いま勢いのある日本人作家の個展から、知られざる重要作家の大回顧展など、2025年上期に訪れるべき必見の展覧会を紹介する。
現代アートのシーンで、次世代の作家たちが面白い。新時代のアーティスト38名の紹介に加え、足を運ぶべき展覧会やアートフェア、さらに現代アートを楽しむための基礎知識まで話題を広げた、ガイドとなるような一冊。2025年は、現代アートに注目せよ!
『2025年に見るべき現代アート』
Pen 2025年3月号 ¥880(税込)
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『今津 景 タナ・アイル』──インドネシアに拠点を移し、神話を表現した作品世界
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2022年 油彩、キャンバス 194×194cm TAKEUCHI COLLECTION courtesy of The Artist, ANOMALY, and ROH
インターネットやデジタルアーカイブから採取した画像をもとに下図をつくり、色彩豊かな油彩画を描く今津景。2017年に拠点をインドネシアのバンドンに移し、近年は立体やインスタレーションへと表現の幅を広げ、制作を続けている。東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『今津景 タナ・アイル』を企画したキュレーターの瀧上華は次のように話す。
「もともと今津さんは美術史への意識が強い作家です。時代ごとの視覚表現の連なりを美術史と捉え、現代のテクノロジーを駆使した表現を追求するなど、自分自身を作品に押し出すことなく制作を続けていました。インドネシアに拠点を移したことが転換期にあたるかと思うのですが、言語も宗教も異なる環境に身を置き、その身体的な経験から得たものをより作品に取り入れるようになったように思います」
19年にインドネシアで子どもを出産。自身とインドネシアのつながりに、なにかしらの変化があったのではないだろうか。
「インドネシアに行ってからも、リサーチをベースにしながら、デジタル画像などを用いた作品制作を続けています。そこで興味深いのが、リサーチした事象もデジタルアーカイブの素材も、自分に引き付け、自らの物語として表現する力があること。そうして生まれた作品を見て、今津さんの体験と作品世界との共鳴を感じられることが、なにより魅力的です」
インドネシア語で“故郷”を意味する「タナ・アイル」展で、今津の作品世界を体感したい。
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『Anda Disini』は、英語で「You are here」。案内図などで「現在地」として用いられるインドネシア語だ。今津が初めてバンドンに滞在したとき、第二次世界大戦中に日本軍が掘った洞窟がある国有公園を訪れた。その公園の地図にそう書かれているのを見て、今津はハッとさせられたという。偶然赴いたバンドンにいる、日本人の自分。そこからの未来を予感させる言葉でもある。 2024年 油彩、キャンバス 300×200cm 作家蔵 courtesy of The Artist and ROH
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今津景
アーティスト
1980年、山口県生まれ。2007年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了。現在はインドネシアのバンドンを拠点とする。22年にドイツの「ドクメンタ15」、24年にバンコクビエンナーレに参加するなど、国内外で大きな注目を集めている。
『今津 景 タナ・アイル』
開催場所:東京オペラシティ アートギャラリー開催期間:~3/23
TEL:050-5541-8600
開館時間:11時~19時
休業日:月(祝休日の場合は翌火曜日)、2/9
料金:一般¥1,400
www.operacity.jp/ag/
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『ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ』──前衛美術家の夫妻による、ジャンルを超えて生まれた異色のコラボレーション
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ゾフィー・トイバー=アルプ 1927年 アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト
ダダやシュルレアリスム、デ・ステイルに端を発する抽象表現など、20世紀前半の前衛芸術の最前線で活動を続けながら、夫婦でコラボレーションも行ったゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプをご存じだろうか?
