ハリウッド屈指の高額ギャラを誇ったジム・キャリー、引退を口にした理由とその胸中とは?

  • 文:中川真知子
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ジム・キャリー(2017年撮影/ShutterStock)

ハリウッドで2000万ドル(約30億円)のギャラを叩き出した初の俳優として、永遠にその名を語られることとなった伝説のコメディ俳優、ジム・キャリー。

2022年の『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』で引退宣言したときには、一時代の終焉が訪れたようで寂しさを覚えていたが、『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』でカムバック。理由は「お金のため」らしいが、彼の映画で育った世代の筆者にとって、再び元気な姿を見られて嬉しい限りだ。

それにしても、ジム・キャリーはなぜ引退しようと考えたのだろう。「引退ではなく休眠」と語ったキャリーの心を探るべく、これまでのキャリアを振り返ってみたいと思う。

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売れないモノマネ芸人がハリウッド屈指のコメディアンに

カナダ出身のジム・キャリーは、裕福な家庭に育ったとは言えない。4人兄弟の末っ子で、会計士の父親が失業した後は、家族でトレーラーハウスに住んでいた。病気の母親を笑わせたくて、リビングでは常にジョークや変顔を連発していたという。ひとりでいるときは鏡の前に立ち、さまざまな表情をつくりながら声色を変えてモノマネの練習をしていた。

そんな彼に、父親はコメディの才能を見出し、ジム本人もコメディアンになるのを夢見るようになった。だが実際にステージに立っても、彼の得意とするモノマネは認められず悔しい思いも経験したそうだ。

Instagram - @jimcarreyhere

しかし全身を使ったモノマネ芸は徐々に評価され始め、さらなる成功を夢見てハリウッドを目指すことに。当時は必ず成功すると信じて、ハリウッドヒルまで車を走らせ、眼下に広がる夜景をみながら鋭気を養う日々を送っていたそうだ。

そして、10年後の自分に向けて「映画の出演料」と記して1000万ドルの小切手を切って財布に入れた。そして10年後に『ジム・キャリーはMr.ダマー』で見事1000万ドルのオファーを手に入れたのだ(700万ドルという説もあるが、本人が1000万ドルと語っている)。具体的かつ大きな目標を掲げて自らを鼓舞した“1000万ドル小切手”のエピソードは、成功への道標として経済誌やビジネス誌でも繰り返し取り上げられるほど有名なエピソードだ。

端役から始まり、ハリウッドでも少しずつ認知度を上げ始めたジム・キャリー。ブレイクのきっかけはペット探偵を演じた映画『エース・ベンチュラ』(1994年)だ。体当たり演技が観客の笑いを誘って大ヒットし、一躍スターの仲間入りを果たした。

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高額ギャラのコメディアンからドラマ俳優として

『エース・ベンチュラ』と同じ年に公開された『マスク』では、マスクをつけると人格だけでなく行動も大胆でコミカルになるキャラクターを演じて再び大ヒット。ジム・キャリーの名を世界中に広めた。

この頃の彼の快進撃はギャラから窺い知れる。ざっと箇条書きにしてみた。

『エース・ベンチュラ』(94年)45万ドル
『マスク』(94年)54万ドル
『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94年)1000万ドル
『ケーブルガイ』(96年)2000万ドル
『ライアー ライアー』(97年)2000万ドル

特筆すべきは『ケーブルガイ』の2000万ドルだろう。飛ぶ鳥を落とす勢いだったジム・キャリーだが、変顔を得意とする癖の強さがイメージの固定化につながり出演作の幅を狭めていた頃に、イメージ脱却を図り悪役に挑戦。『バットマン フォーエヴァー』(95年)で演じたリドラーは一線を画した不気味さを全面的に押し出し、新境地開拓を図ったのだ。そして、同作の出演料でハリウッド初の2000万ドルという歴史的高額ギャラを叩き出している。

THE CABLE GUY (1996) – Official Trailer

だが残念ながら、本作は厳しい評価を受け、「コメディ専門でいくべき」といった言葉が紙面を飾った。その後の『ライアー ライアー』では、コメディでありながらも家族思いの人柄をのぞかせる演技で新境地開拓への布石を打った。

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次作の『トゥルーマン・ショー』(98年)は、巨大な映画セットの中で暮らす男性を24時間生放送するリアリティ番組を描いた風刺作品。自分の生活がすべてメディアによってつくられた刷り込みとプロパガンダによって左右される中で、幾つものきっかけの重なりによって外界の存在を知る男性を好演し、コメディを得意とする演技派俳優として不動の人気を誇るロビン・ウィリアムズと肩を並べて表されるようになった。

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内面の語りと、「やりきった」という発言まで

『トゥルーマン・ショー』の頃から、ジム・キャリーはインタビューやトークショーで胸の内を語るようになった。プライバシーの侵害とも取れる報道の数々に対する不満や、自分に対する誤解がさも真実かのように報道されることに対する困惑、常に感じている絶望など。

近年では、「コメディアンの多くがつらい過去を持っている」と話し、「映画の役を演じるように、ジム・キャリーという俳優を演じているだけ」「誰も本当の自分を知らず、当の自分はコントロールを失いつつある」といった本音も明かしている。

その発言がどういったことを意味しているのかは、Netflixで配信されている『ジム&アンディ』(2017年)という『マン・オン・ザ・ムーン』(99年)のメイキング映画で窺い知れるだろう。アンディ・カウフマンという70〜80年代に活躍したアメリカのエンターテイナーの人生を描いた伝記映画の舞台裏映像だが、完全に役になりきったジム・キャリーがカメラの外でも奇想天外で予測不可能なカウフマンよろしく振る舞っている。


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この時はカウフマンが憑依しているように見えるが、ジム・キャリーは憑依型俳優と異なる。というのも必ずしもなりきって演じているのではなく、他の役柄は彼の心理状態に合わせて選ばれているからだ。事実、「過去の出演作を見れば自分がどんな心理状態だったのか克明に思い出せる」と話している。キャリアの分岐点のひとつでもある『エターナル・サンシャイン』(04年)の撮影前は精神的にバランスを崩し、監督のミシェル・ゴンドリーに、その破滅的な姿を評価されていたのだと振り返っている。

その後もさまざまな作品に出演し、観客を笑わせ、泣かせ、考えさせてきた。そして、自分自身と向き合い続けたジムは2022年、SEGAの大ヒットゲームを原作とした『ソニック・ザ・ムービー』の続編『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』で「やりきった」と俳優キャリアに終止符を打つ旨の発言をした。

そのときの彼は、もう自分の痛みや人生を切り売りできないとでも言いた気だった。実際、次回作などの話もなく、事実上の引退宣言と受け取ることができた。

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『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』で天才マッドサイエンティストのドクター・ロボトニック役で早々にカムバックしたが、その理由を「お金がなくなった」「天才を演じるのが好き」「引退ではなく休眠」と語る。金銭問題についてはその後、撤回しているが、肝心の発言を煙に巻いたり、あえてギリギリの発言をして場の空気を凍らせたりするのはいまに始まったことではない。

なんにせよ、俳優ジム・キャリーがこれからも銀幕に出続けるのは、80〜90年代の映画で育った筆者にとって喜ばしいことであり、これからも生き様やリアルをぶつけた演技を見せてほしいのだ。 

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ジム・キャリーの作品

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THE CABLE GUY (1996) – Official Trailer

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