連載【複雑時計解体新書】Vol.01
ルイ・ヴィトン「タンブール タイコ スピン・タイム エアー フライング トゥールビヨン」
腕時計は時を知るためだけの道具ではない──。機械式時計の醍醐味とも言えるのが、各ブランドの技術力と叡智を結集させた複雑機構(コンプリケーション)だ。さまざまな超絶技巧に目を奪われる一方で、腕時計のメカニズムは正直よくワカラナイ……。そんな複雑機構の疑問を、話題の新作とともに、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)の会員でもある時計ジャーナリストの並木浩一が紐解く。
世界で最も有名なブランドのひとつであるルイ・ヴィトン。ファッション業界においてその人気と影響力は言わずもがなであるが、近年はウォッチメーカーとしての成功も著しく、複雑時計のつくり手としても独特の立ち位置にある。メゾンを象徴する複雑機構「スピン・タイム」に、驚きのセントラル・トゥールビヨンを組み合わせた新作が登場した。

数世紀におよぶ時計史上で、ルイ・ヴィトンだけが製造する独自機構
「スピン・タイム」は、世界でルイ・ヴィトンだけが製造するコンプリケーション(複雑機構)だ。開発されたのは2009年、複雑時計アトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン」の2名の天才、ミシェル・ナバスと エンリコ・バルバシーニが、ルイ・ヴィトンのために創造した。恐るべきクリエーションでルイ・ヴィトンのウォッチメイキングに不動の名声をもたらした両名はその2年後、アトリエとともにルイ・ヴィトンへの統合を受け入れ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」が誕生。ルイ・ヴィトンのコンプリケーテッド・ウォッチへの傾倒ぶりは加速して止まることを知らず、現在に至っている。
2014年にジュネーブ郊外メイラン地区にマニュファクチュールを創設し、ダイヤルやケース、複雑ムーブメントの製造、メティエダールまでを手がける最高級時計ブランドとしてのルイ・ヴィトンの原点が「スピン・タイム」なのである。
いまさらであるが、「スピン・タイム」の複雑機構を簡単に描写しておこう。この機構は時針を持つことがなく、その代わりに独立した12個のキューブが4分の1回転することでアワーを表示する。毎正時には表示や色の異なるひとつのキューブが現在時を告げ、それまでのアワーが他と同じ表示に一瞬で戻る。ジャンピングアワーと呼ばれる瞬転表示を、ディスク式ではなく3次元で行うという完全なる独創は、他に例を見ない。
発想の原点は、空港や駅のインフォメーションボードで、電光掲示板より以前に主流であったフラップ表示である。コンプリケーションの多くは懐中時計の時代に完成された技術だが、「スピン・タイム」は21世紀に誕生した、奇跡の超絶機構なのである。


今年は「スピン・タイム」が、次のステージを示す重要な節目になることが確定した。発表されたのはまったく新しいウォッチコレクション「タンブール タイコ スピン・タイム」である。ルイ・ヴィトンの複雑機構への取り組みが継続しており、次世代に向けてさらに先鋭化していることを示す、6つのモデル。その中でも特筆すべき一本が、「タンブール タイコ スピン・タイム エアー フライング トゥールビヨン」である。
この時計の凄まじさは、そもそも誰も真似のできない複雑機構である「スピン・タイム」に、もうひとつの複雑機構を重ねたことである。トゥールビヨンは伝統的なコンプリケーションではあるが、普通のアナログ式とはまったく異なる、3次元的に空間上にキューブを浮かせるフローティング表示にインストールすることは、想像を絶する挑戦である。ダイナミックな表示にスペースを与えたケース内の容積は残りが少ない。その厳しい制約下でトゥールビヨン機構をどう配置するのか。
結果は目覚ましいものとなった。文字盤の中央にセントラル・トゥールビヨンとして構え、しかもフライングトゥールビヨンという「エアー トゥールビヨン」は、無上の困難を華麗に克服した唯一解である。
トゥールビヨンケージは、それがルイ・ヴィトンであることを雄弁するモノグラム・フラワーのかたちを採っている。その華麗な姿を全方位から鑑賞できるように、裏側の下部プレートは鏡のような美しく磨き上げられている。

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ルイ・ヴィトンの美意識が貫く、自社製ムーブメントとケース形状

