今年は巨大こけしが東福寺に登場! アーティスト主導のアートフェア「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025」開幕

  • 写真&文:中島良平
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Yotta『花子』2011年〜 清水寺や東本願寺に展示されたこけしの花子は、今年は東福寺の方丈前に登場。何かを話しているので耳をよく傾けてほしい。

次世代のアーティストが世に羽ばたくためのきっかけづくりとして、来場者とアーティストのダイレクトなコミュニケーションを生み出す場となる新しいスタイルのフェア『ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025』が開催。アドバイザリーボードして迎えた国内外で活躍するアーティストからの推薦と、公募で選出された新進気鋭のアーティストたちが自ら展示を企画し、出品と販売までを担う独自のこのイベントは、今回で8回目となる。

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フェア開催前日には「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025 マイナビ ART AWARD」授賞式を実施。審査委員も務めた椿昇は、出品作家のレベルが高く審査は困難だったと話す。審査員を務めたのは、飯田志保子(キュレーター/国際芸術祭「あいち2025」学芸統括)、髙橋瑞木(CHAT Centre for Heritage, Arts and Textileエグゼクティブディレクター兼チーフキュレーター)、中井康之(京都芸術大学客員教授)と椿の計4名。

アーティストが直接鑑賞者と対話し、作品を販売することを経験することで、作品制作を行いながら生き続ける術を身につけていける。そして、京都にアートを買う文化が育まれる。現代美術家で京都芸術大学教授で教授を務める椿昇がそのような思いを抱き、ディレクターとして立ち上げたこのフェア。資本主義のシステムのもとで作品の高騰化が進む「アートフェア」とは一線を画す「アーティストフェア」を名乗る所以である。

作品の展示販売が行われるメイン会場が、かつて輪転機が稼働を続け日々新聞が印刷されていた京都新聞ビルの地下1階と、1897年に帝国京都博物館として開館した京都国立博物館 明治古都館の2箇所。アドバイザリーボードによる展覧会を臨済宗大本山 東福寺で開催。メイン会場の会期は3月2日まで、アドバイザリーボード展は3月6日まで行われる。

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最大の魅力は、出展作家とのコミュニケーション

メイン会場のひとつである京都国立博物館 明治古都館に向かう。「床と壁面をうまく使った展示」だと、授賞式で審査員の飯田伊保子から評価されていた最優秀賞を受賞した本岡景太の展示から見ていこう。

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メイン会場のひとつである京都国立博物館 明治古都館。
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本岡景太の作品展示の様子。推薦者は大巻伸嗣。

通常のアートフェアであれば、ブースを出展するギャラリーのスタッフから作品説明などを受けるが、このフェアでは基本的に作家がブースに常駐するため、作品について作家から直接話を聞くことができる。コミュニケーションの場となっていることが、アーティストにとっても、作品の購入を考える来場者にとっても非常に重要だ。「染色した紙を貼り付けることで立体作品を作る」という技法について、作家本人からブースで話を聞くことができた。

「花であれサボテンであれ、そのモチーフの色だけを抽出して形を作るのではなく、光や影も含めた色を貼っていきます。つまり、近い距離で見たものとしての色だけではなく、より俯瞰した距離で見た色で立体を作っていくのです。彫刻の表面には、モチーフの色に加えて周囲の背景が持つ色も加わっていくので、彫刻と空間の関係性をより考えるようになりました」(本岡景太)

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テレビ局の取材を受ける本岡。東京藝術大学大学院の博士後期課程の彫刻研究領域に籍を置き、制作に勤しんでいる。

会場では、参加アーティストがそれぞれの作品の技法やサイズごとに考えた展示行っており、どの作品を購入しようか目移りすることだろう。

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優秀賞受賞作家である和出伸一の展示風景。ドローイングなどを続けており、8年ぶりに油彩作品を手がけたという和出。「油彩の物質感に一番惹かれます」と、自身の制作の原点である油絵の魅力について語ってくれた。推薦者は池田光弘。
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山本真実江の展示風景。陶と版画を学んだ背景から、両方の技術が融合した表現を陶磁器やレリーフなどで実施する。推薦者は鶴田憲次。
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清水信幸の展示風景。「線と色の融合点のようなものを探りながら制作しています」と話す作家。「1本の金属を曲げ、その線に絵具を載せ、また曲げて載せてという作業を繰り返し、無脊椎動物のようなものと出会う瞬間」を目指すのだという。推薦者は加藤泉。
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公募での選出もあり、意欲的な作家の展示と出会うことができる。山田千尋は、不安、恐怖、不快さを感じるものをモチーフに作品を描く。それでも美しさを感じる画面が生まれることへのギャップに惹きつけられるのだという。
 
