1984年の創刊以来、「大人の愉しい食マガジン」として関西圏を中心に親しまれてきた雑誌『あまから手帖』。2022年より編集長を務める江部拓弥に、梅田駅周辺の再開発で再注目されている最旬エリア、中津・中崎町を案内してもらった。
大阪がいま、大きく動き出している。そんな大阪の街をより深く知るために、最新の旬なエリアから、名建築やローカルフードまで、地元をよく知る編集者やクリエイターに案内をしてもらった。第2特集では開催直前となった「大阪・関西万博」の見どころを紹介。ダイナミックに変化を続ける“いま”だからこそ出会える大阪の魅力を発見しよう。
『大阪 再発見』
Pen 2025年4月号 ¥880(税込)
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大阪の「キタ」に位置する中津・中崎町。どちらも梅田の中心部から1駅とアクセスがよく、梅田駅周辺の再開発で再注目されているエリアだ。中津はかつて青果店などが軒を連ねた中津商店街を中心に栄え、現在は長屋をリノベーションした飲食店や雑貨店が集まり活気が生まれている。中崎町は戦火をまぬがれた木造建築も多く、古き良き風情を感じさせる一方、カフェや美容院が立ち並び、若者の街としても注目が集まる。
①数多の著名人が舌鼓を打った、大阪の歴史に名を残す名店
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「おでんとは呼ばず“かんさいだき”。森繁久彌さんによる命名で、漫画『美味しんぼ』にも2回登場する名店です」(江部)。終戦間もない1945年にお初天神で開業し、今年で創業80年。境内にある灯篭を囲むように営業していたことから「常夜燈」の名がついた。関西ではおでんを関東煮と呼ぶが、初代女将の発案で、ロールキャベツを入れるなど独自メニューを展開していたこともあり、「かんさいだき」と呼ばれるように。鯛のお頭と羅臼昆布を鍋底に敷き、国産鶏のモミジでとった出汁は、すっきりとした味わいで、具材に優しく染みる。
かんさいだき 常夜燈 豊崎本家
住所:大阪府大阪市北区豊崎2-8-14
TEL:06-6371-1115
営業時間:17時30分〜22時
定休日:日、祝
https://jyo-yato.jimdofree.com
②カレーブームの立役者は、地元から愛される老舗カフェ
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「ウルフルズの『大阪ストラット』でも歌われるカレーとチャイの老舗」(江部)。1972年創業の老舗カフェは、複数のスパイスを使ったカレーで大阪のスパイスカレーブームを牽引した。当時はまだあまり知られていなかったチャイも開業時から提供。ウルフルズのメンバーがアルバイトをしていたことでも知られる。定番のマサラチャイは、生姜をベースにカルダモン、アニス、クローブ、シナモンを混ぜたオリジナルのミックススパイスを使用。地元住民から観光客まで幅広く愛され、現在は大阪駅前サン広場などにも店舗がある。
カンテグランデ 中津本店
住所:大阪府大阪市北区中津3-32-2
TEL:06-6372-0801
営業時間:11時〜17時
無休
www.cantegrande.jp
③滋味深い味が広がる、行列のできる味付け海苔
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「週1回、金曜日だけ営業する味付け海苔専門店。関西人は味付け海苔好きなんですよ」(江部)。週に一度の営業日を目指して行列ができる店。料理上手の祖母の味を、オーナーが再現した味付け海苔が話題を呼んでいる。味の秘密は、海苔に調味料を手作業で揉み込む製法。ローラーで調味料を塗る大量生産では、中まで味を染み込ませることができないと言う。辛さと甘さ、コクのバランスがよい厳選したトウガラシを使った「とうがらし」味が一番人気。
大阪千林のりや 豊崎店
住所:大阪府大阪市北区豊崎4-2-16
TEL:090-9872-5199
営業時間:10時30分〜19時
定休日:月〜木、土、日(金のみ営業)
④解放感たっぷりの大衆酒場は、大阪らしさあふれる賑わい
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「壁面を埋め尽くすメニューが圧巻。耳なし芳一を彷彿させる大衆酒場です」(江部)。店内には提灯が連なり、手書きメニューが隙間なく並ぶ。「書き換えたらバレるから値上げできへんねん」と笑う大将は、長年天神祭に携わり、お祭りの雰囲気や飾りつけが好きだという。オープン当初から変わらないビニールテントスタイルで、ビールケースを使ったテーブルや椅子、店の外に向かって流れ続ける矢沢永吉のライブ映像が、非日常の気分を盛り上げる。
大阪はなび
住所:大阪府大阪市北区中津1-18-7
TEL:06-6376-4648
営業時間:17時〜23時頃
不定休
⑤すべての食材にこだわり、洗練を遂げたスープと麺
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「白木のカウンター、スタッフも白衣を纏い、和食店にも見えるけど実はラーメン店」(江部)。ラーメンのために生み出したオリジナルの地鶏「麺助鶏」と比内地鶏、ほろほろ鳥を使ったスープはうまみが濃く、上質な油がコクを生み、深い余韻を楽しめる。醤油は生醤油など7種をブレンド。麺もこだわりの自家製麺で、北海道産の小麦「スーパーはるゆたか」を使用。なめらかなのど越しと気持ちのいい噛み応え、そして麦の香りが濃厚なスープとマッチする。
