今月のおすすめ映画①『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
最期(さいご)の時を隣で過ごす、生と死を巡る本質の光景
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スペインを代表する巨匠にして異能の映画作家、ペドロ・アルモドバル監督。ベネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いた彼の最新作は、アメリカが舞台の物語で長編としては初の英語作品となる。主演はティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーア。ともに1960年生まれのふたりの名優と組んで、“メメント・モリ”――「死」に思いを馳せる濃厚なドラマが展開する。
原作はシーグリッド・ヌーネスの小説。かつて戦場ジャーナリストだったマーサ(スウィントン)は末期ガンと診断される。延命するだけの治療を拒み、安楽死を望む彼女は、旧友である小説家のイングリッド(ムーア)に“ある依頼”をする。それは森の中の家で一緒に過ごし、自分が最期を迎える時、隣の部屋に居て欲しいということ。
尊厳死の問題はフランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』や早川千絵監督の『PLAN75』など、映画でも扱われることが増えてきた。ただしアルモドバルが目を向けるのは、ドアという境界を隔てた生と死を巡る本質の光景だ。我々は映画を観ながら、終活のエンディングノートを超えてこの世の淵に立ち、人生とはなにかを顧みる。これ以上ないほどの深みの境地だろう。
カラフルな画面構成の中、完璧なスタイリングの衣服に身を包んだ大人たち。ジェイムズ・ジョイス原作の映画、『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』に美しいオマージュを捧げつつ、本作は人間同士の情愛や魂の交歓の素晴らしさを謳う。
これは「死」の向こう側を見つめようとする希望の歌だ。75歳のアルモドバルは自伝的な『ペイン・アンド・グローリー』や歴史の痛みに踏み込んだ『パラレル・マザーズ』から、また自身の集大成を更新した。圧巻の大傑作と言うほかない。
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©El Deseo. Photo by Iglesias Más.
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
監督・脚本/ペドロ・アルモドバル出演/ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーアほか
2024年 スペイン映画 1時間47分 1月31日より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画②『ANORA アノーラ』
親しみやすいラブゲームを通して描く、引き裂かれる階層社会の実相
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カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞。『レッド・ロケット』のショーン・ベイカー監督が身分違いのラブゲームを通して描く破格の人生賛歌。ニューヨークのストリップダンサーが、超富裕層のロシア人青年の契約彼女になったことから珍騒動が巻き起こる。時代背景はトランプ第一期政権下の2018年。シンデレラストーリーを基盤にした親しみやすい物語でありながら、“1%対99% ”に引き裂かれる階層社会の実相を抉るポリティカルな戯画でもある。完璧な出来!
『ANORA アノーラ』
監督・脚本/ショーン・ベイカー出演/マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテインほか
2024年 アメリカ映画 2時間19分 2月28日より全国公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画③『TATAMI』
柔道界の実話に基づいた、自由と尊厳を守る不屈の戦い
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イスラエルとイラン出身の監督が共同で手掛けた快作。女子柔道を題材に、実話に基づいた不屈の戦いの物語が展開される。舞台はジョージアで行われる世界柔道選手権。金メダルを目指すイラン代表の選手レイラが直面する理不尽な強要とは? 政治と個人の関係をモノクローム映像で炙り出し、自由と尊厳の大切さを骨太に描いている。2023年の東京国際映画祭では審査委員特別賞と、監督と出演を兼ねたザーラ・アミールが最優秀女優賞を獲得した。
『TATAMI』
監督/ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール出演/アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミールほか
2023年 アメリカ・ジョージア映画 1時間43分 2月28日より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。