自然と伝統に根ざした、三重の新たなものづくり

  • 写真:齋藤誠一
  • イラスト:小林達也
  • スタイリング:廣松真理子
  • 文:藤村はるな
Share:

歴史ある伝統工芸に加え、独自の技術を取り入れた地場産品を誇る三重県。日本の重要な産業拠点である三重のものづくりの最前線を追う。

豊かな海や山の幸に加え、伊勢神宮や熊野古道といった歴史を有する文化遺産で知られる三重県。西と東を結ぶ交易地点として栄えてきたこの地では、三重発祥の真珠養殖をはじめ、伝統的な職人技と独自の技術を組み合わせたものづくりが数多く生まれてきた。その勢いは現代でも色褪せることなく、電子機器や半導体の生産を担う四日市市などは日本を支える産業地帯として繁栄している。

自然の恵みと職人技に裏打ちされたものづくりは、時代のトレンドや独創的な発想力によって、着実な進化を遂げつつある。その傾向は、真珠貝の廃材を活かしたエシカルな箸の製作や、スパークリング仕立ての日本酒の開発、さらに世界的にも注目される「陸上養殖」を用いたすじ青のりの販売など、新たな試みにも表れている。

受け継がれてきた確かな技術を絶やさぬ一方、世の潮流も機敏に捉え、時代のニーズも満たそうという思いのもと、三重の複数の事業者たちが参加するのが、今年で5年目となる「オール三重プロジェクト」だ。三重県内の事業者が地域や業種を超えて連携し、さまざまなコラボ商品を開発するこのプロジェクトでは、既存品とは一線を画す新商品が生まれている。次ページから紹介するアイテムの一例から、絶え間ない進化を遂げる、三重のクラフツマンシップを体感してほしい。

 

DMA-2.jpg
芳醇な味わいのすじ青のりは、全国から問い合わせも多い。

 

3_2.jpg
伊勢の地下海水を使って、高級青のり・すじ青のりを陸上養殖するのが南伊勢町にある「南伊勢マリンバイオ」。

 

4_3.jpg
真珠貝細工のスペシャリストである志摩市の「境工芸社」。熟練の技術が光る。

 

DMA-5.jpg
境工芸社が手掛ける「真珠箸」は、真珠貝の廃材から削り出した真珠層を表面に塗り込んだエシカルな商品。

 

DMA-6.jpg
箸の木材は、伊勢神宮の神域内で育った大木・御山杉を削り上げたもの。(c) HIDEKI NAWATE/SEBUN PHOTO /amanaimages

 

DMA-7.jpg
四日市市にある「伊藤酒造」の看板商品「鈿女(うずめ)」。名の由来は天岩戸で天照大神を踊りで誘いだした天鈿女命(あまのうずめのみこと)から。

 

DMA-8.jpg
伊藤酒造では、スパークリング仕立てやデザートワインのような日本酒をつくるなど、日本酒の新たな可能性を模索する。

 

DMA-9.jpg
日本の棚田百選に選ばれた「丸山千枚田」など、棚田の名所も多い。(c)Ken_Ken/amanaimages

 

---fadeinPager---

伝統に寄り添いながら革新する、三重の15の事業者とその代表的商品

 

10.jpg
桑名産焼きのり(マルキ商事)
香り豊かで旨味の強い養殖のりは伊勢国桑名の名産品。地元老舗問屋の目利きが光る。
14.jpg
木材(ダイマル)
住宅や古家具などの古材のリユースやアップサイクルを展開。伊勢古材の魅力を発信。
18.jpg
尾鷲甘夏(アマナツ テンマ ファーム)
樹齢60年超の古木でじっくり完熟させた尾鷲甘夏。農薬不使用で丸ごと食べられる。
22.jpg
森の表彰状(貫じん堂)
リアルに名前まで彫られた木製の表彰状は、豊かな森林資源を活かした製品のひとつ。

 

11.jpg
青の香り(南伊勢マリンバイオ)
香りと色、風味を追求した最高級のすじ青のり。和製ハーブの可能性に触れよう。
15.jpg
のりもも(百福)
のりの文化を100年先も伝えるべく、新しいのり、楽しいのりを商品として展開中。
19.jpg
真珠箸(境工芸社)
伊勢神宮の御山杉を削った箸の表面に真珠層を塗り込んだ「真珠箸」。色の種類も豊富。
23.jpg
揚げおもち(タイヨウ水産さじべ屋)
地元で人気の餅菓子。伊勢ゆかりの調味料ウマクナール味と伊勢海老味の2種。

 

