北村匠海「演じた先に見出した、映画のつくり手という新たなフィールド」【創造の挑戦者たち#98】

  • 写真:野村佐紀子
  • 文:SYO
  • スタイリング:鴇田晋哉
  • ヘア&メイク:佐鳥麻子(C-LOVe)
Share:
北村匠海●1997年、東京都生まれ。2008年、 映画『DIVE!!』で映画デビュー。11年、4人組バンド「DISH//」のメンバーとしても活動開始。『君の膵臓をたべ たい』で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その他数々の話題作に出演。25年『世界征服やめた』で短編映画監督デビュー。

小学生の頃から20年弱、芸能の世界に身を置いてきた北村匠海。映画『東京リベンジャーズ』やNetflix シリーズ『幽☆遊☆白書』などのヒット作に出演し、リーダーを務めるバンド「DISH//」では楽曲「猫」がバイラルヒット。今春よりNHK連続テレビ小説「あんぱん」の放送も控えるなど、その活躍は誰もが知るところだ。そんな彼が新たな挑戦に打って出た。企画・脚本・監督を務めた短編映画『世界征服やめた』だ。

2011年に世を去ったポエトリーラッパー・不可思議/ wonderboy の同名曲と10代で出合い、「学業と仕事の狭間で孤独に苛まれていた自分の感情を初めて言語化してくれた」と強く影響を受けた北村が、俳優・萩原利久と藤堂日向を迎えて撮り上げた本作。会社員の鋳型に自分を嵌めようとするも、感情がついていかずに苦しむ彼方(萩原)と気の置けない同僚・星野(藤堂)の人生に生じる変化を、冷静で俯瞰的な客観性と切実な主観性を巧みに配分して見事に描写している。

02_202411210084_2_C01.jpg

今回の映画化に際し、北村がキーパーソンに挙げた人物が3人いる。ひとりは2010年の映画『シュアリー・サムデイ』で、監督と出演者として組んだ小栗旬。そして、同年に発表されたRADWIMPSの「携帯電話」のMVで出会い、以降多くの作品でタッグを組んできた月川翔監督。さらに、23年の映画『スクロール』の監督を務め、本作では監督補・編集として参加した清水康彦。この三者との縁が、初映画監督作の実現につながっていった。

「小学6年生の時に『シュアリー・サムデイ』に出演させていただき、小栗旬さんの姿を見て役者が監督をやることへの憧れを抱くようになりました。当時、小栗さんはいまの僕とほぼ同い年だったかと思いますが、役者との向き合い方がとてつもなく誠実で、幼少期を演じた僕に『お前が主役だから』と言ってくださったんです。そんなことを言われたのは生まれて初めてで、『この誠実さに、俳優である小栗さんが監督をやる意味みたいなものがあるんだ』と子どもながらに感じたことを覚えています」

その後、楽曲「世界征服やめた」と出合い、なんらかのかたちで作品をつくって恩を返さなければならないという想いが芽生える。そして、19歳の時に映画『君の膵臓をたべたい』のプロモーションで日本一周くらいの距離を回り、トータルで約400媒体もの取材を経験した。

「そこで、映画をつくって広めることを学びました。その果てに、自分は映画をつくりたいんだと気づかされ、監督として作品をつくりたいと思いました。ただ、どうすれば実現できるかまったくわからず、毎年言い続けていたら『スクロール』のキャスティングプロデューサーさんと自分のマネージャーさんが叶えてくれました。ちなみに、本作にはその『スクロール』のスタッフさんも参加してくださっています。僕はあの現場で感じたクリエイティビティが大好きで、皆も自分の感性を理解してくれていたため、円滑に進められました。そして清水さんは、現場でも編集時にも本当に助けてくださいました」

---fadeinPager---

ひとつの目標を叶え、さらなる自身の表現を追求

03_202411210102_2_C01.jpg
ジャケット ¥402,600、パンツ¥103,400、シューズ(参考商品)/すべてバリー(バリー・ジャパン カスタマーサービス TEL:050-1743-8146)

本作を通じて、「俳優として現場にいる時はカメラの画角で物事を見ていませんが、監督としてモニター越しに見える世界は新鮮でした。また、脚本執筆時の言葉選びや長回しの屋上シーンなど、こういうところに自分が出るんだという発見が多々ありました」と自己をかたちづくる要素に気づかされたという。今後の監督業への展望を聞くと、「『最強のふたり』や『このサイテーな世界の終わり』のような、一緒に旅ができる仲間探しをテーマにしたロードムービーをつくりたい」と具体的な答えが返ってきた。俳優、アーティスト、映画監督̶̶ーー無尽蔵に思える北村の表現欲求はどこから来るのだろうか。

「たとえば、自分でも良い演技ができたと思ったものが、自分が想像した以上に反響があったり、逆に良いと思ったものがあまり良い反応を得られなかったりなど、そういった経験の積み重ねが、僕を生かし続け、頑張らせてくれていると感じます」

作家性に傾倒せず、多くの観客に届く普遍的な表現方法を模索中だという北村匠海。「未来が楽しみ」と語るその表情は、実に頼もしい。

---fadeinPager---

WORKS
映画『世界征服やめた』

04_【FIX】世界征服やめた_キービジュアル.jpg
©『世界征服やめた』製作委員会

会社員生活にうまく溶け込めず、生きる気力をなくした彼方(萩原利久)と、彼を気に掛ける楽観的な同僚・星野(藤堂日向)。ある出来事を境に、ふたりの人生に変化が訪れる。北村匠海が企画・脚本・監督を務める。井浦新も友情出演。2月7日より全国順次公開。

---fadeinPager---

映画『スクロール』

05_【セルBD】「スクロール」.jpg
©橋爪駿輝/講談社 ©2023映画『スクロール』製作委員会

北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音が仕事や人間関係、将来に悩む若者に扮した青春群像劇。監督は『CUBE 一度入ったら、最後』の清水康彦。Blu-ray&DVD発売中。¥5,500(Blu-ray)¥4,400(DVD) 販売元:ハピネット・メディアマーケティング

---fadeinPager---

映画『君の膵臓をたべたい』

06_君の膵臓をたべたいDVD通常版ジャケット(表1).jpg
©2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 ©住野よる/双葉社

内気な高校生と闘病中の同級生による切ないラブストーリー。監督の月川翔と北村は、『君は月夜に光り輝く』などでもタッグを組む。Blu-ray&DVD発売中。¥5,170(Blu-ray)¥4,180(DVD) 発売元:博報堂DYミュージック&ピクチャーズ 販売元:東宝

※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。