テキスタイル・デザイナーとしてキャリアを開始したゾフィー・トイバーは、幾何学的な形態による構成を絵画や空間表現へと展開。一方、詩人でもあるジャンは、偶然に生まれる形態に基づき、コラージュや彫刻などを数多く手掛けた。幾何学的抽象と色彩理論の研究を基盤に創作に取り組んだゾフィー・トイバーは、デザイナーとしての感性と、抽象表現への明晰な理論とを併せ持つ人物だ。女性アーティストの先駆的存在として、その創作活動を包括的に紹介する貴重な機会となる。一方のジャンは、有機的なフォルムの彫刻作品がよく知られる作家だが、絵画や詩にもフォーカスし、視覚と言語の相関関係が浮かび上がるような展示を予定している。夫婦それぞれがジャンルや制作手法にとらわれることなく、また、個別の主張のみに固執することもなく、軽やかにコラボレーションに携わった姿勢は、現代の表現者たちを先取りしているといえるだろう。
会場はアーティゾン美術館で3月1日から6月1日まで。ゾフィー・トイバーの作品50点、ジャン45点、そして両者のコラボレーション作品14点の計99点が出品される。互いにどのように想像力を刺激し合ったのかが、多彩な作品群から見えてくるはずだ。
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ジャン・アルプ 1950年頃 アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト © VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4772
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ゾフィー・トイバー=アルプ(左)とジャン・アルプ(右)
アーティスト
ゾフィー・トイバー=アルプ(1889~1943)は、スイスの芸術家で、画家、彫刻家、テキスタイルデザイナー、ダンサーとして活躍。ジャン・アルプ(1886~1966)は、詩人として活動し、コラージュやレリーフ、彫刻などを制作。20世紀前半を代表する前衛芸術家のカップル。 © VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4762
『ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ』
開催場所:アーティゾン美術館6階展示室開催期間:3/1~6/1
TEL:050-5541-8600
開館時間:10時~18時(毎週金曜日は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
休業日:月(5/5は開館)、5/7
料金:ウェブ予約一般¥1,800、窓口一般¥2,000
www.artizon.museum
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『松山智一展 FIRST LAST』──ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト、待望の大規模個展がついに東京で開催
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2024年 アクリル、キャンバス、ミクストメディア 267×470cm TAKEUCHI COLLECTION courtesy of The Artist, ANOMALY, and ROH
2020年に、新宿駅東口駅前でステンレス製の高さ8mに及ぶパブリックアート作品『花尾』を発表し、一昨年から昨年にかけて弘前れんが倉庫美術館で『松山智一展:雪月花のとき』と題する個展を開催した松山智一が、満を持して東京で大規模個展を行う。新たなアートスポットとして注目される麻布台ヒルズ ギャラリーを会場に、日本初公開となる大規模作品15点を含む、約40点が展示される予定だ。
展覧会名にもなっている作品シリーズのタイトル「First Last」は、「最初で最後」を意味する言葉。作家はそこに、後の者が先になり、先の者が後になる、という解釈を込めたという。多様なビジュアル素材をサンプリングし、マッシュアップすることで、時代も洋の東西も主義も流行も超えた表現を目指す松山のフラットな目線と、混沌とする現代社会へのパラドキシカルな問いかけを読み取りたくなる。
「国や言語、文化や世代を超えていま同じ時代を生きる私たちだからこそ感じることがあると思っています。作品世界に足を踏み入れ、鑑賞者としてだけでなく、作品への参加者、対話者として体験してもらえればと思います」と個展開催に際してメッセージを寄せる松山。初期代表作の1点に数えられる横幅6mを超える大型作品『We Met Thru Match.com』から、立体作品や最新のペインティングシリーズまで、無数の色を駆使した色彩の世界へと来場者を誘う。作品を体験した後に、瞼の裏に残るイメージまでを堪能したい。
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2023年 FRP、木、スチール、エポキシ、ポリウレタン、アクリル 196×118×104cm
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松山智一
アーティスト
1976年、岐阜県生まれ。少年期をアメリカで、青年期を日本で過ごし、大学卒業後にニューヨークにわたり制作を続ける松山智一。近年はイタリアや中国でも大型の個展を開催するなど、発表の場を国際的に広げ続けている。 photo: FUMIHIKO SUGINO
『松山智一展 FIRST LAST』
開催場所:麻布台ヒルズ ギャラリー開催期間:3/8~5/11
TEL:050-5541-8600
開館時間:10時~18時(月~木、日) 10時~19時(金、土、祝前日)
休業日:会期中無休(予定)
www.tomokazu-matsuyama-firstlast.jp
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