近年人気が高いニュージーランドワイン。その中でも覚えておきたいのが「リッポン ワイナリー&ヴィンヤーズ」だ。ニュージーランドで最高評価を受けるワイナリーのひとつで、特にピノ・ノワールは果実の凝縮感と繊細さを併せ持つ素晴らしい味わい。当主のニック・ミルズがブルゴーニュの「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」で修業したことから“ニュージーランドのDRC”とも呼ばれる。南島南部のセントラル・オタゴに位置し、世界最南端のピノ・ノワールの産地であるリッポンは、この地を世に知らしめた立役者でもある。今年2月に来日したニックが、その美しき味の秘密を語ってくれた。
「ブドウには適さない」と言われていた土地が、世界有数のピノ・ノワール栽培地に
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ワイナリーの始まりは1912年。ミルズの曽祖父がこの地に土地を購入し、穀物や果実などを栽培していた。本格的にワインづくりに着手したのは、ミルズの父であるロルフ。70年代初頭、実験的に20から30品種のブドウをセントラル・オタゴに植樹した。当時、この地は政府から「ブドウ栽培には適さない」と言われていた土地だったが、ロルフは諦めず、気候やブドウの生育状況のデータを熱心に集めていた。
ミルズによれば、当時の父の姿は、近隣の人々から心配されるほどだったそうで、「不毛の地でブドウを育てる父の姿が奇異に映ったのでしょう。でも、結果として父は正しかった。父はすごいな、と心から思います」と回顧する。その努力はほどなくして実った。ピノ・ノワールの92年ヴィンテージが初めてのトロフィーを受賞。セントラル・オタゴで素晴らしいピノ・ノワールが生まれることを証明したのだった。
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透明感のある味わいと、芳醇なコクが共存する
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その後、ミルズが家業を継いだのは2002年のこと。それまで彼はニュージーランドのナショナル・スキーチームの一員で、長野オリンピックへの出場も期待されていたが、怪我で断念。ワインづくりという新たな道へと進んだ。
「当時は、大変なショックで、立ち直るにも時間を要しました。ですが、この景色の中で過ごしているうちに、私の中にあるこの土地への愛情に気づいた。ここには父が育てた素晴らしいピノ・ノワールがある。それならと、ブルゴーニュでワインづくりを学ぶことを決心したのです」
彼は、「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」「メゾン・ニコラ・ポテル」といった錚々たるつくり手のところで腕を磨いた。そしてニュージーランドに戻ってからは、本格的なビオディナミ農法に着手する。ビオディナミ農法とは有機栽培農法のひとつで、ブドウ畑をひとつの生命体として捉え、太陰暦や天体の運行に従って農作業を行うことだ。
「私が学んだブルゴーニュのドメーヌでは、ビオディナミ農法は“普通のこと”でした。ですから、セントラル・オタゴでビオディナミを行うことも、私にとっては当然のことでした。なにより、愛するこの地を自然のまま保持したいという気持ちがありました。虫や鳥など、ここで生きる様々な生物だけでなく、森も命を持っている。ここでは、それを大切にしたいと思いました」
その言葉通り、フラッグシップである「“リッポン” マチュア ヴァイン ピノ・ノワール 2021」からは、ナチュラルで透明感のある味わいが感じられる。興味深いのは、同時に芳醇なコクも感じられること。聞けば、全房醸造(ブドウを梗を含んだ房ごと醸造すること)の比率は30〜35%ほどだという。
「区画ごとに醸造し、梗が食べられるほど熟したものだけ全房で仕込んでいます。あとで、バランスを取るために果実だけで仕込んだワインとブレンドしています」
こうすることで、奥深く複雑で、かつ洗練された”リッポンらしい味”になるのだ。
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飲む人の心をクリアにする、唯一無二のワイン
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そしていま、彼が心掛けているのは”常にブドウを観察する”こと。ミルズは言う。
「幼い頃、私はいつも父の後を追ってブドウ畑で遊んでいました。父は畑ではいつも樹の形がしっかりしているもの、房がきれいに実っているものを注意深く観察し、その苗を選別して適した区画に植え替えました。こうすることで、果実がより成熟するのです。観察することは父の影響ですね」
セントラル・オタゴの自然の美しさがボトルに詰められたワインは、飲む人の心までもクリアにしてくれそうなパワーを感じる。この唯一無二のワインは、ぜひ覚えておきたい。
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