「タンブール タイコ スピン・タイム」コレクションの全モデルは、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」でこのコレクションのために開発・製造された自社製ムーブメントを搭載している。出自はルイ・ヴィトンであると同時にジュネーブであり、マニュファクチュールがつくったものであるというオーラを重ねるもので、昨年の「タンブール」に搭載した自社キャリバー「LFT023」の美的コードを踏襲し、そのスタイルを共有する。
18Kピンクゴールド製のローターのリズレ(縁飾り)では、「V」のモチーフを繰り返し刻印する。その下のブリッジ表面はマイクロサンドブラスト加工され、各パーツにはポリッシュ仕上げのエッジとペルラージュが施されて隙がない。受け石はルビーの赤味ではなく、無色透明のストーンを配した。秀でているのは美意識だけではなく、自動巻きで45時間のパワーリザーブを有する機能性も備えている点だ。安定した8振動のスペックは洗練された技術の証しである。
「スピン・タイム」の特徴とも言えるキューブだが、実はそのキューブ自体にも手直しが行われている。従来の「スピン・タイム」の直線的な立方体に対し、「タンブール タイコ スピン・タイム」のキューブは、緩やかにカーブした4つの面から構成される、クッションのような形状に変わった。ささやかなこのアップデートは、入射する光をよりデリケートで多彩なフレアに変化させる。

新作モデルのケースは、従来のフォルムのアウトラインを尊重しつつ、ケースバックへと続く断面に変曲点を組み入れた新デザインを採用している。そして自社で培ってきた技術を惜しみなくこのケースの製作に注ぎ込んでいる姿勢がよく見て取れる。ミドルケース側面にはサテン艶消し加工が施された一方で、ベゼルにはサンドブラスト加工を施した溝内にポリッシュ仕上げのレリーフ文字で「LOUIS VUITTON」を綴る。単なる表面加工ではなく、意味作用を込めた立体的な造形の特別なケースには、日本の祭礼で使用される“和太鼓”にちなんだネーミングがなされた。
ラグにも、特に強いこだわりを見せる。ふたつの要素から構成されたラグをケースにネジで固定する方式のため、完璧を期して髪の毛の太さに等しい 0.1 ㎜の許容差で機械加工されたという。外側の表面には鏡面仕上げ、 窪みにはきめ細かい艶消し加工が施されている。鏡面はダイヤモンドペーストを塗布したブナ材の研磨ホイールで手仕上げの磨きを行い、窪みの艶消しにはレーザーを用いるなど、それぞれ最良の結果を得るための技術が選択されている。

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トゥールビヨンの他にも、個性と複雑を華麗に競う全6モデル

今回登場した「タンブール タイコ スピン・タイム」は、先述したフライングトゥールビヨン搭載モデルの他に、5つの新型を用意する。まず、39.5㎜ケースのベーシックな「タンブール タイコ スピン・タイム」と、そこに合計4.3ctのバゲットカットダイヤモンドがセットされた「タンブール タイコ スピン・タイム ダイヤモンド」。ともにクローズドなケースバック仕様で100m防水である。
一方、スケルトンケースバックを採用した50m防水の42.5㎜ケースでは「タンブール タイコ スピン・タイム エアー」 と、合計1000石以上のダイヤモンドをスノーセッティングで配した「タンブール タイコ スピン・タイム エアー ダイヤモンド」を揃えている。さらにもう1モデル、ワールドタイマーを組み合わせた「タンブール タイコ スピン・タイム エアー アンティポード」がラインアップされた。


右:タンブール タイコ スピン・タイム ダイヤモンド/ダイヤルのインデックスのほか、ケース側面やラグなどに合計4.3ctのバゲットカットダイヤモンドを惜しみなくセットした。自動巻き、18KWGケース、ケース径39.5㎜、パワーリザーブ約45時間、ラバーストラップ、100m防水、数量限定。¥23,430,000


右:タンブール タイコ スピン・タイム エアー ダイヤモンド/ダイヤルに118石(合計0.26カラット)、ケースに909石(合計2.92カラット)のダイヤモンドがセットされたジュエリー仕様。自動巻き、18KWGケース、ケース径42.5㎜、パワーリザーブ約45時間、カーフストラップ、50m防水、数量限定。¥23,430,000


並木浩一(桐蔭横浜大学教授/時計ジャーナリスト)
1961年、神奈川県生まれ。1990年代より、バーゼルワールドやジュネーブサロンをはじめ、国内外で時計の取材を続ける。雑誌編集長や編集委員など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。ギャラクシー賞選奨委員、GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『ロレックスが買えない。』など多数。
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