど、高い評価を受けている。
www.la-cime.com
大下香緒里 醸造家
1976年、大阪府生まれ。大阪府箕面市のクラフトビール醸造所「箕面ビール」代表。97年、父・大下正司がビール醸造を開始した際、ビールづくりをスタート。2013年に社長に就任。品質と多様性にこだわったビールづくりに情熱を注ぎ、世界的コンクールで受賞するなど国内外で高く評価されるブランドへと成長させた。
www.minoh-beer.jp
エレファント・タカ 写真家
1962年、大阪府生まれ。上田義彦写真事務所を経て料理や伝統的な食文化など、幅広いジャンルで活動する。雑誌『dancyu』『ミーツ・リージョナル』『あまから手帖』などの料理写真の撮影を手掛け、その美しい仕上がりと、写し出す人間模様によって多くの読者を魅了し続ける。撮影では高級料亭から老舗の酒場までを訪れ、日本の食の奥深さを体感している。
池上祐子 バーテンダー
1992年、和歌山県生まれ。2014年にリーガロイヤルホテルに入社し、「セラーバー」に配属。以来、数々のカクテルコンペティションで優秀な成績を収める。17年「ラ・メゾン・コアントロー ジャパン2017」では総合優勝、アジア大会でも総合準優勝に輝く。「ディアジオ ワールドクラス ジャパンTOP50」選出経験も持つ。
www.rihga.co.jp/osaka
吉田玉男 人形浄瑠璃文楽座 文楽人形遣い
1953年、大阪府生まれ。中学生の時に人形遣いの吉田玉昇の勧めで文楽に興味を持ち、68年に初代・吉田玉男に弟子入りし、「吉田玉女」の名を授かる。2015年4月に師匠の名跡を継ぎ、二代目・吉田玉男を襲名。23年には重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。4/5〜30に国立文楽劇場にて行われる、4月文楽公演「通し狂言 義経千本桜」に出演する。
www.ntj.jac.go.jp/bunraku
土井 光 料理研究家
1991年、大阪府生まれ。フランスのポール・ボキューズ料理学校でフランス料理とレストラン・マネジメントを学び、 卒業後は3つ星レストランなどで経験を積む。2018年、父である料理研究家・土井善晴の「おいしいもの研究所」に所属し、料理研究家として活動をスタート。著書に土井善晴との共著『お味噌知る。』がある。
Instagram:@hikaru___doi