2021年のデビューから4年。三宅一生が最後に立ち上げたブランドの一つ「IM MEN(アイム メン)」が初めてパリでのコレクションショーに挑んだ。ランウェイショーのみならず、エキシビションも開催するという意欲的なもので、ともにテーマは「FLY WITH IM MEN」。新たな始まりでありながら、これまでの集大成をも思わせる充実したデビューコレクションとなった。
さまざまな表情を見せる一枚の布
ショーを貫いたのは三宅が生涯を通じて追いかけた「一枚の布」の可能性、その新たな探求だ。まずは一枚の布という存在の純粋さを示すように、いくつもの白を重ねたルックから始まった。秋冬のコレクションと思えぬほど布は柔らかに踊り、その軽さを示す。一枚の布はさまざまな表情を見せるが、そのたっぷりとした布使いに弱々しい印象はない。新素材のテキスタイルと日本古来のテクニックを随所に取り入れながら、コート、シャツ、ブルゾンなどの仕立てにも目を向けつつ、それぞれに一枚の布から生みだされるという大胆なアイデアで再構築した。抑揚の効いた色づかいはやがて鮮やかなカラーパレットへ広がり、祝祭的な雰囲気へ。端的に、布への想いが貫かれたコレクションだ。
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デザインとエンジニアリングに精通した、独自のチームで編成
これが実現できたのは、デザインチームを率いるデザイン/エンジニアリングの河原遷、板倉裕樹、そしてテキスタイルデザイン/エンジニアリングの小林信隆の豊かな経験と視点があるからに他ならない。今回のショーにはインスピレーションソースがある。三宅が1977年7月に東京と京都で3日間にわたって公演を行ったショー「FLY WITH ISSEY MIYAKE」だ。このショーは一般に広く開かれたもので、その考えは今回のエキシビションにもつながる。三宅は当時のインタビューで、とにかく自由であることについて多く語った。そこで、ショーは「考えすぎず、自由に」という姿勢を打ち出したとデザインチームのメンバーは声を揃える。河原は、ショーの直前にシンプルなメッセージを伝えたいと語った。
フィナーレはダンサーを起用し、一枚の布から生まれる服の構造や軽さを表現。まさに会場を「フライ」した。ショー、エキシビションともにインスタレーションは吉岡徳仁によるもの。ショーではロボットアームとモデルの動きが連動する瞬間も。ショー終了後、そのままエキシビション会場に。
「今回は、これまでのものづくりのプロセスから自由になって考えようと試みました。日常を楽しむ一枚の衣服をもって、みなさんと精神的な繋がりを得たい。その実現において、さまざまなものを削ぎ落とすことから始めたのです。すべてを削ぎ落とした先になお残ったのが『一枚の布』という考えです」
新しい日常着、その中で驚きや喜びを感じさせるものを。ショーという舞台でも、テキスタイルの可能性とかたちの模索を両面から追求する取り組み方は変わらない。デザインとエンジニアリングに精通したチームで運営するという、他のコレクションブランドにはない独自の編成で、仕組みそのものから新しさを社会に提示する。テキスタイルの開発を担当する小林は、「今回は先行するデザインにあわせてテキスタイルを開発するというよりも、両面から開発を進めながらブラッシュアップすることができました。伝統的な技法でも、たとえば絣(かすり)を使ったテキスタイルは普通やらないような大きな柄に挑戦しており、柄そのものを生かした衣服の形になっています。そうした試みが多いコレクションとなりました」という。
一枚の布、衣服のあり方、素材など、さまざまな面から新たな可能性を打ち出す「IM MEN」。さらにデザインとエンジニアリングに精通したチームが、素直に意見を交わしながら制作する類を見ない編成も、新たなあり方を提示するものだ。多くのパターンを担当した板倉は「互いの思いを話し合い、最後には共鳴しあえるチームです。僕らが代表として前面には出ていますが、さまざまなスタッフに支えられ、これまでの経験も活かしながらものづくりに取り組んでいます。今回はメンズ服に目を向けつつも、硬くならないことを念頭に置いていました。僕らが今回描いたのは遠い未来ではなく、フライという言葉通り、一枚の布が空高く飛んでいくイメージ。みなのおかげで宇宙に届くような高さを得られたのではないかと思います」という。
一方で河原は、今回のショーで発表したさまざまなアイテムは「一枚の布という根源的なテーマから生まれた一つの可能性にすぎない」ともいう。
「僕らはいまも、心の中のいる三宅と会話を続けています。三宅はどう考えるだろうかと。だけど守るべき大事なものがある一方、それに縛られ続けては三宅から受け継いだものを拡張することができない。三宅のビジョンは百年先を見ていましたから、僕らはそれをつないでいく役割も担わねばならない。ただ拡張していくには可能性をどんどん開いていく必要もあります。三宅がよく言っていたのは、まず動くこと。そして人種や性別などの垣根を超えて、誰もが楽しめるプロダクトを作りたい。そうしたビジョンを大切にしていくことが、『フライ』という言葉に象徴されています。そのためにこそ、自由であれと三宅は教えてくれたように思います」
新たな挑戦の始まりを迎えた「IM MEN」。そのさらなる活躍へと期待が高まるファーストコレクションであった。
※IM MENのファーストコレクションへの道のりに密着取材したレポートを、5月号「Pen」(3/28発売)誌面にて掲載予定
イッセイ ミヤケ
TEL: 03-5454-1705イッセイミヤケ公式サイト:https://www.isseymiyake.com/blogs/news/17718
IM MEN公式Instagram:https://www.instagram.com/im_men_official