【大阪・関西万博】落合陽一のパビリオンは、デジタル化した自分自身と向き合う“鏡面建築”

  • 文:高野智宏
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落合陽一が手掛ける大阪・関西万博のパビリオンには、各界のプロが制作に携わっている。舞台装置制作などを手掛けた木村匡孝(まさたか)もまた、その中のひとりだ。完成までのストーリーを聞いた。

Pen最新号『大阪 再発見』の第2特集は、4月13日に開幕する「大阪・関西万博」。万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。会場には158の国・地域と7つの国際機関、8つのシグネチャーパビリオン、13の民間パビリオンと4つの国内パビリオンが並び、世界中からトップクリエイターと最先端テクノロジーが集結する。パビリオンを手掛けているクリエイターや研究者たちに、知られざる万博の魅力や見どころを案内してもらった。

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落合陽一/シグネチャーパビリオン「null²(ヌルヌル)」

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1月初旬に落合陽一が現地で撮影したパビリオンの外観。夕焼けが反射して美しい。(C) 2024 Yoichi Ochiai

風景を映しながら有機的に湾曲する鏡面変形建築の中で、3D化された自分自身のデジタル分身、Mirrored Bodyと対話する。物質とデジタルの合わせ鏡により未知の風景を描き出すのが、メディアアーティスト落合陽一プロデュースによるパビリオン「null²(ヌルヌル)」だ。

そんな先進のデジタル表現を体感するパビリオンに、落合自らの依頼により携わるも、その役割を「球拾いですね」と言うのが、舞台装置制作などを手掛ける企業、タスコの“工場長”、木村匡孝だ。

「落合館の制作に携わるのは各界のプロ揃い。当初はやることも少なくのん気にしていましたが、ゴールが見え始めた昨年末より各担当者から、『これ、あったほうがいいよね?』のような声が。そんな“スキマ”の仕事は、だいたい『お願いできます!?』ってくる(笑)」

依頼される内容は、固定する予定だった照明を機械仕掛けで動かせるようにするなど、当然ながら球拾いの範疇ではない。

現在、仕上げ作業が行われているが、「開幕が迫るなかそうした作業が増え、かなり焦っています」と、木村は苦笑する。

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左:「Mirrored Body」は独自のスキャナにより3D化し生成する。スキャナはパビリオンの外に設置される予定だ。 右:スマホにダウンロードした専用アプリを通じ、デジタルの分身と対話ができる。(C)2024 Yoichi Ochiai / Sustainable Pavilion 2025 Inc. /All Rights Reserved.
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館内では、天井や床など壁面の変形する鏡面に映像が投影され、未知の視覚体験に包まれる。

これまでにない光景に遭遇し、未知の体験ができる落合館。木村さんが「体験してほしい」と力を込めるのが、来場者を3D化し対話形式で自身の基本データなどを入力して命を吹き込む、Mirrored Bodyの生成だ。
「等身大の鏡で自身のデジタルアバターと会話できるのは、1回の観覧につき1名ですが、Mirrored Bodyは誰もが生成でき、かつ万博後も生き続けます」

というのも、自身や他人のMirrored Bodyとの会話や、Mirrored Body同士の会話で得た情報を共有できるなどの活用も予定しているのだ。

「Mirrored Bodyが独自に活動すれば、我々は物理的な制約から開放される。それは落合さんが提唱する人とモノ、自然や計算機が接続する『デジタルネイチャー』の世界観そのものです」

約50万人の来場を見込むパビリオンは、その体験の場であり壮大な実証実験の場というわけだ。

「とはいえ、先進技術を使ったパビリオンのMirrored Bodyも、芸術的に表現されているところが落合館の魅力です」

デジタル技術が創造する未知の世界。木村は開幕までその精度を上げるべく、こぼれ落ちる球を拾い、彼にしかできない技術力でスキマを埋め続ける。

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木村匡孝

マシンアーティスト

1981年、東京都生まれ。2004年、多摩美術大学情報デザイン学科卒業。明和電機を経て独立し、東京 KIMURA 工場を設立。KIMURA式自走機シリーズなどを手掛ける。12 年より総合制作会社TASKO inc.の立ち上げに参加し、設計制作部工場長に就任。電気と機械にまつわるさまざまな業務を引き受けている。

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