キミはまるで両性具有のアンドロギュノス !?アルピナの現体制で最後の年に思ったこと 【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第216回

  • 写真&文:青木雄介
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創業者の息子であるアンドレアスが開発の指揮をとった「アルピナ B3リムジン」。

アルピナは2025年12月をもって、60年にわたる独立資本メーカーとしての歴史を終え、BMWにブランドの商標権を譲渡する。創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペンのもとBMWをベースに独自モデルを生産し、年間約1700台のうち300台超が日本で販売されてきた。BMWが手掛けるブランドとしてこれからどう変わっていくかはわからないけれど、日本はこれだけハイコンテクストなクルマを、年間300台も割り当てられてきたことを誇っていい。

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ディスプレイにアルピナを象徴するグリーンがスピードメーターと回転計に取り入れられている。

そんなわけで「B3 リムジン」に乗ってみた。速くしなやかで快適なクルマ、という相反するクルマの特徴を、高次元でバランスするところにアルピナの魅力はある。ブルカルトの息子であるアンドレアスが仕上げた現行モデルはね、やっぱり最高ですよ(笑)。3年ぶりに乗ってみると、速さと快適さのバランスどころの話ではなかった。どちらも快楽的な極点として両立するクルマに成りえてる。ギリシャ神話でいえば両性を兼ね備えたアンドロギュノス。心理学者ジューン・シンガーの両性具有の概念に沿えば、速さの中に快適性があり、快適性の中に速さがあるって感じかな。

それを象徴するのは足まわりだね。アイバッハ社製のスプリングとスタビライザーを備え、アダプティブダンパーはアルピナによって再プログラムされている。標準の19インチホイールには、専用に開発された特注のピレリPゼロタイヤを装着。路面からの振動や突き上げをいなし、ワインディングでもステアリングをフラットに保ちつつ驚くほど自然でクイックな動作感を見せる。

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エンジンはS58をベースにしていて、アルピナがM部門のエンジンに採用するのは初。

フレームの剛性やスプリングの圧縮率やリバウンド率を熟知していて、ロールは出さずに重さも感じさせない。とはいえ、その車体は持ち歩ける文鎮のような適切な重さをともなって路面入力を抑えてもいる。この繊細な感覚と背後に個人が見える調律が素晴らしいを通り越して、エグいのね(笑)

そんなアルピナらしさを体験するなら、峠でDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)をオフにして、再びオンにしてみよう。上質なスムーズさがフレームという筆からしみ出るように、車体というキャンバスをアルピナの色に染め上げる。エッジを立たせることなく繊細なペダルワークで車体を制御することができて、制御することでさえアドレナリンが湧いてくる。

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アルピナの顔といえるロゴ入りのフロントエアスポイラー。

2500回転付近から軽快にターボが回り、低速から中速でのトルクを補う。このターボはアルピナ専用品で、「B3」における肝ともいえるトルクフルな走りを託されている。軽快な街中の走りから直列6気筒の見せ所である高回転ゾーンまでをしっかりカバーするためにあって、まるでスポットライトによって解放される時を待ちわびているって感じ。「さぁ、踏んでみて」ってね(笑)

ペダルを踏むという行為に、フェティッシュで陶然とする世界観があった。魅了されると、むしろアルピナこそがBMWの本質なのではないかという気にもさせられ、吸収に納得しないでもない。なにか失うものがあるとすれば、規模を対価にした繊細さかもしれない、と思ったね。

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オリジナルのドライブモード、コンフォートプラスでもスポーツ走行が可能。

BMW アルピナ B3 リムジン

全長×全幅×全高:4,723×1,825×1,440㎜
排気量:2,993cc
エンジン:直列6気筒ビ・ターボ
最高出力:495PS /5,000-7,000rpm
最大トルク:730Nm/2,500-3,500rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
参考車両価格:¥14,300,000
問い合わせ先/ALPINA CALL
TEL:0120-866-250
alpina.co.jp

※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。