第102回“贅を尽くした京湯”【小山薫堂の湯道百選】

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂
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〈京都府京都市〉
長者湯

P蜀咏悄蜈・遞ソ・ソ0228_p170_騾」霈雲貉ッ驕・1_L1001394.jpg京都は銭湯の聖地だ。年々減少しているとはいえ、市街地の歩いて行ける距離に真っ当な銭湯が何軒も点在している。それに、なんといっても京都は水がいい。薪を焚いて沸かした地下水は、時に温泉を凌ぐ心地よさを誇る。しかも、ほとんどが水風呂を備えていて、サウナ無料は京都では常識だ。日曜日に朝風呂営業をしている銭湯が多いのもうれしい。本当はすべての京都銭湯を湯道百選に入れたいのだが、今回はあえて「長者湯」を選んでみた。

大正6年に創業し、今年で108年目。戦前からの風情をきちんと残しながら、徹底した清掃で「京都一きれいな風呂屋」と湯主は胸を張る。しかし実は数年前、三代目の間嶋正明さんは廃業を覚悟したことがあった。それを覆させたのが、サラリーマンを辞めて実家に戻ってきた息子の健太さんだ。四代目は30年ぶりの大改装を決意。洗い場を縮小してサウナを設置し、水風呂を倍の広さにした。

ただ大切なところはなにも変えていない。薪窯の奥の地下にある石組みの井戸を見せてもらった。とびきりの水脈から湧き出した地下水のなんと美しいこと! よい湯のために、贅を尽くすとはまさにこういうことなのかもしれない。

京料理や京野菜が一つの価値として語られるならば、京都の銭湯を「京湯」と呼ぶのはどうだろう?  伝統と革新を繰り返しながら、京湯は輝き続けるのである。

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脱衣所には柳行季の脱衣籠や近江八景を題材にした透かし彫の欄間があり、窓の外には鯉が泳ぐ池や雪見灯籠がある庭も。敷地内から組み上げる17~18℃の地下水を毎日薪で沸かしている。

 

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3代目間嶋正明さん(右)と4代目健太(左)さん。唐破風の建物は、2002年に京都市歴史的意匠建築物に指定された。

長者湯

住所:京都府京都市上京区上長者町通松屋町西入ル須浜東町450
TEL:075-441-1223
営業時間:15時10分~24時
定休日:火曜日
料金:大人¥510、6~12歳¥160、0~5歳¥60
https://1010.kyoto/spot/choujayu

※この記事はPen 2025年4月号より再編集した記事です。