まるで博物館! 伝説級のクルマが揃う、ジャガー・ランドローバー・クラシックワークスを知っているか?

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Jaguar LandRover Classic Works
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「ジャガー・ランドローバー・クラシックワークス」は、ジャガーとランドローバーのクラシックカーを専門に扱う施設。ここでは、熟練した技術者がクラシックカーの修復、整備、メンテナンスを行っている。

世界中から集められたクラシックカーが最新の設備で整備され、認定中古車として販売。また、ガイド付きツアーも実施されており、歴史的な車両や修復プロジェクトを間近で見ることもできるのだ。訪れた様子をレポートする。

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英国にあるジャガー・ランドローバー・クラシックワークスの保管庫はまるでミュージアム。

博物館と高級車ディーラーの機能を併せ持ったような、ジャガー・ランドローバー・クラシックワークス(以下、クラシックワークス)。ジャガーとランドローバーの本社があるウエストミッドランズのライトン・オン・ダンズモアに本拠を置き、英王室が使っていた車両の保管、各種ドキュメントの管理、古い車両の修復、そして販売まで広く手掛けている。

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ウインストン・チャーチルと初期のランドローバー。(写真:ランドローバー)

ランドローバーは、ジャガーと並んで英国人にとってアイコン的な存在。米国のジープに匹敵するようなオフロード性能を持つ四駆で、当時は英国王室や英国首相も乗るほど格式のあったローバーが、セダンのパーツを使って開発し、1948年にデビュー。英国を中心に、ランドローバーは数多くのファンを生んできた。

たとえばポール・マカートニー。1973年に「愛しのヘレン(Helen Wheels)」なる陽気な雰囲気のシングルを発表しているが、実はこのタイトル、当時ポールとリンダ夫妻が乗っていたランドローバーのことなのだ。

信頼できるクルマで、スコットランドとノルウェイの中間ぐらいにあるシェトランド諸島からロンドンまで、マカートニー夫妻はドライブしていたそうだ。

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ポール・スミスと、自身がカラリングのアイディアを提供したスペシャルな「90」。(写真:LandRover)

クルマ好きで知られるファッションデザイナーのポール・スミスも長年、ランドローバーを所有しているひとりだ。イタリアに所有する別荘に置いてあり、行くたびにそこでのドライブを楽しんでいるとか。スミスは2015年に、ディフェンダー90の特別仕様を手掛けている。

特徴は27色におよぶパッチワークの車体色。スミスによれば、たとえば英国のカントリーサイド、たとえば英国陸軍用車両と、ディフェンダーの歴史を象徴する色を選んだという。

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上の段にはジャガーEタイプ、下の段には初期のランドローバーと夢のようなストック。

クラシックワークスには、かつての英女王、エリザベス2世が乗っていたランドローバーもあり(戦争中は車両部にいたエリザベス2世はクルマの修理も得意だったし、変速機はマニュアルを好んでいたとのこと)、レンジローバーでは1970年に初代を発表する前のプロトタイプも置かれている。

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クルマそれぞれの“歴史”をそのまま残す

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一見ボロボロに見えるが、ランドローバーにとっては大事な「歴史」という昔の車両。(写真:筆者)

クラシックワークスは、先述の歴史的な車両の場合は、あえてそのままの状態を維持するという。たとえばデポーに置かれていた50年代のランドローバーは、塗装が迷彩のようだった。

「オーナーが変わるたびに塗り直されて、それが部分的に剥げて、という状態でずっと乗られたきたんです。それを引き受けたとき、何層にもわたることなった車体色が、このクルマと、ひいてはランドローバーの歴史そのものだと私たちは判断し、現状を維持しています」

現場を案内してくれたニコラス・ウイルスン氏(Head Of Commercial, Classic JLR)は、このように説明してくれた。

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クラシックワークスを管理するニコラス・ウイルスン氏と、昔のランドローバーをベースに新しい技術でレストアした「ビスポーク」車両。
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クラシックワークスのレセプションには昔のモデルをいまの技術で1からつくった「ジャガーXKSSコンティニュエーション」も飾られていた。

私がクラシックワークスを訪れたのは、2024年11月だった。1万4000平米の敷地を持ち、建物内のレセプションは高級車のディーラーのよう。明るい外光が差し込むなかで、ランドローバーやジャガーが並べられている。

クルマ好きにとっての驚きは、そこに置かれた車両はどれも1940年代とか50年代につくられたはずのもので、それが新車のような輝きを放っていること。タイムスリップした感覚におそわれる。

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旧モデルをレストレーションする醍醐味

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ディフェンダー「ビスポーク」として製品化された「アイラIslay」。(写真:筆者)

クラシックワークスの仕事のひとつは、古いモデルのレストレーション。「ワークスビスポーク」といって古い車両をベースに現代的に車両を仕立てるサービスだ。

顧客はホームページのコンフィギュレーターを使って、自分の好みの車両をつくっていく。ベースモデルを2ドアの「90」か4ドアの「110」から選び、豊富な車体色、かたちの異なるシート、内装色、タイヤサイズなどを決めていく。

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ナビゲーションシステムまで搭載できる「ディフェンダー・アイラ」のインテリア。(写真:筆者)

V8エンジンとオートマチック変速機、それにナビゲーションシステムのモニターなどを組み込んだダッシュボードは現代のものを使う。キャンパー仕様も用意されている。

施設を歩くと54にのぼる作業ベイがあり、そこでスタッフがランドローバーやジャガーEタイプを組み立てている。大変ユニークな光景だ。ちなみにランドローバー90のビスポークは22万8000英ポンド(1英ポンド=194円として約4422万円)。決して安くないが、引き合いはひっきりなしだとか。

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ビスポークの注文があると顧客の希望によってはオリジナリティの高い仕様を仕上げることもある。
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ユニークなのは、当時の古い車両が現在も高い人気を保っていること。最新のディフェンダーなどと比較すると、決して乗りやすくはない。けれど、乗りこなす楽しみを与えてくれるのが、初期のモデル。それゆえ、ファンは世界中に多い。

「エンジンはV8のみです。これだと英国の排ガス規制をパスできます。ディーゼルエンジンでは規制の壁があって、搭載をあきらめました。電動化も試したことがありました。実際に1台完成させました。それも大事に保管していますよ」

まだまだ“進化”するランドローバー。ウイルスン氏はランドローバーのことを「マジカルプロダクト」と呼んだ。モーツァルトの歌劇「マジックフルート」(日本題はご存知のように「魔笛」で英語のマジックにあたる日本語がない)のように、ひとを魅了する力を持った製品、ということだろう。ただし、ランドローバーは音色だけでない。見て、触って、乗り込んで、と多角的なマジカルパワーをもつモデルなのだ。