12.jpg
おちびさんつゆだく(小杉食品)
通常の3倍近いタレが入った“つゆだく”納豆。糸切れがよく、さらさら食べられる。
16.jpg
グルメおから(横山食品)
100%国産大豆をまるごとすりつぶしてつくったおから。味もよく、ヘルシー。
20.jpg
伊勢鍋焼きうどん(めん処政成)
江戸から続く伊勢のソウルフードをなべ焼きにアレンジ。「味噌煮込みうどん」も登場。
24.jpg
ヒメシャラディフューザーセット(サカキL&Eワイズ)
大台町のヒメシャラの枝をディフューザーに。5種の樹木から抽出した香りが広がる。

 

13.jpg
鞍馬サンド(パンタロン)
京都の鞍馬山の物語をもとにした、和食材を中心とした独創的なサンドイッチ。
17.jpg
鈿女 リラクゼーション レベル3純米大吟醸(伊藤酒造)
デザートワインのような甘味と酸味が特長の日本酒。多国籍料理などとの相性もいい。
21.jpg
100% リサイクル プラスチックパネル(リマーレ)
地域の漁業従事者と協力して回収した海洋プラスチックを、パネルとして再生。

「オール三重プロジェクト」とは


三重県内の事業者が地域や業種を超えて、新たな商品開発に取り組むプロジェクト。年数回のワークショップを通じて第一線で活躍する各界の講師陣とともに商品開発を進める。5年目の今回は15事業者が参加。誕生した開発商品は県内外で展示販売の予定。

---fadeinPager---

地域や業種を超えて独自にアレンジ、三重の事業者たちによるコラボ商品

各事業者たちの地域や業種を超えたつながりとアイデアが、唯一無二のコラボレーションを生んだ。全商品をPen Onlineにて公開。

鈿女 スパークリング アワ×伊勢古材 贈答・お土産用ボックスセット
(伊藤酒造×ダイマル)

DMA-34.jpg

年数や風合い、色合い、木目などが異なる伊勢古材を張り合わせてつくった小さな木箱は、大工の道具箱を現代風にアレンジしたもの。小物や雑貨を入れるツールとしてのみならず、日本酒などとっておきのお酒を入れるための贈答用ボックスとしても活用できる。日本酒「鈿女 スパークリング アワ」は、2023年開催のG7三重・伊勢志摩交通大臣会合サンセットクルーズでも提供された。¥5,500(箱のみの価格)/伊藤酒造 × ダイマル

2024_1220_pen mie studio12779.jpg
箱の持ち手部分には、使われなくなった桐箪笥を再利用している。

 

ツナグ ヨメイリチェア
(ダイマル×ゲントー)

2024_1220_pen mie studio12756.jpg

築年数50年以上の古民家で、長年大切に使われてきた伊勢古材と桐箪笥を活用したスツール。桐箪笥といえばかつては嫁入り道具のひとつだったが、現代の生活様式にはそぐわないため、処分に困るという人も少なくない。そんな女性たちが大切にしてきた桐箪笥を、次世代へと受け継ぐためにアップサイクル。風合いやテクスチャーを残しつつ、汎用性の高いスツールに再利用し、新たな命を吹き込んだ。¥33,000/ダイマル

2024_1220_pen mie studio12771.jpg
座席部分には、収納スペースもあり。ディテールから桐箪笥の風合いを感じさせる。

 

スコーンサンド
(パンタロン×アマナツ テンマ ファーム×横山食品×伊藤酒造)

2024_1220_pen mie studio5640.jpg

津市産の小麦「せときらら」で焼き上げたスコーンをベースに、四日市市の日本酒や尾鷲市の甘夏でつくったジャム、津市でつくったおからのメープルフィリングなど、三重食材を詰め込んだサンド。4種類あるサンドは、三重にちなんですべて3種の食材を挟んでいる。添加物を控え、素材のよさを最大限に活かした優しい味わいからは、生産者たちの地元への深い思いを感じ取れるはずだ。1個¥330/パンタロン × アマナツ テンマ ファーム × 横山食品 × 伊藤酒造

ソース
(タイヨウ水産 さじべ屋×アマナツ テンマ ファーム)

2024_1220_pen mie studio5650.jpg

三重の海の幸と山の幸を見事に融合させたのが、このソース。三重の特産品である甘夏の果汁と乾燥させた粉末を、さじべ屋自慢の海藻の佃煮と風味豊かなオリーブオイルと混ぜ込んで味付けした独自の調味料が完成。魚介の濃厚な旨味に、酸味が加わり、海老や貝などのシーフードはもちろん、サラダや肉類とも相性のいい上品な風味に。三重の自然の恵みが凝縮された、贅沢な味わいを堪能しよう。1瓶¥750/タイヨウ水産 さべじ屋 × アマナツ テンマ ファーム