麦と麺助
住所:大阪府大阪市北区豊崎3-4-12
営業時間:11時〜15時30分
定休日:火
X:@mugitomensuke
⑥古き良き時代の価値を、蘇らせるフィルム映画館
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「フィルム上映の名画座。25席の奇跡のような映画館」(江部)。映画プロデューサーで黒沢清監督『地獄の警備員』の脚本なども手掛けた富岡邦彦が、1970年代から貴重な映画資料の収集や上映を行っていた「プラネット映画資料図書館」の休業を知り、映画誕生100周年の1995年に「プラネットプラスワン」としてオープン。リュミエール兄弟からハリウッド黄金期まで、アメリカやヨーロッパの映画を中心に、フィルム作品にこだわり上映している。日本未公開作品や海外で入手したフィルムも多いため、富岡が翻訳も行う。
プラネットプラスワン
住所:大阪府大阪市北区中崎2-3-12 パイロットビル2F
TEL:06-6377-0023
※営業時間は上映内容による
定休日:火、木
https://planetplusone.studio.site
⑦コーヒーと本の香りが包む、才能を育み続ける場所
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「店主の目利きによる展示と個性的な書棚に並ぶ本も楽しく、カフェでも寛げます」(江部)。デザイン学校で講師を務める鯵坂兼充が、教え子たちが卒業後に作品を発表する場を大阪につくろうと、ギャラリーを主体としたこの店を開いたのは2003年のこと。現在は週3日オープンし、ジャンルにこだわらず月に1回のペースで展覧会を催す。教え子にはイラストレーターの間芝勇輔らがおり、ミロコマチコの公の場でのはじめての個展もここで開かれた。アーティストの作品集など、新刊や古書問わずセレクトされた本も必見。
コーヒーブックス ギャラリー イトヘン
住所:大阪府大阪市北区本庄西2-14-18 富士ビル1F
営業時間:11時〜18時
定休日:火〜金、不定休
http://itohen.info
⑧路地裏に佇む隠れ家で、心地よいひと時に酔いしれる
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「路地裏の古民家。1階が日本酒とおでんとパスタ、2階が洋服屋という異色の組み合わせ」(江部)。ポルチーニ茸からとった出汁で炊くユニークなおでんとパスタ、そして日本酒のアテになる一品料理を楽しめる。おでん出汁を使ったカルボナーラや、出汁をとったポルチーニ茸をミンチに混ぜたボロネーゼなど、独自のマリアージュが光る。淡く照らされた趣ある店内は、2階に併設された洋服屋「クラン2F」の店主が空間デザインを手掛けた。
おでんとお酒トウスイ
住所:大阪府大阪市北区本庄西1-9-4
TEL:070-1373-0194
営業時間:17時〜24時
不定休
Instagram:@tosui_honjo
⑨ジェノバ育ちのシェフによる、イタリアの郷土の味
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「たぶん日本で唯一のイタリア・リグーリア州の郷土料理を堪能できるイタリアンレストラン」(江部)。日本文化を愛するボッフェッリ・シルビアが、イタリアなどで培った経験を活かして腕を振るう。故郷・リグーリア州、なかでも地元ジェノバの料理をベースに、独自にアレンジしたイタリアンを提供する。特に「パスタ ジェノベーゼ」はバジリコだけでなく、ジャガイモやいんげん豆、そして松の実をたっぷり使ったペーストで、濃厚な味わい。厳選されたイタリアワインも充実。
ラ・ランテルナ・ディ・ジェノバ
住所:大阪府大阪市北区中崎3-2-8
TEL:06-6371-0606
営業時間:17時30分〜22時30分(火〜日) 12時〜15時30分(土、日、祝、前日までに要予約)
定休日:月
http://lalanterna.web.fc2.com
⑩カリッとした食感から広がる、鰹出汁が効いた優しい味
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「大阪を代表するたこ焼きの一軒。ソースなしで、出汁の味だけで十分に満足!」(江部)。1953年の創業当時からあるブリキの看板が、ひと際目を引く老舗たこ焼き屋。昔ながらの味は決して変えないと、家族で代々受け継いだつくり方を守り抜いている。肝になるのは、鰹出汁をベースにした生地の、小麦や卵、醤油などの調合バランス。店の外で焼くため外気の影響を受けやすく、気温によっても分量を変えるほどのこだわりだ。特注の銅板で一度に最大150個を焼き上げる。
うまい屋
住所:大阪府大阪市北区浪花町4-21
TEL:06-6373-2929
営業時間:11時30分〜19時
定休日:火(祝日の場合は営業)
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案内人:江部拓弥
『あまから手帖』編集長。新潟県生まれ。2008年から『dancyu』に関わり、12年から編集長を務める。『dancyuWEB』の立ち上げなども手掛ける。22年に現職に就任。阪神タイガースを愛して49年。
www.amakaratecho.jp