視点と身体を透過し、世界の質感に立ち戻る体験――『雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館』展が開催

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)
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『Apple』 2023年 林檎材に油絵具

雨宮庸介の代表作、しどけなく溶けたりんごの彫刻はひと目で忘れがたい印象を残していく作品だ。1975年茨城県生まれの雨宮は、彫刻や映像インスタレーション、パフォーマンスなど多彩な手法で、日常の事象にわずかなズレを重ね、人間や世界の普遍性にゆさぶりをかける創作活動を展開してきた。彼自身の人生と常にパラレルな関係にありながら、日常の地続きから次元を超えていくような時空の歪みを想起させるスケールの表現は近年高く評価されている。

2022年までベルリンを拠点とし、現在は山梨県で川魚を手づかみで獲る野性に満ちた生活を営む作家の代表作を一度に体験できる個展が開催中だ。最初期の青々と瑞々しい作品群はそれらを25年前に目撃した筆者の感情を再びざわつかせ、巨大なライトテーブルに並べられた歴代の溶けたりんごとおびただしい量のドローイングは創作の過程と昂揚を伝えてくる。

だがそれ以上に心を鷲づかみにされるのが、ワタリウム美術館を舞台に開幕直前まで制作していた最新VR作品と、21年に表された映像インスタレーション『石巻 13 分』の記録映像である。雨宮はこれまで、どこまでが本当で嘘なのか不可解なレクチャーで観客を別世界に引き込んでしまう独自のパフォーマンスを何万回も上演してきた。驚くことに彼のVR作品はそれらとまったく同質の情動と考察の萌芽を生じさせるものだった。そして後者の作品体験もまた石巻の現場で実際に体験した時と寸分違わぬ「読後感」を残していく。それは雨宮の作品に現れるすべてのテキストやイメージが、彼自身の身体を透過させることによって肉体化されたものだからである。観客もまた自らの視点を重ね、VとRの境界を潜り抜けて、この世界の生の質感に立ち戻ることができるはず。

『雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館』

開催期間:~3/30
会場:ワタリウム美術館
TEL:03-3402-3001
開館時間:11時~19時 
休館日:月曜日(2/24は開館)
料金:一般¥1,500
www.watarium.co.jp

※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。