業界きっての食通が直伝! 大阪の最旬エリア「中津・中崎町」の注目スポット10選

  • 写真:内藤貞保、齋藤誠一、蛭子 真
  • 文:植田沙羅、藤井亮一、脇本暁子
  • イラスト:別府麻衣
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1984年の創刊以来、「大人の愉しい食マガジン」として関西圏を中心に親しまれてきた雑誌『あまから手帖』。2022年より編集長を務める江部拓弥に、梅田駅周辺の再開発で再注目されている最旬エリア、中津・中崎町を案内してもらった。

大阪がいま、大きく動き出している。そんな大阪の街をより深く知るために、最新の旬なエリアから、名建築やローカルフードまで、地元をよく知る編集者やクリエイターに案内をしてもらった。第2特集では開催直前となった「大阪・関西万博」の見どころを紹介。ダイナミックに変化を続ける“いま”だからこそ出会える大阪の魅力を発見しよう。

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大阪の「キタ」に位置する中津・中崎町。どちらも梅田の中心部から1駅とアクセスがよく、梅田駅周辺の再開発で再注目されているエリアだ。中津はかつて青果店などが軒を連ねた中津商店街を中心に栄え、現在は長屋をリノベーションした飲食店や雑貨店が集まり活気が生まれている。中崎町は戦火をまぬがれた木造建築も多く、古き良き風情を感じさせる一方、カフェや美容院が立ち並び、若者の街としても注目が集まる。

①数多の著名人が舌鼓を打った、大阪の歴史に名を残す名店

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左:神戸牛のひき肉と淡路島の玉ねぎを使ったロールキャベツや、特製の厚めの皮で包んだしゅうまいなど珍しい種が並ぶ。14種類をまとめた「かんさいだきセット」¥5,100(写真は2人前)、特別純米酒「仙介」¥660 右:藍色の暖簾には森繁久彌がしたためた文字が。

「おでんとは呼ばず“かんさいだき”。森繁久彌さんによる命名で、漫画『美味しんぼ』にも2回登場する名店です」(江部)。終戦間もない1945年にお初天神で開業し、今年で創業80年。境内にある灯篭を囲むように営業していたことから「常夜燈」の名がついた。関西ではおでんを関東煮と呼ぶが、初代女将の発案で、ロールキャベツを入れるなど独自メニューを展開していたこともあり、「かんさいだき」と呼ばれるように。鯛のお頭と羅臼昆布を鍋底に敷き、国産鶏のモミジでとった出汁は、すっきりとした味わいで、具材に優しく染みる。

かんさいだき 常夜燈 豊崎本家
住所:大阪府大阪市北区豊崎2-8-14
TEL:06-6371-1115 
営業時間:17時30分〜22時
定休日:日、祝
https://jyo-yato.jimdofree.com

②カレーブームの立役者は、地元から愛される老舗カフェ

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左上:アンティーク調の門扉を抜けて、緑の生い茂った庭へと階段を降りた先に、半地下の大きな空間が広がる。 左下:インド雑貨などが飾られたエスニックな雰囲気の空間は、アートフェアの会場や映画のロケ地として使われることも。 右:バターチキンカレーのセット¥1,480、マサラチャイ¥580 

「ウルフルズの『大阪ストラット』でも歌われるカレーとチャイの老舗」(江部)。1972年創業の老舗カフェは、複数のスパイスを使ったカレーで大阪のスパイスカレーブームを牽引した。当時はまだあまり知られていなかったチャイも開業時から提供。ウルフルズのメンバーがアルバイトをしていたことでも知られる。定番のマサラチャイは、生姜をベースにカルダモン、アニス、クローブ、シナモンを混ぜたオリジナルのミックススパイスを使用。地元住民から観光客まで幅広く愛され、現在は大阪駅前サン広場などにも店舗がある。

カンテグランデ 中津本店
住所:大阪府大阪市北区中津3-32-2
TEL:06-6372-0801
営業時間:11時〜17時
無休
www.cantegrande.jp

③滋味深い味が広がる、行列のできる味付け海苔

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上:ごはんのおともにはもちろん、酒のアテとして食べる人も多い。 大阪は海苔の産地から遠かったこともあり、風味が落ちても楽しめるように味付け海苔が好まれるようになったとも言われる。 下:左から「うめかつお」「とうがらし」「しそわさび」各¥700