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優秀賞受賞作家のひとり、アンドレス・マリオ・デ・ヴァローナは、ニューメキシコを拠点に、砂漠での生活で感じられる死生観を写真に表現する。推薦者はオサム・ジェームス・中川。

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京都新聞ビル地下のインダストリアルな空気感に、呼応する展示

建物の老朽化により、建て替えを予定している京都新聞ビルの展示は、今回で最後を予定している。このパワフルな空間とどのように対峙するか。いくつかの展示を紹介したい。 

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優秀賞受賞作家のひとり、土屋咲瑛の展示風景。「私だけが、私の世界に存在していないという考えを元に、『私の存在感が無くなる瞬間』に目を向けて」点と線を組み合わせた表現を小さな画面から大きな空間へと展開する。推薦者は椿昇。
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優秀賞受賞作家のひとりで、金沢卯辰山工芸工房でガラス作品制作を行う寺澤季恵。「腐敗や死などの側面から『生』を感じようとする」という姿勢を示す作家は、吹きガラス特有の形態と身体的なモチーフとの融合を目指す。推薦者は薄久保香。
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柴田まおは、情報化社会における人と人とのつながり、距離感、コミュニケーションの構造を、彫刻というフィジカルなメディウムを軸に表現する。推薦者は大巻伸嗣。
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「彫刻」と呼びうる条件を探りながら、公と私の併存を模索する熊谷卓哉。3DCGや3Dプリンタで制作された立体、映像、仮想空間を用いて制作を続けている。推薦者はヤノベケンジ。
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京都精華大学大学院で陶芸コースを修了した久保木要は、陶を用いた立体やアクリル板を重ね合わせた作品を制作する。「既視感と道間を行き来しながら、生命力を想起させる形態の表現」を試みている。公募による選出。

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東福寺の方丈を、現代アートがジャックする。

東福寺の方丈といえば、“東福寺方丈「八相の庭」”と呼ばれる、作庭家の重森三玲によって1939年に完成された庭園も有名だ。その庭園を四方に配する方丈に足を踏み入れると、現代アートの旧来の寺院建築とアートが融合した空間が広がる。

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南庭より方丈を望む。
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手前の作品は大庭大介『SPECTRUM』(2021年)。鑑賞者の動きによって光と作品の呼応関係が移ろい、画面が変化を続ける。
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池田光弘『untitled(figure no.11)』2024 具象的再現を乗り越えたイメージと物質が拮抗する、“絵画の風景”とも呼べるものを作家は生み出す。
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オサム・ジェームス・中川「Trace」シリーズより 第二次世界大戦中に米国内に作られた日本人・日系アメリカ人収容所跡地の写真、そこで見つけた異物のサイアノタイプ・フォトグラム、記念碑に刻まれた文字を写し取ったフロッタージュのシリーズから5点を展示。
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加藤泉『KPMS-1:ジオラマ』2024年 石に絵を描いて組み合わせた立体作品をプラモデルにして作品化。さらにそのプラモデルを盆栽仕立てのジオラマにしたミクストメディア作品。

気鋭の作家たちによる作品展示と来場者とのコミュニケーション。そして、アドバイザリーボードを務めたアーティストたちが東福寺の厳粛な空間に繰り広げるアート。美術大学が多く意欲的な作家たちが暮らし、また古都の文化遺産も現代的な表現を受け入れる度量を持つ京都だからこそ生まれるアートイベントに足を運んでほしい。

ARTISTS' FAIR KYOTO 2025

〈メイン会場〉
2025年2月28日(金)〜3月2日(日)
京都国立博物館 明治古都館 9時30分〜17時(最終入場16時30分)/一般¥2,000 
京都新聞ビル 地下1階 10時〜17時(最終入場16時30分)/無料
 
〈アドバイザリーボード展@東福寺〉
2025年2月28日(金)〜3月6日(金)
臨済宗大本山 東福寺 9時〜16時(最終入場15時30分)/一般¥500

https://artists-fair.kyoto