世界ランキング1位のチェスプレイヤー「服装」が原因で罰金&トーナメントを棄権。その服装とは?

  • 文:宮田華子
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@DailyMailUK - Xアカウントのキャプチャ画像

昨年末、チェス界で大きな話題を振りまいた出来事が発生した。

 

世界ランキング1位のチェスプレイヤー、マグヌス・カールセン(ノルウェー)が「服装」を理由に罰金を科され、その後トーナメントを棄権するという前代未聞の事態が起こったのだ。

 

事件が起きたのは2024年12月27日、アメリカ・NYで開催された国際チェストーナメント「世界ラピッド・ブリッツチェス選手権」(World Rapid and Blitz Chess Championships)」である。主催団体である「国際チェス連盟(FIDE)」はカールセンは大会の規定に反する服装をして試合に臨んだとし、彼に罰金200ドルを科した。

 

その服装とは、ジーンズを着用していたこと。

 


本人のXアカウントより。「OOTD(Outfit of the Day=今日の服装)」というコメントと共に、この日の服装を投稿。

この服装に、会場の観客や他の選手たちは驚きを隠せなかったようだ。チェスは知的で格式高い競技とされ、ドレスコードを重んじる文化が根強い。そのため、多くのトーナメントではスーツやシャツ、ネクタイなどが推奨されている。

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急いでジャケットを着用、靴も履き替えたが…

カールセンはこの規定違反について「チェスは服装で評価されるべきではない」とコメントし、自身の行動を正当化した。しかし、主催者側は「大会の格式を保つための最低限のルールであり、全選手に公平に適用される」として彼の主張を退けた。

事態は「罰金」だけでは終わらなかった。この後すぐにカールセンは、大会を棄権。より騒ぎが拡大した。

棄権に至る経緯について、カールセン本人は次のように説明している。

「ラウンド前に昼食ミーティングがあり、急いで着替えなければならなかった」
「シャツを着て、ジャケットを着て、正直ジーンズのことなんて考えもしなかったし、靴も履き替えました」
「まず罰金を科されましたが、それはそれでいいんです。そして、着替えなければ(対戦できない)と警告されました。今日の第3ラウンドが終わったら着替えてもいいと言われました」


しかし第3ラウンド後、カールセンは着替えなかった。

「私は『明日は(服装を)変えます。今日は(ジーンズが規定違反だとは)気づきもしませんでした』と伝えましたが、大会側は『今着替えてください』と言いました。この時点で、私の主義に関わる問題となりました」

このやりとりの結果、カールセンは服装を変えないままトーナメントを棄権するという決断を下した。

棄権はしたものの、彼は大会側に「着替えの要求」の取り下げを求める訴えはしないことを表明。「正直に言うと、僕は(大会側に注意されたこと)を気にするほど若くないんです」と付け加えた。

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型破りなチェスプレイヤーとして有名

マグヌス・カールセンといえば、単なる「世界ランキング1位のチェスプレイヤー」ではない。彼はチェス界の異端児として知られ、そのスタイルや態度で何度も注目を浴びてきた。

幼少期から天才と称され、10代でグランドマスターの称号を手にしたカールセン。彼は決して伝統に縛られることなく、自由で柔軟な思考を持ち続けている。そのため、プレイスタイルはもちろん、彼の発言や行動にも常に注目が集まりがちだ。

過去にも彼は、型破りな行動やユニークなパフォーマンスで物議を醸してきた。試合中にリラックスした姿勢で座ったり、緊張感を感じさせない表情を見せたりするなど、他のトッププレイヤーとは一線を画す存在だ。

 

今年の夏、サウジアラビアで開催される「Esports World Cup」のチェス部門の広告塔になっているカールセン。

彼はチェスの普及活動にも積極的で、SNSやオンラインプラットフォームを活用してチェスの魅力を広める努力を惜しまない。その活動の一環として、彼は「チェスは誰でも楽しめるものであるべきだ」という信念を掲げている。

ファンの反応は「賛否両論」

今回の服装問題も、カールセンが持つこの信念から発した行動と見ることができる。チェスの本質は頭脳の戦いにあり、外見や服装に重点を置くべきではないという彼の主張は、一部の人々にとって新鮮で共感を呼ぶものだった。一方で、伝統も重視するファンからは、「競技の格式を軽んじる行為」として強い反発を招いた。

 

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「ジーンズで何が悪い?」「200 ドルの罰金と、翌日は正しい服装をするようにという明確な指示があれば十分だったと思います。トーナメントからの撤退は、FIDE 側にとってもカールセン側にとっても行き過ぎ」等、カールセンのX投稿に、様々な意見が返信されている。@Money_sh_ @H_D_Schaufert via @MagnusCarlsenのXアカウントのキャプチャ画像

 

今回の出来事はチェスという競技そのものが抱える課題を浮き彫りにしている。多くの人々にとってチェスは「古い」「堅苦しい」というイメージが根強い。しかし、カールセンのような新しい世代のプレイヤーがその殻を破ろうとすることで、競技がさらに発展する可能性もある。

この出来事を機に、「チェス界でドレスコードの見直しが進む」という事態には至っていない。しかし、伝統と革新の狭間で揺れるチェス界に一石を投じ、ファンたちの間で活発な議論が展開されるきっかけにはなったといえる。

今後もカールセンの挑戦的な姿勢は注目されつづけるはずだ。

 

【次ページ:動画あり】改めて見直したい!チェスを描いた名作ドラマ&映画紹介

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チェスをテーマにしたドラマや映画には、ゲームそのものに加え、心理戦やその背後にある人間ドラマが描かれているものが多い。この点こそ「チェス関連の映像作品」の魅力だろう。

 

ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』↓

 

このドラマを一気見し、その流れでチェスを始めた人は多かったはず。

映画『完全なるチェックメイト』↓

 

米ソ冷戦中の1972年、両国の威信を懸けたチェスの世界王者決定戦がアイスランドの首都レイキャヴィーク行われた。ボビー・フィッシャー(アメリカ)VSボリス・スパスキー(ソ連)の戦いを描いた作品。緊迫感を含め楽しめる。

 

 

映画『ボビー・フィッシャーを探して』↓

 

実在のチェスプレイヤーであるジョシュ・ウェイツキンの少年時代を描いた作品。ジョシュにチェスの才能があることを知った父フレッドは、かつてのチェスの名手であるブルース・パンドルフィーニにコーチを依頼する。ブルースはジョシュに、ボビー・フィッシャーのような天才性を感じ…。父フレッドが書いた同名ノンフィクション本が原作。