すべてが豪快! これが12気筒の新型フェラーリ「12チリンドリ・スパイダー」だ

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Ferrari SpA
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フェラーリが2024年5月に発表した「12(ドディチ)チリンドリ・スパイダー」に、25年2月、ポルトガルで試乗した。カーペンターズ『ナウ&ゼン』のジャケットにも登場した1960年代の名車「デイトナ」の雰囲気を漂わせつつ、未来的な要素を入れ込んだとデザイナーが語る、デザインが強く目を惹かれるスポーツカーだ。

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フロントエンジンと後輪駆動という正統的なメカニカルレイアウトを継承。

「12チリンドリ・スパイダー」の車名の由来は、英語だと12シリンダー、つまり12気筒エンジン搭載のオープンスポーツカー。実に単純ながら印象的なネーミングだ。

デザインは、ロングノーズでショートテールで大径ロードホイールを履き、乗員は後輪の上に座るようなプロポーションが特徴。これは1950年代から続く大排気量エンジンの2人乗りスポーツカーの定石とも言える。フェラーリのデザイナーは、そこをあえて強調してきた。

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一見シンプルだが、凝った細部の造型美が特徴。
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キャビン背後のフライングバットレスはフェラーリのオープンモデルの常道的デザイン。

もちろん、そこかしこに凝った技術が入っている。「二枚貝」を意味する英語から「クラムシェル型」と呼ばれるボンネットは、まさにそれのように両端がフロントウイング(フェンダー)を抱えるような造型。

「アルミニウムで強度を出しながらここまで立体的な造型を実現するのはかなり大変でした」と、フェラーリの技術者は説明する。

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ボディ後端の黒い部分がスポイラー。

もうひとつの凝った技術は、リアスポイラーだ。格納式ハードトップのため、トランクの開口部を大きくとらなくてはならない。そこで通常は1枚のリアスポイラーを、このクルマでは左右に2枚に分割した。

一見、スポイラーに見えない三角形で、これが時速60kmから300kmの範囲で起き上がる。車体を風の力で下に押しつけ浮き上がりを防ぎ、高い速度での安定した走行を可能にするのだ。

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ハードトップを上げるとクーペにしか見えない。
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ウインドシールドが乗員の頭上にまでさしかかる長さで風の巻き込みを防いでいる。

ハードトップを開けた状態が美しいのも、フェラーリのスパイダーモデルの特徴で「12チリンドリ」も例外でない。当初からクーペとスパイダーを同時に開発していただけあって、造型的に破綻がない。

2名の乗員の背後には聖堂の建築用語を使って「フライングバットレス」と呼ばれる三角形の構造物がひとつずつ備わる。乗員保護と空気の整流がおもな働きだが、「12チリンドリ」の場合、ルーフを締めるとほとんどクーペと見分けがつかなくなる。デザイン上の役割も大きいのだ。

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周囲のクルマが止まって見えるような、圧倒的加速感

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V12はフェラーリ伝統の「テスタロッサ」(赤色のカムカバーと吸気ダクト)で美しい。

6,496ccV型12エンジンは、ターボ化されているエンジンはほぼ皆無という今日にあって希少な1基。最高出力の610kW(830CV)は9,250rpmで発生する設定で、アクセルペダルを踏み込んで回転を上げていく際の、いってみれば息の長い加速感は絶妙で、本当に興奮させられる。

なんだかんだいって電動車へと向かいつつある業界の流れのなかでフェラーリもプラグインハイブリッド車を手掛けているが、12気筒エンジンの開発を続けていて(可能な限りつくり続けるとのこと)今回の12気筒も、F1由来の技術などを盛り込んで高性能化と高効率化を追求している。

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シートのタイプや表皮や色をはじめ、ほとんどの部分が注文時にオーダーで決めていく。

ドライブの印象は、12気筒の扱いやすさに感心。ごく低回転域から太いトルクが出て、乗り心地も快適。アクセルペダルを踏み込んでいくと、どこまで加速するのか? と驚くほど、速度計の針が速いスピードで回っていく。

車体の剛性感が高く、キャビン背後に風の巻き込みを防ぐウインドデフレクターが効果的で、運転席にいると外気(そこでは潮の香り)や太陽の暖かさという、オープンドライビングのよいところだけを味わえる。

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運転席と助手席を別々の”まゆ”で囲むようなコクーンコンセプトが採用されている。

フェラーリ車の常として、ステアリングホイールにドライブモードセレクターが備わっているので、走行中に好みでクルマのキャラクターを切り替えられる。一般のクルマで「コンフォート」(いわばデフォルト)に当たるのが、フェラーリでは「スポーツ」である。それはこのクルマでも同様だ。

一般道ではこれで充分。今回は、一般道はどこも幅員が狭く、交通量もそれなりにあったので、よりスポーティな「レース」モードを選べたのは自動車専用道だけ。極端に言えば、周囲のクルマが止まって見えるような加速感だった。

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エンジン音と排気音は耳に心地よいが、昨今の騒音規制に従い音量は絞られている。

乗り心地はもちろん快適。フェラーリは伝統的に、F1マシン、レースにも出られるミドシップのスポーツモデル、そして「12チリンドリ」のようなGTと、スポーツカーのバリエーションを手掛けてきただけあって、遠くまで快適にドライブできると思う。私の場合は、リスボン周辺のさまざまな道を250km程度しか走らなかったが、もっと長い距離を走ってみたいと、純粋に、そして強く思った。

フェラーリ 12チリンドリ・スパイダー

全長×全幅×全高:4,733×2,176×1,292mm
ホイールベース:2,700mm
6,496cc  V型12気筒(NA) 後輪駆動
最高出力:610kW@9,250rpm
最大トルク:678Nm@7,250rpm
乗車定員:2名
燃費:15.9L@100km(WLTP)
価格:¥62,410,000〜
問い合わせ/フェラーリ
www.ferrari.com/ja-JP