「週1回、金曜日だけ営業する味付け海苔専門店。関西人は味付け海苔好きなんですよ」(江部)。週に一度の営業日を目指して行列ができる店。料理上手の祖母の味を、オーナーが再現した味付け海苔が話題を呼んでいる。味の秘密は、海苔に調味料を手作業で揉み込む製法。ローラーで調味料を塗る大量生産では、中まで味を染み込ませることができないと言う。辛さと甘さ、コクのバランスがよい厳選したトウガラシを使った「とうがらし」味が一番人気。

大阪千林のりや 豊崎店
住所:大阪府大阪市北区豊崎4-2-16
TEL:090-9872-5199
営業時間:10時30分〜19時
定休日:月〜木、土、日(金のみ営業) 

④解放感たっぷりの大衆酒場は、大阪らしさあふれる賑わい

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左:手前から時計回りに、人気定番料理の厚切ベーコン¥638、とりせせり塩焼¥462、大瓶ビール¥550、自家製のポテトサラダ¥360 右:洗濯物を干すピンチハンガーに乾きもののおつまみの小袋が吊るされていたりと演出が心憎い。

「壁面を埋め尽くすメニューが圧巻。耳なし芳一を彷彿させる大衆酒場です」(江部)。店内には提灯が連なり、手書きメニューが隙間なく並ぶ。「書き換えたらバレるから値上げできへんねん」と笑う大将は、長年天神祭に携わり、お祭りの雰囲気や飾りつけが好きだという。オープン当初から変わらないビニールテントスタイルで、ビールケースを使ったテーブルや椅子、店の外に向かって流れ続ける矢沢永吉のライブ映像が、非日常の気分を盛り上げる。

大阪はなび
住所:大阪府大阪市北区中津1-18-7
TEL:06-6376-4648
営業時間:17時〜23時頃
不定休

⑤すべての食材にこだわり、洗練を遂げたスープと麺

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左:流れる麺をイメージした土壁は日本有数の左官職人が手掛けた。 右:特製蔵出し醤油そば¥1650。イベリコ豚や薩摩茶美豚、ほろほろ鳥などを使った特製チャーシューがのった豪華版。

「白木のカウンター、スタッフも白衣を纏い、和食店にも見えるけど実はラーメン店」(江部)。ラーメンのために生み出したオリジナルの地鶏「麺助鶏」と比内地鶏、ほろほろ鳥を使ったスープはうまみが濃く、上質な油がコクを生み、深い余韻を楽しめる。醤油は生醤油など7種をブレンド。麺もこだわりの自家製麺で、北海道産の小麦「スーパーはるゆたか」を使用。なめらかなのど越しと気持ちのいい噛み応え、そして麦の香りが濃厚なスープとマッチする。

麦と麺助
住所:大阪府大阪市北区豊崎3-4-12
営業時間:11時〜15時30分
定休日:火
X:@mugitomensuke

⑥古き良き時代の価値を、蘇らせるフィルム映画館

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上:劇場内のシートは海外の映画館などで使われたアンティークもの。一つひとつ座り心地や手触りが異なる。1カ月に上映するのは25作品ほどで、字幕もオリジナルでつく。 左下:16mm映写機をはじめ35mmや8mmの映写機も揃える。 右下:ビルの2階に光る「CINEMA」のネオンサインが目印。左端にある小さな扉が入り口だ。

「フィルム上映の名画座。25席の奇跡のような映画館」(江部)。映画プロデューサーで黒沢清監督『地獄の警備員』の脚本なども手掛けた富岡邦彦が、1970年代から貴重な映画資料の収集や上映を行っていた「プラネット映画資料図書館」の休業を知り、映画誕生100周年の1995年に「プラネットプラスワン」としてオープン。リュミエール兄弟からハリウッド黄金期まで、アメリカやヨーロッパの映画を中心に、フィルム作品にこだわり上映している。日本未公開作品や海外で入手したフィルムも多いため、富岡が翻訳も行う。

プラネットプラスワン
住所:大阪府大阪市北区中崎2-3-12 パイロットビル2F
TEL:06-6377-0023 
※営業時間は上映内容による
定休日:火、木
https://planetplusone.studio.site

⑦コーヒーと本の香りが包む、才能を育み続ける場所

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上:気鋭の若手作家から巨匠まで幅広い展示が行われる。 右下:中崎町のパン屋「ブルンネン」のパンを卵液につけてひと晩寝かせた、名物のフレンチトースト¥480、コーヒー¥420。カフェ代金の5%を展示中の作家に還元する取り組みも行っている。 左下:本は自由に手に取り、カフェで読むこともできる。

