2002年にパリのカルティエ財団現代美術館で村上隆の個展が開催されて以来、日本の現代アートはフランスで確かな支持を得てきた。現在、グラン・パレでは塩田千春の回顧展が行われており、日本人アーティストへの関心はますます高まっている。村上隆と塩田千春、一見対極にある作風を持つ両者に共通するのは、フランスで熱狂的な支持を集めている点だ。それは、「現代のジャポニスム」とも言える現象ではないだろうか。
2020年、ジュリアン・サトウは日本の現代アートをフランスに紹介することを目的に、パリでSato Galleryを立ち上げた。彼によれば、この「ネオ・ジャポニスム」は、近年フランスで高まるマンガやアニメ人気と並行して発展してきたという。特に村上隆のネオポップ・ムーブメントに続く、日本のポップカルチャーを巧みに取り入れたアーティストたちは、コレクターたちの注目を集めている。
その代表的な存在が、Sato Galleryの看板アーティストである天野タケルだ。彼の作品は、幾何学的かつ抽象的なフォルムを鮮やかな色彩で描いたものから、静物画や人物画まで多岐にわたる。異質な要素を組み合わせ、時に不可思議で不条理な雰囲気を醸し出す点も特徴だ。なかでも象徴的なのが「Venus」シリーズ。ネオンカラーを背景に、官能的なポーズをとる裸の女性像を描くが、その表情は常に無機質で、時には倦怠感さえ漂わせている。構図の官能性と対照的な無表情さが、独特の緊張感を生み出している。

天野タケルは2016年にパリで初めて展示を行ったが、日本国内での個展開催はしばらく途絶えていた。しかし、海外での成功が逆輸入的に評価され、2020年には作品集『Icons』がTSUTAYA BOOKSより刊行され、日本でも再び注目を浴びるようになった。Sato Galleryに所属する多くのアーティスト同様、彼もまた独立系のアーティストであり、そのキャリアにおいて転機となったのがパリのUrban Art Fairへの参加だった。

「私たちのコレクターは必ずしも日本文化に精通しているわけではありません。しかし、多くがストリートアートを収集しており、ポップカルチャーに親しみを持っています」とジュリアン・サトウは語る。最近では、仮想通貨やメタバースの世界と親和性のあるコレクターも増えている。こうした層に特に支持されているのが、ゲーム文化を背景にしたアートを展開するEXCALIBURというコレクティブだ。彼らの作品は、80年代のゲーム黄金期を彷彿とさせる8ビットのピクセルアートで、ゲーム的なテーマから現代の都市風景まで幅広く描く。村上隆の世代に続くアートムーブメントとして、彼ら自身はこのスタイルを「メタビット」と称している。
EXCALIBURを率いる田中義則は、デジタルで制作した作品を物理的なアート作品へと変換するため、独自の技術を駆使している。UV印刷を何層にも重ねた後、最終的にアクリルを施すことで、ネオンカラーの都市風景が奥行きを増し、日本の伝統的な掛軸のような縦長フォーマットでも独特の存在感を放つ。

「商業的に成功する作品は、海外のコレクターにとって理解しやすいものです」とジュリアン・サトウは続ける。「ネオポップは、村上隆を知っている人が多いため、とっつきやすい。ですが、彼らは次第により繊細な作品にも興味を持つようになっています」

その一例が、コレクターたちを惹きつける濱大二郎の作品だ。彼のモノクロームの世界観には、幼少期を過ごした島根の伝説に登場する妖怪たちが現れる。幻想的でありながら不穏さを感じさせるその画風は、まるで日本的なシュルレアリスムとも言える。濱とジュリアン・サトウは、この日本特有の精神性と「カワイイ」要素を併せ持つ独自のシュルレアリスムを「シュールrealism」と名付けた。フランスでは芸術運動を明確に定義し、ラベルをつける文化があるため、こうした命名がコンセプチュアル・アートの受容を助けるという。

また、日本の現代アートに早くから注目していたのが、世界最大のアフリカ現代アートコレクションを持つフランス人コレクター、ジャン・ピゴッツィだ。彼は2008年頃から日本の若手アーティストに目を向け、彼らの作品がフランスのシーンと共鳴することをいち早く見抜いていた。
ジュリアン・サトウは、パリで隔年開催されるフェスティバル「Tokyosaï」を通じて、日本の新しい現代アートシーンをヨーロッパに紹介し、両地域のアート交流を促進したいと考えている。さらに、ギャラリーの10周年を迎えるにあたり、東京に新たな拠点を開設する計画も進めている。それは、彼が長年バー兼ギャラリー「M」を運営し、多くのアーティストを迎えてきた中目黒への原点回帰ともいえる。現在もアトリエを構える天野タケルをはじめとする、新世代の日本現代アートシーンにより密接に関わるための一歩となるだろう。