海苔のり節
(マルキ商事×百福×南伊勢マリンバイオ) 

2024_1220_pen mie studio5635.jpg

サクサクとした食感が魅力の焼きばらのりや陸上養殖で育った香り高いすじ青のりに、鹿児島県山川で製造された最高級本枯れ鰹節をあわせたふりかけ。素材そのものの旨味や風味、独特の塩味が織り成す調味料。無添加の自然な味わいが楽しめる。¥648/マルキ商事 × 百福 × 南伊勢マリンバイオ

2024_1220_pen mie studio5581.jpg
ご飯はもちろん、サラダや豆腐、焼きそばなどにもぴったり。一振りすれば、あらゆる料理の可能性が広がりそうだ。

 

シーシェルトレイ
(リマーレ×境工芸社)

2024_1220_pen mie studio12816.jpg

真珠養殖で知られる志摩市の真珠貝と海洋プラスチックを再利用してつくったのが「シーシェルトレイ」。ともに海の廃材とされる真珠貝と海洋プラスチックだが、貝殻に張り付いた真珠層の輝きを削り取り、プラスチックトレイの中に閉じ込めることで、海の中のゆらぎを感じさせる繊細な佇まいを実現した。キーケースやアクセサリー、腕時計などを置く、見せる収納として活用したい。1個¥5,000/リマーレ × 境工芸社

甘夏みりんぼし
(タイヨウ水産 さじべ屋×アマナツ テンマ ファーム×マルキ商事)

2024_1220_pen mie studio5612.jpg

海藻の群落・藻場を荒らし、生態系を壊す「海の厄介者」と呼ばれるアイゴ。近年、全国的に利活用が注目される白身魚を、旨味がたっぷり凝縮されたみりん干しに。三重県産甘夏のフルーティな酸味と、アゴとサバ、カツオの無添加の風味を加えることで、アイゴの磯臭さを消し去り、独特の味わいや肉厚な食感を引き立てている。ご飯のお供のみならず、お酒とも相性がよいので、酒肴としてもどうぞ。¥750/タイヨウ水産 さべじ屋 × アマナツ テンマ ファーム × マルキ商事

---fadeinPager---

プロジェクトを通じて生み出された、職人の叡智が結集する新商品

「オール三重プロジェクト」に刺激を受け、生まれた新商品を紹介。それぞれの商品から、三重の事業者たちが抱く志や価値観に触れてみてほしい。

ツナグ/伊勢古材 一輪挿し(ダイマル)

25.jpg

古民家や古くなった木工家具から救出した木材をアップサイクルするブランド、ツナグでは築50〜100年の古民家で見つけた伊勢古材を活用した一輪挿しを作成。風合いや木目に加えて、表面の傷すらもすべてオンリーワンとなるのは、古材ならでは。その味わいを存分に堪能してほしい。売り上げの一部は次世代の森を育てる費用へと充てられるため、そのシステム自体も非常にエシカルだ。¥2,500/ダイマル  

2024_1220_pen mie studio12789.jpg
花瓶部分となる端材は、固定されていないので、自分の好みでニュアンスを調整できるのも魅力だ。

ツナグ/伊勢古材 アートパネル(ダイマル) 

2024_1220_pen mie studio12794.jpg

同じくツナグのアイテムとして新たに登場したのが、伊勢古材のアートパネル。生まれてから100年以上経過した、貴重な古材の端材を組み合わせて作られた。海外からの輸入材を使った木製小物は多いが、国産の古材を使ったものは珍しい。自宅や職場などにひとつ置くだけで、温かみのある安らぎの空間を演出してくれる。お気に入りのポストカードやエアプランツなどを、お好みで飾ってみては。¥3,500/ダイマル

茶青(南伊勢マリンバイオ)

2024_1220_pen mie studio5601.jpg

環境保護などの視点から世界中で注目が集まる陸上養殖。その陸上養殖で栽培したすじ青のりに加えて、三重県産のほうじ茶やかぶせ茶などの茶葉を使った、4種のチョコの詰め合わせ。三重の特産品を利用した4粒は、旨味や渋みが際立つ個性的な味で、これまで経験したことのない感覚が楽しめること間違いなし。ぜひ好みの一粒を探してみては。毎年11月から2月までの冬季限定販売を予定。1箱¥1,150/南伊勢マリンバイオ

のりとろとろ(プレーン、うめ、ゆず)(百福)

