【Penが選んだ、今月の音楽】
『GNX』
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ロサンゼルス・ドジャースへの移籍1年目に前人未到の「50-50」を達成し、チームをワールド・チャンピオンへと導き、自身、ナ・リーグMVPに輝いた大谷翔平の活躍はいまだ記憶に鮮明だろう。一方、ドレイクとの歴史的ビーフに圧勝し、ヒップホップ界のMVPの座を手に入れたケンドリック・ラマーもまた、昨年のアンセム的ディス曲「Not Like Us」でLAやコンプトンへの地元愛と団体を熱い言葉で紡いでいた。2024年、どうやら天使はアメリカ西海岸の都ロサンゼルスに舞い降りていたようだ。
そのケンドリックが昨年11月22日、前触れもなく緊急リリースした6作目『GNX』は、彼がドジャース戦で出会ったマリアッチ歌手の朗々とした歌声で幕を開ける。従来のアルバムのような明確なコンセプトは見当たらず、怒りと地元愛を詰め込んだ「Not Like Us」の延長上でつくりあげた作品と言える内容だ。それも怒りはドレイクからヒップホップ界全体へと矛先を広げ、地元愛はコンプトン出身の無名ラッパーを数多く迎え入れるかたちで具現化されている。
サウンド的にもベースが弾むようにスウィングする「Not Like Us」路線の曲を多数収録する、西海岸らしいGファンク&ハイフィー系の作品だ。ハードなビートが響く中、SZAを迎えた、故ルーサー・ヴァンドロスの歌声を抽出したロマンティックなR&Bバラード「luther」が、アルバム全体の沸点をクールダウンさせてくれる。テイラー・スウィフトやサブリナ・カーペンターを手掛けたジャック・アントノフが12曲中11曲でプロデュースしているのだが、相性のよさはこんなところにも顔を出す。
実は本作、デビュー前から所属していたトップ・ドッグ・エンターテインメントから独立して放つ初作品でもある。創造的自由を獲得した男の進撃は続く。
![2_(ジャケ写)Album Cover - Kendrick Lamar_GNX.jpg](/uploads/f03ad3439c93e88a616ce3dcc57e1b25c972d6d4.jpg)
※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。