「店主の目利きによる展示と個性的な書棚に並ぶ本も楽しく、カフェでも寛げます」(江部)。デザイン学校で講師を務める鯵坂兼充が、教え子たちが卒業後に作品を発表する場を大阪につくろうと、ギャラリーを主体としたこの店を開いたのは2003年のこと。現在は週3日オープンし、ジャンルにこだわらず月に1回のペースで展覧会を催す。教え子にはイラストレーターの間芝勇輔らがおり、ミロコマチコの公の場でのはじめての個展もここで開かれた。アーティストの作品集など、新刊や古書問わずセレクトされた本も必見。

コーヒーブックス ギャラリー イトヘン
住所:大阪府大阪市北区本庄西2-14-18 富士ビル1F
営業時間:11時〜18時
定休日:火〜金、不定休
http://itohen.info

⑧路地裏に佇む隠れ家で、心地よいひと時に酔いしれる 

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左:南アフリカ産の木材アンジェリンを使った、一枚板のカウンターが美しい。 右:手前は半熟にこだわったたまご(¥200)などのおでん。奥はおでん出汁で炊いたつくねを使った鶏ミンチと舞茸のクリームソース¥1,000

「路地裏の古民家。1階が日本酒とおでんとパスタ、2階が洋服屋という異色の組み合わせ」(江部)。ポルチーニ茸からとった出汁で炊くユニークなおでんとパスタ、そして日本酒のアテになる一品料理を楽しめる。おでん出汁を使ったカルボナーラや、出汁をとったポルチーニ茸をミンチに混ぜたボロネーゼなど、独自のマリアージュが光る。淡く照らされた趣ある店内は、2階に併設された洋服屋「クラン2F」の店主が空間デザインを手掛けた。

おでんとお酒トウスイ
住所:大阪府大阪市北区本庄西1-9-4
TEL:070-1373-0194
営業時間:17時〜24時
不定休
Instagram:@tosui_honjo

⑨ジェノバ育ちのシェフによる、イタリアの郷土の味 

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左:店名は、ジェノバの名所・ランテルナ灯台由来。 右:パスタジェノベーゼ¥1,850、塩たらとジャガイモのピューレを、筒状の生地に詰めた「リグーリア風バッカラマンテカート“ブランダクユン”を詰めたカンノーリ」¥1,500、リグーリア産ワイン「La Bianca」¥5,900

「たぶん日本で唯一のイタリア・リグーリア州の郷土料理を堪能できるイタリアンレストラン」(江部)。日本文化を愛するボッフェッリ・シルビアが、イタリアなどで培った経験を活かして腕を振るう。故郷・リグーリア州、なかでも地元ジェノバの料理をベースに、独自にアレンジしたイタリアンを提供する。特に「パスタ ジェノベーゼ」はバジリコだけでなく、ジャガイモやいんげん豆、そして松の実をたっぷり使ったペーストで、濃厚な味わい。厳選されたイタリアワインも充実。

ラ・ランテルナ・ディ・ジェノバ
住所:大阪府大阪市北区中崎3-2-8
TEL:06-6371-0606
営業時間:17時30分〜22時30分(火〜日) 12時〜15時30分(土、日、祝、前日までに要予約)
定休日:月
http://lalanterna.web.fc2.com

⑩カリッとした食感から広がる、鰹出汁が効いた優しい味

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上:独自の配合のソースは、甘みがありながらもさらりとして、たこ焼き本来の味を引き立たせる。たこ焼き(8個)¥420 下:絶えず生地を動かし焼くことでまんべんなく火が入り、美しいキツネ色になる。

「大阪を代表するたこ焼きの一軒。ソースなしで、出汁の味だけで十分に満足!」(江部)。1953年の創業当時からあるブリキの看板が、ひと際目を引く老舗たこ焼き屋。昔ながらの味は決して変えないと、家族で代々受け継いだつくり方を守り抜いている。肝になるのは、鰹出汁をベースにした生地の、小麦や卵、醤油などの調合バランス。店の外で焼くため外気の影響を受けやすく、気温によっても分量を変えるほどのこだわりだ。特注の銅板で一度に最大150個を焼き上げる。

うまい屋
住所:大阪府大阪市北区浪花町4-21
TEL:06-6373-2929
営業時間:11時30分〜19時
定休日:火(祝日の場合は営業)

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案内人:江部拓弥

『あまから手帖』編集長。新潟県生まれ。2008年から『dancyu』に関わり、12年から編集長を務める。『dancyuWEB』の立ち上げなども手掛ける。22年に現職に就任。阪神タイガースを愛して49年。
www.amakaratecho.jp

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『大阪 再発見』
Pen 2025年4月号 ¥880(税込)
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