DMA-27.jpg

厳選素材でつくった佃煮を、ジャムの小瓶のような食べ切りサイズで。使用するのは、三重の特産品である青さのりに、自然な酸味と軽やかな香りが特長の奥伊勢の柚子。そして、熊野地域の梅を用いて昔ながらの製法でつくった梅干し。お土産やギフトにもぴったり。左から、「のりとろとろ うめ」「のりとろとろ プレーン」「のりとろとろ ゆず」各¥350/百福

2024_1220_pen mie studio12834.jpg
無添加な自然素材を使用しているので子どもから大人まで安心して食べられる。

 

守・祓ケース(貫じん堂)

32.jpg

伊勢神宮の外宮や内宮をはじめ、三重にある神宮のお守りがぴったり入る手のひらサイズの木製お守りケース。木材として使用するのは、神宮杉。なかでも樹齢500年以上の御山杉のみを使っている。神宮の扉をイメージしたというデザインは、立てれば携帯できる小さな神棚としても利用できる。自宅はもちろん、旅行中であっても、いつでもどこでも伊勢を感じられるアイテムとしてお薦めだ。¥11,000/貫じん堂

納豆パウダー(小杉食品)

29_2.jpg

国産大豆をフリーズドライ加工した納豆パウダーに、粉末醤油やあおさ粉などをアレンジ。納豆のコクと旨味を見事に再現したパウダーは、野菜や肉、魚などにふりかけると、パンチのあるひと皿に早変わり。岩塩やソース、ドレッシング感覚で使いこなせるので、納豆好きには堪らない。温かい白米にたっぷりかければ、納豆ごはんの味わいも楽しめる。納豆の新たな可能性に気付かせてくれる。¥1,100/小杉食品

2024_1220_pen mie studio5585.jpg
サラダにかければ、ドレッシング代わりに。納豆好きにはたまらない。

 

素朴な大豆と米粉のドーナツ(横山食品)

2024_1220_pen mie studio5628.jpg

大豆と米粉をベースにした生地を、菜種油でカラリと揚げた一口サイズのドーナツ。懐かしい素朴な味わいとヘルシーながらももっちりとした食感で、食べ応えは抜群。余計な添加物はもちろん、小麦や卵などといった8大アレルゲンをひとつも使用していないため、アレルギー体質の人でも安心できるはず。冷凍パックを開封した後は、レンジで軽く温めるだけ。おやつとして手軽に食べられるのもいい。1袋3個入り¥440/横山食品

ネームタグ(リマーレ)

2024_1220_pen mie studio12806.jpg

海のゴミと呼ばれる海洋プラスチックを再生し、スタイリッシュなアイテムとして生まれ変わらせるマテリアル開発ベンチャーのリマーレ。製造過程で発生する100%リサイクルプラスチックの端材を、ネームタグとして活用。あえて加工しないことで、バラエティ豊かな形や色合いを純粋に楽しめる。好きな場所に穴を空け、名前を刻むことで、世界唯一のオリジナルのネームタグが完成する。¥1,500/リマーレ  

2024_1220_pen mie studio12800.jpg
他人の荷物と紛れやすいスーツケースなどにつければ、存在感あるアイキャッチに。

三重のいまを知る、数々のイベント

三重が誇る伝統工芸品や食材が一堂に集結するイベントが、2月を皮切りに東京や関西で続々開催される。「無印良品 銀座」の「つながる市 三重編」では、今回掲載したコラボ商品の販売に加えて、ワークショップやイベントなども行われる。また、「ワールド・ワン」店舗で開催される三重食材を使った独自メニューを試せる「三重の食フェア」も控えている。最新情報はそれぞれのウェブサイトで随時更新を予定。リアルな三重のものづくりを、その目で確認してほしい。

38.jpg
「無印良品 銀座」をはじめ、各フェアは家族連れにもお薦め。

無印良品 銀座
住所:東京都中央区銀座3-3-5
会期:3/7〜3/9
TEL:03-3538-1311
https://shop.muji.com/jp/ginza


ワールド・ワン

「三重の食フェア」として、神戸市内を中心にワールド・ワンの複数店舗にて実施。
会期:2/27〜3/16
TEL:078-333-8883
www.world-one-group.co.jp

 

衣 ジェネラルストア
住所:三重県伊勢市本町6-4 シャレオサエキ1F
会期:2/8〜2/22
TEL:0596-22-1128
www.kholomo.com

 

熾(イコリ)
住所:兵庫県神戸市中央区波止場町5-5 神戸ポートタワー2F
会期:2/27〜3/2
TEL:078-977-7636
www.kobe-port-tower.com/shop/icori

三重県雇用経済部 県産品振興課 

TEL:059-224-2336